第318話 ゴエモン確保

「ウィンドバレット!!」

「うおっ!?」

「け、煙がっ……」



白煙に覆われる広間の中でマドウの声が響き渡り、次の瞬間に窓が割れる音と同時に煙が突風によって押し寄せられ、破壊された窓に放出される。その結果、白煙で覆われた広間が露わになると、そこには咳き込みながらもレナ達もゴエモンの姿を捉える事に成功した。


既に周囲にはシノ、ジオ、アリアが取り囲み、更に煙が消えた事で他の人間にも視認されたゴエモンは冷や汗を流す事しか出来ない。これまでの人生で自分が最も追い詰められた状況に居るのは間違いなく、もう彼一人の力では逃げ切る事は出来ない。



「ここまでだ!!ゴエモン、貴様との因縁に決着をつけてやる!!」

「へっ……確かにこの状況じゃ、俺にはどうしようも出来ないな」

「……その割には余裕の態度だな」

「この野郎!!あたしを気絶させた事、後悔させてやる!!」

「え、ちょっ……コネコ!?」



コネコが会話に割り込むと、彼女は加速した状態でゴエモンの元へ向かい、飛び蹴りを放つ。それを見たゴエモンは好機だと判断し、向かってきたコネコを捕まえて人質にしようとした。


飛び蹴りを難なく回避したゴエモンは彼女の首に腕を回し、そのまま小柄なコネコを持ち上げた。その光景を見てレナ達はすぐに彼女を救い出そうとするが、ゴエモンが声を掛ける。



「捕まえたっ!!」

「うわっ!?」

「コネコ!!くそ、コネコを離せっ!!」

「動くな!!動けばこの嬢ちゃんがどうなるか……」

「舐めんなっ!!」

「はぐっ!?」

「うわっ……い、痛そう」



コネコは抱えられた状態で足を振り上げ、ゴエモンの股間に向けて叩き込む。予想外の衝撃にゴエモンはコネコを手放すと、彼女は慌ててレナの元へ向かう。



「え、え~ん、兄ちゃん怖かったよ~(棒読み)」

「大丈夫、コネコ!?こいつ……よくもコネコを!!」

「いや、全然怖がる様子なかったんだが!?」

「人質にされても焦らず、冷静に最善の行動……やりますね」



わざとらしくレナに抱き着いたコネコにデブリが突っ込み、ルイに至ってはコネコの行動を感心したように頷く。股間を強打されて悶絶するゴエモンに対して困惑した表情を浮かべながらもシノ達が取り囲む。


様子を見る限りではとても演技とは思えず、本当にゴエモンは苦しがっている様子だった。その様子を見てちょっと同情しながらもジオが降伏を勧めた。



「な、なんとも無様な光景だな……大人しく投降しろ!!そうすれば命だけは助けてやる!!」

「世紀の大怪盗……身代金もがっぽり貰えそう」

「前回の借りを返させてもらいます」

「く、くそっ……中々やるな、あの嬢ちゃん……俺の股間を蹴り上げた女の子は初めてだ」

「まだ冗談を言える元気があるようですね」



ゴエモンをジオとシノが両腕を抑えつけて持ち上げると、彼の元に全員が集まり、逃げられないように抑えつけられた。やっと出入口に押し寄せた招待客を抜けてミナとナオも入り込む。


全員に囲まれたゴエモンはまだ股間が痛いのか苦痛の表情を浮かべるが、そんな彼に対してサブは魔剣を構えると、マドウに頷く。



「皆の者、離れてくれ。こ奴を動けないように拘束する」

「どうするんですの?」

「ただの縄では逃げられてしまうかも知れんからの。アイス・ロック!!」

「うおっ!?」



ゴエモンの手足に雪の結晶を想像させる氷塊の枷が誕生すると、しっかりと手足を拘束して動けない。これならば抜け出す事は出来ず、完全にゴエモンを捕まえることが出来た。



「関節を外して逃げようとしても無駄だぞ。その氷は儂の意思で動く、お主程度にはどうしようも出来ん」

「へっ……むかつく爺だ」

「ゴエモン!!それよりも貴様はどうしてここにいる!!カーネの奴はどうした!?奴はどうした!?」

「……俺が口を割ると思っているのか?」

「答えなさい、ゴエモン」

「うっ……い、言うかよ!!」



マドウは拘束したゴエモンにカーネの安否を尋ねると、ゴエモンは不敵な笑みを浮かべる。しかし、ルイが近づいて顔を覗き込むと態度を一変させて彼女から目を逸らす。そのゴエモンの態度にレナ達は戸惑うが、彼よりも先にコネコが答えた。



「あたし、知ってるよ……カーネの親父はこの屋敷の地下牢で死んでた」

「な、何じゃとっ!?」

「それは本当なのかコネコ!?」

「嘘だと思うんなら地下牢に行けばいいだろ。まだ、あの部屋に死体が残ってるはずだから……」

「そ、そうか……」



コネコの言葉が嘘とは思えず、マドウは顔を抑え、ダリルでさえも動揺を隠せずに近くの椅子に座り込む。二人にとってカーネは敵対する相手ではあったが、まさか本当に死んでいたとは思えず、衝撃を隠せない。


レナ達の方もカーネが既に死亡しているという事実に動揺を隠せず、そこでレナはこの競売会場にカーネの娘が存在したことを思い出す。


この事実を娘に伝える必要があると思い、会場内を探す。だが、他の招待客と共に逃げ出したのか姿は見えなかった。



「あれ?司会者さんは……」

「もう逃げたんじゃないでしょうか?」

「いえ、ちょっと待ってください。あそこに倒れているのはもしかして……」



娘と同じく広間に残っていたアリスが指差す方向には台座の傍で倒れている司会者の姿が存在した。騒動の時に転んで頭を打って気絶でもしてしまったのかとレナ達は思った時、司会者の身体に血が滲んでいる事を知る。

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