第319話 イゾウ参戦

「えっ……!?」

「なっ!?こ、これは……」

「……死んでいるのか!?」



急いで司会者の元にレナ達は駆け寄るが、既に事切れているらしく、その顔色に生気はない。その様子を見てレナ達は息を飲み、つい先ほどまで確かに生きていたのにいつの間にか殺されていたという事実に全員が戦慄する。


いったい誰がどのような手段で彼女を殺したのか調べるため、真っ先にシノが彼女の身体を確認すると、死因は背中から刃物か何かで突き刺され、心臓を貫かれて死んだ事が判明した。



「心臓を刺されてる……しかも背中から正確に」

「何だと……まさか、お前の仕業か!?」



必然的にゴエモンに全員が視線を向けるが、彼は司会者に視線を向けると驚いた表情を浮かべ、舌打ちを行う。その様子を見てどぷやらゴエモンも彼女の死は予想外の出来事らしく、不機嫌そうに答える。。



「ちっ……そういう事か」

「どういう意味だ!!貴様がやったのかと聞いてるんだゴエモン!!」

「俺は女は殺さねえ……例え、相手が誰であろうとだ」

「……その割には先日は私達には本気で挑んだように思えましたが」

「でも誰も死ななかっただろうが、お前等みたいな女は本気で戦わないと殺されかねないからな」

「……彼の言葉は真実だと思います。過去に何度かこの男と交戦しましたが、確かに一般人の女性を殺めるような男ではありません」

「ならば誰が彼女を殺した!!答えるんだ!!」



ゴエモンの言葉が嘘ではない事をルイが証明すると、他の者達は戸惑う。だが、彼女の言葉が真実ならば何者がカーネの娘を殺したのかが分からない。


死人が出た事に激高したアルトはゴエモンを怒鳴りつけると、彼はため息を吐き出す。そして、大声で既に広間に居るはずの自分の「同僚」に呼びかけた。



「イゾウ!!出てこい!!」

「何じゃと……!?」

「イゾウだとっ!?」

「まさか……剣鬼イゾウ!?」



ゴエモンが叫んだ瞬間、マドウは目を見開き、ジオとルイも正体を知っているのか驚いた様子で周囲を見渡す。二人はどうやらイゾウの存在を知っているらしく、警戒するように広間の中に視線を向ける。その直後、音も立てずに天井から降り立つ人影が現れた。


その男が姿を現した途端、レナ達は異様な気配を感じ取り、体中の毛が逆立つ。これまでに様々な魔物や人間と相対してきたレナでさえもイゾウの姿を捉えた途端に身体が震え、本能がこの男の危険性を伝える。




――天井から降りたイゾウの両手には二つの「刀」が握り締められ、彼は拘束されたゴエモンに視線を向けるとゆっくりと鞘から刀を引き抜く。それを確認したレナ達は咄嗟に戦闘体勢に入ろうとしたが、引き抜かれた刀の刀身を見て固まってしまう。




イゾウが抜き取った二つの刀の刀身は「青色」と「赤色」に光り輝き、抜き放たれた瞬間に異常な熱気と冷気が同時に放出された。そして鞘から完全に刃が抜き放たれると、イゾウは真っ先にゴエモンの傍に存在するアルト王子の元へ向かう。



「抹殺」

「なっ……!?」

「王子!!」



咄嗟にサブが魔剣を構えてアルトを守ろうとしたが、逆にそれが仇となり、剣を引き抜こうとしたアルトの邪魔になってしまう。イゾウは二人に接近すると刃を振り翳し、サブの所持していた魔剣をいとも容易く切り裂く。



「排除」

「ぬがぁっ!?」

「サブ!!」

「おのれっ!!」



赤色の刃の刀によって魔剣は切り裂かれ、サブの身体が大きくのけ反ってしまう。それを確認したマドウが魔法を発動させようとしたが、距離が近すぎるせいでアルトを巻き込んでしまうかもしれず、魔法を撃つことが出来ない。


一方でアルトの方は後方に飛ぶと剣を引き抜き、イゾウに向かおうとした。しかし、先にイゾウの方がアルトの懐まで接近すると、彼の身体に青色の刃を振り下ろす。



「斬!!」

「ぐうっ!?」

「させませんわ!!」



刃がアルトの身体に触れる寸前、ドリスが両手を前に出して氷塊の魔法を発動させる。その結果、空中に円盤型の氷塊が誕生して刃を防ぐ。予想外の援護にアルトもイゾウも驚くが、すぐに二人はお互いの剣と刀を振り翳す。



「兜割り!!」

「斬っ!!」



上段から刃を振り下ろしたアルトに対してイゾウは下から赤色の刀を振り翳すと、2人の刃が交わう。アルトが所有する武器は王族専用に作り出された高純度のミスリルで構成された長剣である。頑丈さ、耐久性、魔法耐性は並みの武器を遥かに上回る一品だが、イゾウが所有する刀は触れた瞬間に熱気を放つ。


鍔迫り合いの状態から唐突にイゾウが持つ武器が異常なまでの熱気を放ったことでアルトは目を見開き、同時に武器が発熱して彼の手元にまで熱が伝わると、耐え切れずに手放してしまう。



「ぐあっ!?」

「ちっ!!」

「王子!!大丈夫ですか!?」



アルトは熱気に耐え切れずに後ろ向きに倒れ込み、咄嗟にルイが彼を受け止めた。それを見たイゾウは舌打ちして距離を取ると、ゴエモンに声を掛けた。



「行け!!」

「イゾウ、お前……」

「行け!!これが俺の役目だ!!」

「……くそっ、すまねえっ!!ありがとよ親友!!」



ゴエモンを拘束していた氷の手錠はサブが魔剣を切られた際に解除され、彼はイゾウに全員が気を取られている内に駆け出し、窓から外へ飛び出す。その光景を見て何人かが止めようとしたが、イゾウが先に動いて彼の追跡を妨げる。



「回転!!」

「うおっ!?」

「くっ!?」

「早いっ!?」



両手の刀を振り回してベーゴマのように回転しながらゴエモンの追跡に向かおうとしたジオ達を止めると、イゾウは全員と向き合う。この人数を相手に彼は一人で戦うつもりなのか両手の刀を構えた。

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