第327話 回想〈金色の隼の訪問〉

――時は遡り、ダリル商会の元に金色の隼の団長と副団長であるルイとイルミナが訪れた。二人はダリルとレナの面会を求め、慌ててダリルはレナを呼び寄せて対応する。



「こ、これはこれは……金色の隼様、今回はどのようなご用件でしょうか?」

「そうかしこまらないでください」

「本日、私達が訪れたのは商談のためです」

「商談というと……オリハルコンのイヤリングの件ですか?」

「はい。まずはこちらを受け取ってください」



イルミナは大きな袋を取り出すと、机の上に乗せて中身を開く。そこには大量の金貨が入っており、それを見たダリルは目を見開く。恐らくは数百枚は存在する金貨の量にダリルは焦りを抱く。



「こ、ここ、この金貨は!?」

「率直に申しますと金貨500枚でオリハルコンのイヤリングを売却して欲しいのです。我々にはどうしてもその金属が必要なのです」

「し、しかし……いくらオリハルコンと言っても、せいぜいイヤリング程度の大きさしかないのに……」



オリハルコンが伝説の魔法金属だとしても、現在はイヤリングとして加工された以上は武器としては扱えない。装飾品としての価値はあるだろうが冒険者のような存在が身を飾るために金貨500枚も支払うなど普通ならばあり得ない。


しかし、ルイもイルミナも冗談を言いに訪れたわけではなく、オリハルコンを購入するために2人はダリルに頭を下げて売却を願う。



「どうかお願いします、我々にオリハルコンのイヤリングをお譲り下さい」

「そんな、頭を上げてください!!こ、こっちからお願いしたいほどですよ!!」

「でもダリルさん、マドウ学園長からもオリハルコンのイヤリングは実験素材として買い取りたいと言われてますけど……」

「あっ……」



ダリルは黄金級冒険者であるルイとイルミナに頭を下げられれば断る事が出来ないと考えたが、レナの言葉に固まってしまう。先日、マドウから手紙が届いてオリハルコンのイヤリングを譲ってくれないかという内容が記されていた。


無論、マドウの方も無償で受け取るわけではなく、オリハルコンを受け取る条件として彼から高額の報酬と優秀な魔術師をダリルの屋敷の護衛として送り込むという内容だった。


競売の一件以降、各商会は盗賊ギルドの存在を恐れて優秀な護衛を雇うようになっており、ここでオリハルコンのイヤリングを金色の隼に渡すとマドウの機嫌を損ねるどころか優秀な護衛も得られなくなる恐れもある。



「あの……えっとですね、すいませんけど今の話はなかったことに」

「そこをどうかお願いします!!」

「500枚で足りないというのであれば、あと金貨100枚は追加できますが……」

「う、う~ん……!!」



金貨600枚という報酬にダリルの心は揺れるが、今は目先の大金よりも将来性を心配する必要があり、やはりマドウとの関係を維持するためにも断ろうとした。しかし、そんな彼にレナが救いの手を差し出す。



「ダリルさん、マドウ学園長の方は俺の方から話を付けておくから取引を引き受けてもいいんじゃないですか?」

「えっ!?ほ、本当か!?」

「はい、マドウ学園長の方も無理強いはしないと言われてたんで……」

「……レナ君はマドウさんと頻繁に会う間柄なんですか?」



レナがマドウと親し気な関係を築いているような発言を行った事にルイとイルミナは驚き、いくら魔法学園の生徒と言っても学園長であるマドウと関係を持っているという事に驚きを隠せない。


前々からルイとイルミナはレナがただ者ではないとは思っていたが、先日の競売で見せつけたレナの活躍の一件もあり、一旦商談の話は置いておいてルイはレナに勧誘を行う。



「レナ君、いやレナさん。前にも話した事はありましたが、貴方は金色の隼に入ってはくれませんか?」

「金色の隼は優秀な人材を募集しています。もしも加入してくださるというのであれば、金級冒険者の昇格試験は免除し、更に黄金級冒険者の昇格試験の推薦状も用意しますが……」

「お、黄金級冒険者!?うちのレナに!?」



ダリルは二人の言葉に驚きを隠せず、なにしろ黄金級冒険者の昇格試験など普通の冒険者では絶対に受けられない過酷な試験である。冒険者は依頼を達成する事で評価点を稼ぎ、その評価点が一定の数値に達しなければ本来は昇格試験を受ける事も出来ない。


だが、黄金級冒険者にして冒険者組織を結成しているルイとイルミナの独自の人脈を築き、彼女達ならばレナを黄金級冒険者の昇格試験を受けさせる力を持っていた。冒険者にとっては「黄金級」の称号は尊敬の対象であるため、普通の冒険者ならば真っ先に受けただろう。



「すいません、そういうの全然興味ないのでお断りします」

「レナ!?」

「……そ、そうですか」

「残念です……」



しかし、レナは二人の話を聞いても全く心が響かず、あっさりと断ってしまう。ルイもイルミナもレナが断る事は予測していたので落胆はしなかったが、本題へと戻る。

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