第331話 シデの忠告

「こ、このっ……!!」

「ここまでだよ」

「ひっ!?」



小杖を失ったシデは咄嗟に魔剣を振り翳すが、それを籠手で受け止めたレナは腰に差していた魔銃を引き抜き、シデに向ける。


魔銃を見た瞬間にシデは顔色を青くさせ、どうやらレナの事を調べたというのは本当だったらしく、銃口を顔面に向けられたシデは怯えた表情を浮かべ、そんな彼にレナは淡々と告げた。



「まだ続ける?」

「……くそぉっ!!」



シデはその場に膝を付き、魔剣を手放す。その様子を見て敗北を認めたと判断したレナは魔銃を収めると、シデは悔しそうに涙を流す。そんな彼を見てレナは何か言おうとしたが、どんな言葉を賭けてもシデを傷つけると思い直す。


レナはそのまま黙って立ち去ろうとすると、空き地から抜け出す前にシデは悔し気な表情を浮かべながらも立ち上がり、大声でレナを引き留めた。



「ま、待て!!お前、魔法学園の生徒だったな!?」

「……そうだけど?」



魔法学園の名前を出した事にレナは戸惑うと、シデは涙を流しながらも魔剣を拾い上げ、ある情報を伝える。それはサブの弟子である彼だからこそ知っている情報だった。



「……師匠が言っていたんだ、近いうちに弟子の何人かを魔法学園に送り込むと言っていた」

「えっ……」



シデの言葉を聞いてレナはミナが話していた事を思い出し、近いうちに学園に新しい生徒が入ってくると聞いていたが、それがサブの弟子である事をシデは告げる。



「学園に入るのは師匠が認めた優秀な5人の生徒だ……俺はその中に選ばれなかった」

「シデ君……」

「だけど、俺は諦めない……絶対に師匠にも、お前にも負けない魔導士になってやる!!忘れるなよ、俺の名前はシデだ!!また、必ずお前に挑むからな!!」



レナに対してシデは諦めずに再戦を挑む事を宣言すると、彼は一足先に走り出す。その後姿をレナは見送った後、彼の言葉を思い返す。



「5人の生徒……か」



学園に入学する新しい生徒がマドウの右腕であるサブの弟子と知ったレナは気を引き締め直し、間違いなくその生徒達は優秀な魔術師だろう。少なくともサブが優秀だと判断した子供たちが送り込まれるのは確かだった――





――数日後、シデの忠告通りに魔法学園にて急遽朝礼が行われ、マドウが全校生徒の前に立つと5名の生徒の紹介を行う。



『皆の者、こんな朝方から急に呼び出して申し訳ない。しかし、我が学び舎に新たな生徒が仲間に加わる事を伝えよう。この者達はサブ魔導士の直弟子であり、今日から魔法科の生徒として編入する事が決まった』

「あのサブ魔導士の弟子!?」

「しかも直弟子って……」

「す、凄い……!!」



朝礼にてマドウは5名の生徒の紹介を行い、全員がレナ達の同世代と思われる年齢だった。男子は3人、女子が2人、恐らく全員が貴族の出身だと思われ、サブ本人と彼の弟子しか使用を許されない「魔剣」を所有していた。


5名の生徒は生徒達を見てそれぞれの反応を示し、緊張したよう頬が強張る者、見下すようにわざとらしく腕を組む者、特に興味がないとばかりに無表情で立ち尽くす者、ともかく全員が普通の子供とはかけ離れた雰囲気を抱いていた。


生徒の中にはあからさまに魔術師らしからぬ恰好をした人間も存在し、どうみても魔術師ではない体つきの者もいたが、マドウによると彼等は今後は魔法科の生徒として活動するという。



『今後は彼等は魔法科の生徒として通う事が決まっているが……既に彼等は学園で学ぶ範囲の魔術知識は習得している。なので彼等は座学の授業を受ける必要はない事を先に伝えておこう』

「授業を受けない!?」

「そ、そんな事が許されるんですか!?」

『色々と異議はあるだろうが、この5名は卒業後は既に魔導士になる事が確定しておる。この学園に入学したの実戦訓練を積み重ね、経験をするために訪れたという』



マドウの発言に生徒達に動揺が走り、座学の授業は免除され、あくまでも実戦方式の訓練を受けに来ただけという5名の生徒達に他の生徒は圧倒される。しかし、その内の1人がマドウの説明の途中で大声を上げる。



「そういう事だ!!俺達はここに来たのは勉強するためじゃない、魔導士になるまでお前等の競争相手として着てやっただけだ!!俺達の待遇に不満を抱くようなら、実力で俺達に勝っている事を示してみろ!!この出来損ない共がっ!!」

「な、何だと!?」

「調子に乗りやがって……!!」

「魔法学園の生徒を舐めるな!!」



サブが送り付けた弟子の一人の言葉に魔法学園の生徒達は怒りを抱き、特に同じ学科の魔法科の生徒達は憤る。その中にはドリスも存在し、彼女は手を上げると挑発した生徒を指差す。



「その言葉、聞き捨てなりませんわ!!この学園に通う生徒の中に出来損ないの人間などいません!!訂正しなさい!!」

「へえ、威勢が良いのがいるな……学園長、丁度いい機会です。この際に勝負しませんか?」

『ほう、勝負とは?』

「勿論、サブ魔導士の弟子である俺達と、マドウ学園長が指導を行う魔法科の生徒のどちらが優れているのかを競い合うんです!!」



サブの弟子の言葉に全校生徒に衝撃が走り、マドウの方もため息を吐き出す。

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