第317話 ゴエモンの奮闘

「アイスランス!!」

「ひいっ!?」

「きゃああっ!?」



マドウが魔法を発動させた瞬間、彼の指輪から魔法陣が展開され、氷柱つららを想像させる氷塊が放たれた。そのまま氷塊は巨大化すると窓を破壊して逃げ道を塞ぎ、ゴエモンは舌打ちして立ち止まる。



「ちっ……大魔導士も居たんだったな」

「儂もおるぞ盗人めっ!!フレイムランス!!」

「うおっと!?」



サブも「魔剣」と呼ばれる長剣と杖を組み合わせた武器を取り出すと、刃先を構えて赤色の魔法陣を展開させる。次の瞬間、魔法陣から槍の形をした炎が放たれてゴエモンを狙う。


迫りくる魔法に対してゴエモンは反射的に跳躍して回避を行い、そのまま天井のシャンデリアの上に乗り込むと、バランスを保つ。招待客は悲鳴を上げて戦闘に巻き込まれる前に逃走を開始し、出入口へ向かう。



「に、逃げろっ!!こんな所にいられるか!!」

「退きなさい!!」

「きゃあっ!?お、押さないでよっ!!」

「いけない!!皆さん、落ち着いてください!!」



戦闘が始まった事で招待客は冷静さを失い、慌てて我先にと逃げ出そうとする。出入口を塞いでいたミナ達も迫りくる招待客に押し寄せられてしまい、中に入る事が出来なかった。



「うわわっ!?」

「お、落ち着いてください皆さん!!」

「うるさい、退けっ!!」

「こんなのやってられるか!!」



大勢の招待客が出入口に殺到した事で人混みによって部屋の外で待機している兵士達も呼び寄せる事は出来ず、残されたレナ達がゴエモンの対処を行う事になる。レナは上着を脱ぐと服の内側に身に着けていた鎖帷子を露わにする。この時のために服の下には防具をちゃんと身に着けていた。


一方でゴエモンの方は揺れるシャンデリアの上で佇み、状況の確認を行う。まずは窓から外へ逃げようとしても二人の魔術師が邪魔を行うのは確定し、唯一の出入口の扉は人混みによって塞がれている。



(奴等に紛れ込んで逃げるか?いや……厄介なのがいるな)



逃げ惑う招待客に紛れ込めばマドウもジオも手出しは出来ないだろうが、ここでゴエモンは招待客の中に「ルイ」の姿を発見した。


黄金級冒険者にして「金色の隼」の団長を務めるルイに関しては過去にゴエモンは痛い目に遭わされた事を思い出す。




――ルイは招待客を守るように彼等の前に立ち、ゴエモンを睨みつける。その視線を受けたゴエモンは冷や汗を流し、普段の彼らしからぬ焦りの感情を抱き、仕方なくゴエモンは自力での脱出を計る。




「これで終わりだっ!!」



ゴエモンは懐から煙玉と思われる道具を取り出すと、地面に向けて放り投げる。それを見たレナ達は咄嗟に煙玉を破裂させないようにしようとしたが、サブが杖を構えて魔法を発動させた。



「スラッシュ!!」

「なっ!?いけません、サブ魔導士!!それは……!!」



事情を知らないサブはゴエモンが放り投げた道具の正体を見抜けず、咄嗟に魔法で攻撃を行う。その結果、魔剣から「風の刃」が放たれて煙玉が切り裂かれた瞬間、煙が競売会場を覆いこむ。



「ぬおっ!?」

「な、何じゃとっ!?」

「しまった……!!」

「へへっ……ありがとよ爺さん!!」



風の魔法で煙玉を引き裂いた事が災いし、予想以上の速度で煙は広間内を覆いこむ。その結果、レナ達は視界を封じられるだけではなく激しくせき込み、ゴエモンはシャンデリアから降り立つと破壊されていない窓の方角に目掛けて移動を行う。


このままゴエモンが逃げ切るかと思われた時、不意に彼の背後から接近する影が存在し、背中に向けて短刀の刃が放たれた。



「辻斬りっ!!」

「うおっ!?」



ゴエモンは背後からの攻撃に咄嗟に気付いて手にしていたヒヒイロカネのネックレスで防ぐと、彼の前には口元を布で覆い隠したシノの姿が存在した。


何時の間にか広間内に入っていた彼女にゴエモンは驚くが、同じ「忍者」である彼女ならば煙玉の性質を理解し、次にゴエモンがどのような行動を移るのか予測して行動していたらしい。シノの不意打ちにどうにか対応したゴエモンだったが、すぐに余裕の笑みを浮かべる。



「ちっ……そういえば嬢ちゃんは同郷の人間だったな。油断してたぜ」

「もう逃がさない」

「へっ、女の子に追いかけられるのは悪くないが、生憎と今回は失敗できないんでな!!喰らえっ……あれっ?」

「……何のつもり?」



シノに対してゴエモンは腰に手を伸ばして自分の「妖刀」を取り出そうとしたが、何故かその手は空を切り、焦ったゴエモンは腰に視線を向けるとそこには普段自分が身に付けている妖刀が存在しないことに気づく。


妖刀がない事にゴエモンは慌てふためき、ここで彼はカーネに変装するときに妖刀は置いてきた事を思い出す。そして武器がなければ自分は対抗手段がない事を思い出す。



(やっべぇえええっ!!こっそり抜け出すつもりだから武器を用意するの忘れてたぁあああっ!?)



内心焦りながらもゴエモンは表面上は冷静さを保ち、この状況をどのように打破するのかと考える。しかし、運が悪い事に話している間にも二人に近付く足音が鳴り響き、薙刀を構えたジオと彼の付き添いとして同行していたアリアが双剣を構えて出現した。



「ゴエモン!!」

「覚悟!!」

「うおおおっ!?」



シノだけでも手一杯の状況の中、視界が封じられる中、気配だけで自分を感じ取って現れたジオとアリアにゴエモンは慌てて後方へ飛ぶ。しかし、最悪な事に彼は壁際まで追い込まれ、よりにもよって窓が存在しない壁の方へ移動してしまう。


シノ、ジオ、アリアの3人に追い込まれたゴエモンは冷や汗が止まらず、じりじりと迫りくる3人に対して武器無しの彼では対抗手段がなかった。

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