学園騒乱編

第325話 カーネ商会の跡取り

――結果的に言えば七影の強襲によって競売は中断され、カーネ商会は会長と跡取りの娘を殺されてしまう。カーネの屋敷を調べた結果、カーネの死体は彼が密かに作り出していた地下牢にて発見され、既に殺されてから数日が経過している状態だった。


死体の解剖によって遺体はカーネである事が断定され、この数日の間に屋敷の人間や商会の雇用者が見かけたカーネの正体はゴエモンの変装だと判明する。その結果、既にカーネは数日前にゴエモンによって殺され、娘に関してもゴエモンが呼び寄せたイゾウという指名手配中の殺人鬼によって殺されたという内容の新聞が発行される。


ヒトノ国側はゴエモンが盗賊ギルドの「七影」である事、そして彼が呼び寄せた「イゾウ」も七影であり、既に死亡した事も隠し切れないと判断して民衆に事実を知らせた。その結果、裏街区の見回りが強化され、城下町を守護する警備兵の身辺調査を行う。


これまで警備兵の中には盗賊ギルドと繋がる者が多数存在したが、マドウは本格的に盗賊ギルドの殲滅のため、盗賊ギルドと繋がりを持つ疑いがある警備兵を一斉に捕縛した。また警備兵だけではなく、冒険者ギルドにも手を回して盗賊ギルドに関りがありそうな者は事情聴取を行う。




このマドウの強硬捜査に関しては不満を持つ者もいたが、この王都の商業を支えていると言っても過言ではないカーネ商会の主柱が盗賊ギルドに殺されたという事を理由に、ヒトノ国は本格的に盗賊ギルドとの対立を示した。




――だが、カーネの死亡から一か月は経過しても王都に特に大きな異変は起きず、レナ達は普通に魔法学園に登校していた。当初はイゾウを倒した事でレナは自分も狙われるかもしれないとマドウから注意を受けていたが、予想に反して盗賊ギルドから刺客が送り込まれる様子もなく、平穏な日々を過ごしていた。



「なんか……すっごい平和だよな。あんな事が起きたのに全然、何も変わらないよな」

「平和なのはいい事ですわ」

「それはそうかもしれないけどさ……」



レナ達はいつもの面子で学園の屋上に集まり、それぞれが訓練に励みながらも会話を行う。ナオはバーベルを持ち上げ、デブリは四股を行い、ミナとシノは組手を行う。コネコの方は暇そうにベンチの上で横たわり、ドリスは新しい合成魔術の開発のために自分の周囲に初級魔法を発動させて滞空を行う。


コネコを除く全員が鍛錬に励む中、レナは黙々と拳を吐き出す動作を行う。最近は付与魔法の研究だけではなく、身体を鍛える事に集中し、ナオにも時折指導を受けながら鍛錬を行っていた。しかし、そんな彼等を見てコネコは我慢できないように叫び声を上げる。



「ああ、もう!!いい加減に鍛錬なんて飽きた!!偶には羽目を外して遊んでもいいだろ!!」

「う、う~ん……気持ちは分かるけど」

「マドウ学園長が自粛を促している以上、外に行くのは危険ですから……」



有名人でもあったカーネが殺された件以降、マドウは学園の生徒にしばらくの間は自粛を行うように注意する。無暗に外出を控え、更には大迷宮へ挑戦する事もしばしの間は禁じられた。


そのせいでレナ達は外へ遊びに行く事も出来ず、家に戻っても外へ出ることが出来ない。なので学園に通う時は放課後は皆で集まって学園内で鍛錬に励む事しか出来ないのだが、遊び盛りのコネコには我慢の限界だった。



「だあっ!!こんなの止めだ止めだっ!!もう学校の中でもいいから遊ぼうぜ!?」

「う~ん……遊ぶと言われましてもなにをすればいいのか……」

「この学園は教育施設ではありますが、基本的に鍛錬器具ばかりで遊具はありませんものね」

「そうだ!!兄ちゃんのスケボに乗せてくれよ!!あれに乗って思いっきり飛べば気分爽快だろ?」

「いや、ムクチさんからまだ新しいのを貰ってないから無理だよ」



レナのスケボはイゾウとの戦闘で切断され、ムクチに修理を頼んでいる。しかし、最近はムクチも仕事に忙しく、工房に引きこもって顔を合わせる事もない。例の大迷宮から発見した大剣からレナの新しい装備を作り出すのに苦労しているようだった。


コネコが駄々をこねるので仕方なく全員は鍛錬を止めて集まり、とりあえずは暇つぶしがてらに世間話を行う。この一か月の間で特に王都には大事件が起きた事は無いが、全く何も変化がないわけではない。



「そういえば聞いたか?カーネ商会の新しい会長、まだ僕達とそんなに年齢が変わらない男らしいぞ」

「それは私も知ってますわ。なんでもカーネ会長の養子とか……」

「そんなのはどうでもいいよ!!もっと面白い話とかねえの?」

「面白い話か……あ、そういえば少し前に医療室の担当の……えっと、アイラ先生?」

「アイラさんがどうかしたの?」



アイラの名前が出てきた事にレナは興味を抱き、彼女とはレナも知らない仲ではないので何があったのかと尋ねる。

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