第336話 レナの怒り

地属性エンチャント

「無駄だ、そんな魔法で……何っ!?」



掌に紅色の魔力を宿わせた状態でレナは魔法陣に触れると、魔法陣に亀裂が生じる。その光景を見てサブの弟子たちは動揺を隠せず、特に魔法陣を維持するシュリは信じられない表情を浮かべた。


彼女の作り出す「結界魔法」の魔法陣は物理攻撃にも魔法攻撃にも強靭な防御力を誇る。仮にボアの突進だろうがロックゴーレムの攻撃であろうと彼女の魔法陣には傷一つ付かないだろう。しかし、あろうことかレナの場合は素手で、正確に言えば「指」の力だけで魔法陣に亀裂を生じさせる。


これまでのレナは付与魔法の力を物体に宿し、重ね掛けを行う事で効果を増幅させていた。しかし、怒りに身を任せたレナは通常時よりも遥かに強力な魔力を掌に滲ませ、魔力を膨れ上がらせた。



「お、おいシュリ……何をふざけてるんだ」

「ぐっ……黙れ!!」



ブランも異変を察してシュリに話しかけるが、彼女は魔法陣を維持する事に集中する。しかし、そんな彼女に対してレナは右手に魔力を溢れさせながら指先に意識を集中させ、やがて獣の爪のように振り下ろす。


爪の形に魔力を変化させたのは別に意識したわけではなく、こうする方がより魔力を通りやすいと無意識に思いついた行動だといえ、レナは魔力の爪を勢いを込めて振り下ろす。



「邪魔っ!!」

「があっ!?」

「そんなっ!?」

「嘘だろ!?」



レナが腕を振り下ろした瞬間に魔法陣は決壊し、その影響かシュリは膝を付く。彼女の魔法が破られた事に5人は驚き、慌ててブランは掌を構えようとした。



「こいつ……」

「させるかっ!!」

「ふげぇっ!?」



対抗戦でブランの魔法を見ていたコネコは即座に彼が合成魔術を発動させる前に駆け出し、彼の顔面に蹴りを叩き込む。ブランは鼻血を出して膝を付くと、その間にレナも動いて厄介な魔法を掴むシュリを取り押さえる。


右手に魔力を宿らせたシュリの首筋に手刀を構えると、レナは目つきを鋭くさせて他の者に対しての警告を含めて怒鳴りつけた。



「動くな!!」

「ぐっ……!?」

「や、止めてください!!」

「止めるのは貴方」

「ひっ!?」



シュリを助けようとしたヘンリーという少年に対して、何時の間にか背後に移動していたシノが彼の首元に苦無を押し当てる。それに気付いた他の二人の魔術師は魔剣に手を伸ばそうとしたが、先にナオとミナが動く。



「動かないでください、この距離だと僕の拳の方が早いです」

「あ、あら~?」

「君も変な真似はしないで!!」

『…………』



大柄な女性にはナオが目の前まで近付くと、拳を顔面に構える。一方でミナは槍を取り出すと最後の一人の喉元に付きつけた事により、全員が硬直状態に陥った。


このままでは誰も動けないと思われたが、ブランだけは鼻血を抑えながらもコネコを睨みつけ、彼だけが取り押さえれていなかったため、彼女に飛び掛かろうとする。



「てめえ、このクソガキ!!」

「うわっ!?」

「どすこいっ!!」

「うおっ!?」



しかし、コネコに掴みかかる前にデブリが強烈な足踏みを行うと、教室内に振動が走り、ブランは尻もちをつく。そんな彼の前にデブリは歩み寄ると睨みつける。


ブランはデブリに気圧されそうになるが、すぐに気を取り直してデブリに殴りつけようとした。だが、それを見たレナが教室中に響き渡る大声で堂々と言い放つ。



「いい加減に城!!これ以上にここで暴れるようなら容赦はしない!!全員、表に出ろ。叩き潰してやる!!」

「ぐっ……」

「……望むところだ」

「あ、あわわっ……」

「あらら~……可愛い子だと思ったのに~」

『…………』



レナのあまりの気迫に魔術師達は気圧され、コネコ達も普段のレナとは全く違う雰囲気に圧倒される。しかし、やっと騒動を聞きつけたのか廊下から足音が鳴り響き、騎士科の担当を任されているゴロウが中に入り込む。



「何の騒ぎだ!!いったい何事だ!?」

「ゴロウ先生……」

「お前達は……どうしてここに魔法科の生徒がいる?」

「ちっ……おい、もういいだろ」



騎士科の教室に魔法科の生徒が居る事にゴロウは訝しみ、流石に相手が教師でしかも現役の将軍であるゴロウを前にしたらブランたちも無茶は出来ず、渋々と魔剣を下ろす。


レナ達の方も彼等が武器を下ろすと全員が離れ、ゴロウはそんな彼等を見てだいたいの意図は察した。だが、どんな理由であろうと教室内で暴れようとした事は許されず、全員を叱りつける。



「お前達、校内での戦闘は禁止されている。生徒同士が決闘を申し込む場合は教師に話を通せと言ったはずだぞ!!」

「はいはい、分かってますよ先生」

「ふざけているのか貴様はっ!!」

「ぐうっ……!?」



軽口を叩こうとしたブランに対してゴロウは一喝すると、あまりの迫力に今度こそ怖気ついたのかブランの顔色は悪くなり、他の生徒達も黙り込む。そんな彼等を見てゴロウはため息を吐き出し、全員に命じる。



「お前達を今から指導室に連れて行き、反省文を書いてもらう。倒れている生徒はすぐに医療室に運び込め!!」

『は、はい!!』



ゴロウの言葉にレナ達は従い、教室内の生徒達も倒れている生徒を運び出す。だが、今回の一件で騎士科の生徒と新たに訪れた5人の生徒の間に大きな溝が出来た事は間違いなかった――

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