第326話 転入生

「この間、訓練で怪我したときに医療室に言ったんだけど、治療の時に面白い話を聞いたんだ」

「へえ、面白い話か……どんな魔物の解体実験の話?」

「えっ!?いや、そういう話じゃないけど……」

「じゃあ、新しい薬の開発手順のお話ですわね」

「違うよっ!?二人ともアイラ先生の事を何だと思ってるの!?」

『……科学者マッドサイエンティスト?』

「いったいどんな奴なんだ……」



アイラと関りがあるレナとドリスは声を合わせて答えるとデブリは戦慄するが、ミナの聞いた話は何でも学園に新しい生徒が加入するらしい。



「なんでも近いうちにまたいっぱい新しい生徒が入ってくるんだって、言ってたよ?」

「新しい生徒?まだあたし達が入ってから1年も経ってないだろ?また入学試験でも始めんの?」

「ううん、なんでも新しい生徒さん達は試験を免除して入ってくる優秀な人達ばっかりだって言っていたような……」

「何だよそれ、あのきつい試験を受けずに合格なんてズルい奴等だな」



新しく入ってくる生徒が試験を免除されたという話にコネコは不満を抱き、レナもコネコもミナも過酷な試験を突破してこの魔法学園に入学を果たした。しかも試験の相手は手加減が苦手なゴロウであり、他の騎士科の生徒よりも間違いなく難易度が高い試験を受けらされたのは間違いない。


ちなみにレナ達は知らない事だが魔法学園では定期的に入学希望者のために月に一度の割合で試験が行われており、前回に試験に落ちた人間や一般人も受ける事が出来る。但し、年に一度の入学式前の入学試験の場合と違い、こちらの試験は高額な受験料を要求されるので受ける人間は滅多にいなかった。


試験の合格者は学園側から保護され、支給金も与えられる。場合によっては卒業後の進路も学園側が色々と斡旋してくれる事から魔法学園へ入学を希望する人間は多い。そのために試験の方は決して生半可な難易度ではなく、称号を持つ人間であろうと合格する可能性は高いとは言えない。その事もあって魔法学園に新しい生徒が入ってくるのは非常に珍しい事なのだが、今回の「転入生」は少々事情があり、試験を免除されるという。



「アイラ先生も職員会議で話を聞いただけで、具体的にどんな子供達が来るのは分からないんだって……」

「別にどうでもいいよそんな奴等、要は生徒が増えるだけなんだろ?」

「あら、どうでもいいというのは言い過ぎではありませんの?それほど優秀な生徒さんが入ってくるという事は競い合いの相手が増えるという事ですわ」

「ドリスの言う通りだね。試験も免除される程の生徒か……少し気になりますね」

「願うなら、魔法科の奴等みたいに傲慢な奴ばっかじゃないといいけどな……」

「あら、その理論だと私も傲慢という事ですの?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「けど、最近は魔法科と騎士科の生徒の衝突も少なくなったよね。対抗戦のお陰かな?」



一時期は魔法科と騎士科の生徒は対立していたが、現在は特に争う事もなくなり、対抗戦を切っ掛けに二つの科の生徒は距離を縮めることは出来た。それでも一部の魔法科の生徒は騎士科の生徒と馴れ合う事を拒み、未だに見下す生徒も少なからず存在する。


それでも現在の魔法科の生徒はドリスのように魔術師でないからといって、戦闘職の人間を見下すような真似はしない生徒も増えているのは事実だった。しかし、この状況下で更に新しい生徒が加わる事になると、魔法科と騎士科の生徒達にどのような影響を与えるのか気になる所ではあった。



「さてと、今日の所はもう帰りましょうか。日が暮れてきましたし、あまり帰りが遅くなるのは感心しませんわ」

「それもそうだな……はあっ」

「何だよデブリの兄ちゃん、ため息なんか吐いて……腹減ってるのか?」

「いや、そうじゃなくて結局、競売が中止になったせいで僕達が貰えるお金の件もなくなっただろ?大金が手に入ると思って先月はちょっと高めの料亭で飯を食べたせいで金欠なんだよ……」

「あら……それは申し訳ございませんわ」

「まあ、ドリスの商会の護衛でお金は貰えたからどうにか食いつないでいるけど、このままだと僕は来月頃にはレナみたいに痩せているぞ」

「それは絶対にない」

「酷くないかっ!?」



デブリの言葉にシノがばっさりと突っ込みを入れるが、競売が中止になった事で結局はアリス商会の「金色の斧」ダリル商会の「オリハルコンのイヤリング」も結局は買い取られる事は無くなった。競り落としたカーネがゴエモンの変装した偽物という事もあり、カーネ商会は買取を拒否した。


現在はどちらの品物もアリス商会とダリル商会が保管しており、アリス商会の場合はしばらくは店の看板商品として店内に展示していた。但し、イヤリングに関しては競売の数日後にダリルの屋敷にとある冒険者達が訪れた事をレナは思い出す。

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