第328話 回想〈金色の隼〉 その2
「では本題に戻らせていただきますが、イヤリングは我々に売却して貰えないでしょうか?」
「それは……おい、レナ。本当にマドウさんには話を付けてくれるのか?」
「大丈夫ですって、何とかします」
「頼むぞおい……よし、分かりました。では金色の隼さんにイヤリングをお譲りしましょう」
「ありがとうございます!!」
ダリルが承諾するとルイとイルミナも笑みを浮かべ、ここでレナはある事に気付く。ダリルは気付いていないようだが金色の隼が差しだした金貨は500枚であり、先ほどは追加で金貨100枚を用意しているといったが、今の話ぶりだと金色の隼は机の上に置いた金貨だけで商談が成立したように思える。
折角金貨が100枚も余分に受け取れる好機にも関わらず、商人として致命的なミスをしてしまったダリルにレナは少し呆れてしまう。しかし、商会が設立してからこれほどの大金が手に入った事はないダリルは嬉しそうな顔を浮かべて金貨を受け取り、早速オリハルコンのイヤリングを用意させようとした。
「よし!!ではすぐに待っててくださいね!!イヤリングをご用意いたしますので……」
「お願いします」
ダリルが席を立つと急ぎ足で自分の部屋へ戻り、金庫の中に収納しているイヤリングを取りに戻る。残されたレナは冷静に考えれば自分も出て行けば良かったと思ったが、退室のタイミングを逃してしまう。
しばらくの間は沈黙が流れ、レナは気まずい雰囲気を覚えながらもルイとイルミナの様子を伺う。先ほど黄金級の昇格試験の推薦の話を断ったこともあり、自分の印象が悪くなったのかと思ったレナは今からでも部屋を出ていくべきか考えたが、唐突にルイの方から話しかける。
「競売での一件……レナ様の魔法に関してお尋ねしたい事があります」
「え?」
「私も同席はしていませんでしたが、ルイ団長から話しは伺っています。色々と質問したいことがあるのですがよろしいですか?」
ルイとイルミナがレナの付与魔法に関して質問を行いたいという言葉にレナは困り果て、いくら同業の冒険者といえども赤の他人である二人に自分の魔法の秘密をあまり
明かしたくはなかった。
だが、レナとしても競売で見せたルイの「魔法」に関しては気になる事があり、この際に彼女の魔法の秘密をしるため、敢えて自分も質問を行う。
「あの……それなら俺もルイ団長の魔法の事を教えて欲しいんですけど、あの時にコネコに何の魔法を施したんですか?」
「それは……」
イゾウに襲われかけたコネコにルイが何らかの魔法を施したのは間違いなく、実際に彼女はイゾウに斬られかける瞬間に異様なまでの跳躍力を手に入れた。結果的にはコネコはイゾウの攻撃を躱す事に成功し、無事にレナの元にヒヒイロカネのネックレスを渡す事に成功する。
あの時の魔法を見たレナはいったいコネコに何が起きたのかを尋ねるが、彼女本人も自分が何をされたのか分からず、話を聞いても要領が得なかった。しかし、ルイが商会に訪れた以上は魔法の正体を知る絶好の機会であり、自分の魔法を知りたければルイにも話すように促す。
「俺の魔法を教える前にルイさんの魔法を聞かせて欲しいです。図々しいと思うかも知れませんけど……」
「なるほど、交換条件というわけですか……流石は商人の息子さんですね」
「いや、ダリルさんとは親子関係じゃないんですけどね」
「そうなのですか?仲がよろしいので親子だと思っていましたが……でも、言われると顔は全然似てませんね」
「よく言われます」
ルイとイルミナは顔を見合わせ、仕方がないという風に二人は頷くと、まずはルイの方から自分の称号と魔法の正体を話す。
「私は支援魔術師です。聞いた事はありますか?」
「いえ……」
「レナさんの付与魔術師と同様、希少職の称号です。ルイ様は魔術師でありながら攻撃魔法は扱えません」
「攻撃魔法が扱えない……?」
基本的に魔術師は攻撃に適した魔法を必ず覚えるはずであり、治癒魔導士という例外を除けばどんな魔術師だろうと攻撃手段は持っている。しかし、ルイの場合は一切の攻撃に適した魔法は扱えないという。
「支援魔術師は名前の通りに支援に特化した魔法職です。私が扱う魔法は他者の能力を強化させたり、あるいは状態異常などの攻撃を無効化する魔法しか扱えません」
「それは治癒魔導士とは違うんですか?」
「治癒魔導士の場合は回復専門ですが、ルイ様の場合は能力強化に特化した魔法職です。攻撃が行えない分、他者の支援という点に関しては誰よりも心強い存在です」
「なる、ほど……?」
支援系の魔法など存在するなど聞いた事もないレナだが、魔法の力を物体に宿す付与魔法、他者に魔法の力を施す支援魔法、どちらも自分以外の存在に魔法の力を宿すという点では共通点があり、レナは興味を抱く。
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