第333話 ドリスVSブラン

――時は遡り、対抗戦は前回と同じように闘技台で行われた。但し、今回は魔術師同士の対戦という事で闘技台の上に障害物は用意されなかった。


ドリスの相手をしたのは最初に挑発紛いの行動を行った男であり、彼の名前は「ブラン」という。サブの弟子の中でも若手ではあるが、実力は確かで他の弟子たちからも一目置かれている存在という。



『よう、お前さんも初級魔術師なんだってな?同系統の魔術師同士、仲良くしようぜ?』

『お前さんも……?なるほど、やはり貴方も初級魔術師でしたか』



今回の対抗戦は「勝ち抜き戦」となり、先方であるブランは4人の魔法科の生徒を倒す。残されたのは大将を任せられたドリスだけとなり、彼女はブランを睨みつける。敗北した生徒達のためにも絶対に彼女は負けられず、ブランに勝利する事を誓う。


二人は距離を取って向かい合い、戦闘準備を行う。ちなみに今回は監視水晶は闘技台の四方に設置された柱に固定されており、闘技台の四方向から試合の動向を確認出来る。そして試合開始の合図をマドウが行う。



『試合、開始!!』

『先手必勝ですわ!!』

『きやがれっ!!』



ドリスは先手を取って右手に火球、左手に風圧の初級魔法を発動させ、彼女が得意とする「火炎槍」という合成魔術を放つ。威力は中級の砲撃魔法と同等、あるいはそれ以上を誇り、まともに浴びればボアであろうと一撃で倒す威力は誇る。


ブランはドリスが放った槍の形をした炎に対し、彼は余裕の笑みを浮かべて右手を伸ばす。そして片手のみで自分の得意とする「闇属性」と「火属性」を重ね合わせた魔法を発動させた。



『黒炎!!』

『くっ……!?』



ブランの掌から発生した黒色の炎が正面から迫りくるドリスの火炎槍を飲み込むように掻き消し、その光景を見たドリスは驚愕の表情を浮かべる。


事前の4試合でブランが扱う魔法は見抜いてはいたが、まさか自分の魔法さえも掻き消す威力がある事にドリスは動揺を隠せず、そんな彼女に対してブランは手元の黒炎を放つ。



『どうした、その程度か!!』

『きゃあっ!?』



火炎放射器のようにブランは手元の黒炎を放ち、ドリスは咄嗟に駆け出して回避するが、ブランは腕を振り張ると広範囲に黒炎を放出した。それに対してドリスは避けきれないと判断すると両手を前に差し出して魔法を発動させる。



『氷塊!!』

『そんな魔法で防げると思っているのか!!』



ドリスは前方に氷の壁を生み出し、黒炎を防ごうとした。しかし、ブランは笑みを浮かべて掌から黒炎の放出を止めず、火力を強化させて放つ。単体の属性で生み出した氷の魔法と、闇属性と火属性を組み合わせた合成魔術では威力が違い、徐々に氷塊は溶け始めていく。


氷の壁越しに放たれる黒炎の熱気を受けたドリスは苦痛の表情を浮かべ、このままでは氷が完全に溶け切って自分が敗北する事を悟る。彼女はどうにか打開策を考えるが、魔法を維持した状態では思考も上手く回らない。



(な、何ですのこの威力は……!?)



自分とて火属性の魔法は扱うが、ブランの生み出す黒炎は威力は凄まじく、しかも彼の場合は延々と炎を出し続けた。いくら燃費が良い初級魔法といえど、これだけの長い時間も使用していればブランの肉体にも大きな負荷が掛かるはずである。


それでも彼は笑い声をあげて攻撃を止めず、そんなブランに対してドリスは歯を食いしばり、自分も負けずに懐に手を伸ばして「魔丸薬」を取り出す。一時的に魔法の能力を強化させる薬であり、彼女は口に含もうとした。だが、ここでドリスのプライドが本当にこれを使っていいのかと躊躇してしまう。



(これはただの試合ではありません、魔術師同士の決闘です……!!これに頼れば私は卑怯者になりますわ……!!)



魔丸薬を使用して能力を強化すれば活路は導き出せるかもしれないが、ドリスは魔術師としてのプライドが許さず、正々堂々と勝ちたいと思った。彼女は目を見開き、右手で氷の盾を維持しながらも、左手を天に伸ばす。



『氷塊っ!!』

『あん、何の真似だ?何処を狙ってやがる!!』



空中に氷の塊を生み出したドリスに対してブランは訝し気な表情を浮かべ、追い込められて気が狂ったのかと考えたが、空中に誕生した氷塊は形を徐々に円盤のように変形する。最終的には「丸鋸」のように周端が尖り始め、高速回転しながらブランに向かう。


ドリスの得意とする「回転氷刃」を見たブランは慌てて彼女を攻撃する腕を上げ、黒炎で迫りくる回転氷刃を溶かす。時間がなかったうえに碌に集中せずに作り出された氷塊はあっさりと溶かされてしまうが、一瞬でも自分の攻撃が途切れる事に成功したドリスは駆け出す。



『はあああっ!!』

『なっ!?馬鹿がっ!!』



盾としていた氷塊を解除して自分に向かってきたドリスに対し、咄嗟にブランは掌を再び構える。しかし、それを予測していたドリスも先に掌を伸ばすと、お互いに至近距離にて魔法を発動させた。



『火炎槍!!』

『黒炎……うわぁあああっ!?』

『いかん!!そこまでじゃっ!!』



あまりにも近すぎる距離で魔法を発動させた事により、火炎槍と黒炎が衝突した影響で爆炎が誕生し、ドリスは右半身をブランは全身に炎を浴びてしまう。すぐにマドウが駆けつけ、試合の中断させて二人の容体を確認する。




――結果的には意識を保っていたドリスの勝利であり、吹き飛ばされたブランの方は気絶していた事で試合はドリスの勝利となる。しかし、その後に彼女は意識を失ってしまい、その後の試合は不戦勝という形でサブの弟子達の勝利が認められた。

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