第339話 氷華と炎華の改造
装備を受け取ったレナとコネコは感謝する一方、シノは自分も呼び出された事に不思議に思い、ムクチに尋ねた。
「おじさん、私を呼んだ理由は?」
「おじ……まあ、別に呼び方はどうでもいいが、お前を起こしたのはこいつを渡すためだ」
ムクチはそういうと二つの短刀を取り出してシノに差し出す。シノの分の装備も用意していたのかとレナとコネコは驚くが、彼女は二つの短刀を受け取る刃の確認を行う。
鞘から引き抜かれた短刀の刃は赤色と青色に光り輝き、それを見たシノは満足そうに頷く。一方でレナとコネコはシノが受け取った短刀の刃を見て何処かで見覚えがある事に気付き、二人とも同時に声を上げる。
「「それってまさか……」」
「イゾウが持っていた氷華と炎華……を、短刀に作り替えた」
「「えええっ!?」」
「な、何だ?どうしたお前達?」
シノの爆弾発言にレナ達は驚愕し、そんな二人の反応を見てムクチは戸惑う。イゾウの死後、彼が装備していた氷華と炎華はマドウが回収し、王城へと送り届けられたはずだった。
しかし、王城に送り届けられたはずの二つの妖刀が盗み出されるという事件が発生し、世間ではゴエモンの仕業ではないかと騒ぎ立てられた。だが、まさか盗み出されたはずの妖刀がこの場に存在し、更に短刀として作り替えられていたという事実に動揺を隠せない。
「し、シノ!?まさか、これ盗んじゃったの!?」
「どうすんだよおい、姉ちゃん犯罪者になったのか!?」
「な、何だと!?こいつはお前さんの物じゃなかったのか!?」
「どうどう、落ち着いて」
勝手に氷華と炎華を盗み出し、ムクチに担当として改造させたのかとレナ達は驚くが、そんな彼等にシノは取り乱さずに説明を行う。
「まず、この妖刀はそもそもイゾウの物じゃない。日の国で作り出された妖刀、つまりは日の国の所有物でもある」
「それはまあ、そうなるのかな?」
「この妖刀をヒトノ国が回収すれば日の国の盗品を保管する事になる。そうなれば国際問題」
「そ、そうだな……」
「だから日の国の人間である私が回収しても問題はない」
「いや、大有だろうが!!お前、俺に盗んだ代物を改造させたのか!?」
「落ち着いて、話はまだ終わっていない」
シノは短刀を手にして話を続け、妖刀として名を馳せた「氷華」と「炎華」の歴史を語る。彼女曰く、この二つの妖刀は他国の人間には渡せない理由があった。
「そもそもこの二つの妖刀は日の国の名工が作り上げた代物、だけど名工はこの二つの作品を最後に死んでしまった。その後は氷華と炎華は様々な武芸者の元に行き渡った」
「そ、そうなのか?」
「この妖刀が日の国の武器である事に違いはない、だけど所有者に関しては明確な存在はいない。日の国の殿様も将軍も呪われた妖刀という理由で所持するのを嫌っていた。イゾウはこれを何処かで手に入れてこの地に訪れたはず」
「じゃあ、その妖刀は明確な持ち主がいるわけじゃないと?」
「そういう事、だから日の国の人間である私が持っていてもおかしくはない」
「誤魔化そうとしてるけど、盗んだ事に変わりはないよな……」
「日の国の人間としてはヒトノ国が妖刀の呪いに悩まされるのを見ておけない……だから私が管理しておく」
「屁理屈じゃねえかっ!!」
シノの苦しすぎる言い訳にレナ達は呆れるが、ここまできた以上は他の人間に話せるはずもなく、シノの言い分にも一理ある。それに彼女によると自分の手元に置いておきたい理由が他にもあった。
「私がこの妖刀を盗んだのは事実、だけど私が盗んだ後にこの妖刀を取り返そうとした輩がいるのも本当。前に新聞に記載されていた王城への襲撃事件は覚えている?」
「あ、そういえば競売の日に王城に変な奴等が侵入してきたんだよな!!結局、全員が捕まったけど牢獄の中で自害したとかなんとか……」
「私が調べた結果、王城の武器庫が荒らされていたという情報を掴んだ。つまり、侵入者の目的はこの二つの妖刀だった可能性も高い」
「なるほど、盗賊ギルドとしても氷華と炎華は手放すのは痛い代物か……」
仮にヒトノ国が氷華と炎華を管理していたとしても、盗賊ギルドがそれを見逃すはずがなく、奪い去ろうとする可能性もあった。そう考えたシノは盗賊ギルドに盗まれるぐらいならば自分の手で盗み、更にムクチに改造してもらう事で自分の武器として装備した方が安全だと判断したらしい。
しかし、結果としては騙される形で妖刀の改造を行ったムクチは落ち込み、まさか盗品を改造させられるとは思わなかったのだろう。だが、妖刀という初めて扱う武器にムクチ自身も鍛冶師として初めて見る武器の興味を持ったのは間違いなく、今回の所はシノの行為を見逃す。
「たくっ……いいか、次はないと思え。俺をまた騙そうとしたらこの鉄槌でお前の頭をかち割るぞ。覚えておけよ」
「分かった、約束する」
「全く……ほら、もう出ていけ。俺はもう寝る、お前達は明日も学園だろう。早く休め」
「あの、ムクチさん……ありがとうございました!!」
「ありがとなおっさん!!」
「助かった」
「ああ、まあっ……せいぜい頑張れよ」
ムクチはそれだけを告げるとレナ達を追い出し、自分はそのまま工房へと引きこもる。何はともあれ、無事に装備を一新したレナ達は明日の対抗戦に備え、今度こそ身体を休ませる事にした――
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