第324話 七影会議

――その日の晩、王都に存在するとある「富豪」の屋敷の一室にて盗賊ギルドの「長」の命令の元、全ての七影が呼び出された。円卓の席にはジャック、ゴエモンの二人が座り、遅れてリョフイが姿を現す。



「お待たせしました。遅れて申し訳ありません」

「……来たか、そこへ座れ」

「…………」



リョフイが現れるとジャックはゴエモンの隣に座るように促す。言われるがままにリョフイは席に座ろうとすると、椅子に手を伸ばした彼の手をゴエモンが遮る。



「おい、誰だお前?新顔か?」

「おっと……これは失礼しました。私の名前はリョフイと申します」

「名前なんざ、どうだっていいんだよ。何でガキがここにいるのかを聞いてるんだ」

「突っかかるなゴエモン。リョウフイは正式に七影に選ばれた男だ」

「こんなガキが七影にだと……?」

「このリョフイは若いが実力は確かだ。今後の盗賊ギルドの資金運営はこいつに任せる」

「へえ……そいつは随分と大役だな。いったい何者だ」

「今日、貴方のお陰でカーネ商会を収める事になった男だと言えば分かりますか?」

「……あっ?」



自分がいない間に何時の間にか七影に新しい顔が加わっていた事、更にリョフイの言葉を聞いてゴエモンは訝しい表情を浮かべ、どうしてここでカーネ商会の名前が出てくるのかと思ったが、ジャックが呆れたように説明する。



「このリョフイはカーネの養子だ。カーネと奴の娘が死んだ以上、カーネ商会を引き継ぐのはこの男だ」

「何だと……どういう意味だ?」

「ここまで言っても理解できないのですか?この僕こそがカーネ商会の商会主になったんですよ」

「違う!!それはどうでもいいんだよ!!おい、ジャック!!カーネの娘が死んだというのはどういう意味だ!?」

「言葉通りの意味だが……カーネの実子である娘が生きていれば商会の引継ぎは娘になる可能性が高い。だからこそ始末させただけだ」

「てめえ、女を殺したのか……しかも、俺に知らせずにそんな仕事を手伝わせたのか!!」

「なるほど、聞いていた通りに変人のようですね」

「ああんっ!?」



ゴエモンの言葉にリョフイは呆れて分かりやすく説明しようとするが、彼が憤っている理由はリョフイの正体を知ったからではなく、カーネの娘が死んだという言葉だった。


カーネの娘を殺した事を聞いて激高するゴエモンにジャックとリョフイはため息を吐き出し、そんな「些末」な事を気にするゴエモンに彼等は心底呆れてしまう。



「女を殺す事が出来ない怪盗……それが巷での貴方の噂ですね」

「それがどうした?女ってのはな、かけがえのない存在なんだよ。どんなに醜くても、性格が最悪だろうと俺は女は殺さねえ。それが俺の信念だ」

「訳の分からない事を……それでも誇り高き七影ですか?」

「言っておくが、俺が七影に入った条件は女を殺す仕事はしない事を条件に引き受けたんだ。その約束が果たせないのなら俺は抜けるぞ」

「何だと……どうやらここで死にたいようだな」



ゴエモンの言葉を聞いてジャックは立ち上がると、ゴエモンも立ち上がって睨みあう。同じ七影といっても個人によって考え方や思想は大きく異なり、あくまでも自分本位のゴエモンと組織に忠誠を誓うジャックの相性は最悪だった。


二人が険悪な雰囲気に陥る中、リョフイは未だに現れない二人の七影に疑問を抱き、場を収めるために彼は仕方なくジャックに質問を行う。



「ジャックさん、それよりも他のお二方はどうしたんですか?まだ来られていないのですか?」

「……ふん、もう間もなく訪れる。話は後だ、ゴエモン」

「くそがっ……」



ジャックは座るとゴエモンも渋々と席に戻り、しばらくの間は沈黙が訪れた。リョフイはジャックとゴエモンを見て内心で落胆せずにはいられず、こんな男達が自分よりも上の立場だと思うとやるせない。



(僕は全てを掴む……カーネ商会はただの足掛かりだ。裏社会を支配する盗賊ギルドを支配すれば次はヒトノ国だ)



リョフイが七影に就いた真の目的は盗賊ギルドに従うのではなく、逆に盗賊ギルドを従えるつもりだった。そのためにはどんな手段を用いてもまずは現七影の正体の把握、そして七影の長であり、盗賊ギルドを収める主と会う必要があった。


リョフイが面識がある七影はジャックとゴエモン、既に死亡したリッパーとイゾウだけであり、残りの二人と会うのは今日が初めてだった。片方は「老魔師」と呼ばれる男だとは聞いているが、肝心の七影の長に関しては会う所か噂さえも耳にした事がない。


七影の長は用心深く、七影の前にしか姿を現さないと聞いていた。いったいどのような人物なのかとリョフイは柄にもなく緊張して待ち構えていると、ゆっくりと広間の扉が開かれて新しい人物が入って来た。




「――待たせてすまなかったのう。競売の後始末で遅れてしまった」




リョフイは振り返ると、扉を開いて現れたのは彼も良く知る人物の一人であり、マドウが絶対の信頼を置くはずの人物だった。


どうして彼がここに現れたのかとリョフイは戸惑うが、ジャックとゴエモンは特に取り乱す様子もなく彼を受け入れた――

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