第323話 渾身の一撃

「絡まれっ!!」

「何っ!?」



ネックレスが炎華に巻き付いた状態で壁際にめり込み、イゾウは刀を引き抜こうとしたが、絡みついたネックレスには重力が付加されて上手く外せない。その間にもスケボに乗り込んだレナが接近すると、仕方なくイゾウは残された氷華を構えた。


片方の刀は封じ込めたとはいえ、もう片方の刀を手にしたイゾウは迫りくるレナに刀身を構える。しかし、それさえも予測していたレナはスケボから飛び降りると、そのままイゾウの元へ放つ。



「喰らえっ!!」

「斬っ!!」



迫りくるミスリル製の金属板に対してイゾウは刀を上段に構えると、正面から振り下ろして切り裂く。魔法耐性が高く、並の金属よりも硬度を誇るミスリル製の金属板をイゾウが切り裂いた事に誰もが驚くが、それでもレナは構わずに駆け抜ける。



「うおおおっ!!」

「特攻か……愚かなっ!!」



左手の籠手に魔力を集中させ、突っ込んできたレナに対してイゾウは振り下ろした刀を構え直そうとした瞬間、天井の方角から先ほど弾き飛ばしたはずの「闘拳」が姿を現す。


弾かれたとはいえ、闘拳にはレナの付与魔法が施されており、魔法の効果が切れるまでの間は操作する事が出来た。なので天井にめり込んだ闘拳もレナの意思で動かす事が出来るため、闘拳の重量を増加させてイゾウの上空から落下させる。



「喰らえっ!!」

「ぬあっ!?」

「躱した!?」

「そんなっ……!!」



だが、闘拳の存在に気付いたイゾウは反射的に身体を仰け反らせて回避することに成功し、それを見たレナの仲間達は悲鳴を上げる。しかし、最初からレナの狙いはイゾウ本人ではなく、彼が所有する武器だった。


闘拳を落下させた本当の理由はイゾウではなく、彼が所有するもう一つの妖刀であり、拳が握り締められた状態で落ちてきた闘拳は氷華の刀身に叩きつけられた。その衝撃でイゾウは堪らずに妖刀を手放してしまい、その隙を逃さずにレナは左手を吐き出す。



「イゾウ!!」

「ッ……!?」



レナが左手をイゾウの胸元に押し当てた瞬間、イゾウは凄まじい重力の衝撃波を受けて身体が吹き飛ぶ。後方が壁であったことが災いし、まともに衝撃波を受けたイゾウは壁に激突して血反吐を吐く。



「がはぁっ!?」

「くっ……」



左腕を抑えながらもレナは壁にめり込んだイゾウに視線を向けると、まだ意識は残っているのかイゾウは口元から血を流し、レナを睨みつける。しかし、肉体の方はもう限界を迎えており、身体のあちこちから血を流す。


他の者達も慌ててレナの元へ駆け寄り、壁にめり込んだイゾウに視線を向けた。辛うじて生きてはいるようだが、至近距離からまともにレナの攻撃を受けた事に変わりはなく、すぐに治療を施さなければ死ぬのは目に見えていた。



「ぐふっ……!!まさか、ここが……俺の死地だったか」

「ふん、生命力はゴブリン並のようじゃな……お主は七影のイゾウで間違いないな?」

「…………」

「今更黙っても、もう遅いわ。大魔導士、こいつをすぐに王城へ運び込み、尋問しましょう。そうすれば盗賊ギルドの情報も分かりますぞ」

「うむ……そうじゃな」



サブはイゾウを捕縛し、彼から他の盗賊ギルドの情報を聞き出す事を提案したが、イゾウは壁にめり込んだ状態から力ずくで抜け出そうとする。



「ぐ、おおおおっ……!!」

「なっ!?止めろ、下手に動けばお前は死ぬぞ!!」

「まさか、自害する気か!!」

「止めさせろっ!!」



無理やりに身体を動かした影響で出血が激しくなり、それを見たジオは彼が自決するつもりだといち早く気付き、止めようとした。だが、既に床には致死量の血液が流れ込み、もうこの状態ではどんな魔法を施そうとイゾウが生き残る術はない。


自分が捕まって仲間の情報を吐くぐらいならば死を選ぶイゾウの行動にレナは何も行動が出来ず、やがてイゾウは事切れる寸前にレナに視線を向け、一言呟く。



「お前の……」



最後の言葉は聞き取る事は出来ず、そのままイゾウは身体から滲み出る血液の影響か、壁に埋まっていた身体が抜け出すと床に倒れ込む。


その最期の姿を見てレナ達は何も言葉に出来ず、黙ってサブが近寄ると彼の首元に手を伸ばし、完全に死亡した事を確かめた。



「イゾウ……何という男だ」

「……仲間を裏切るくらいならば死を選ぶ、か」

「悪人とはいえ、立派な最期でした」



イゾウが自分で死を選んだ事に武人であるマドウやジオやルイは何か思う事があるらしく、黙って彼の死体から目を逸らす。


しかし、状況的に考えれば盗賊ギルドの手がかりを持つ人間が死んだという事に変わりはなく、マドウは頭を抑える。



(これで残る七影は五人……盗賊ギルドが創設されてからこんな短期間で七影が二人も失う事などはなかった。だからこそ、奴等も危機感を抱くだろう)



七影のうちのリッパーとイゾウが失った事は盗賊ギルドにとっては大きな損失である事は間違いなく、マドウはこれを天が与えた絶好の機会だと判断した。自分の世代でヒトノ国の闇である盗賊ギルドを完全に消滅させる好機が訪れた、彼はそう判断した――

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