第316話 暴露

――時刻は現在へと戻り、競売会場では「カーネ」に対して招待客が不満を露わにしながら怒鳴りつける。カーネの暴挙に今まで従っていたはずのカーネ商会の傘下の人間も黙ってはいられなかった。



「カーネ!!何を黙っておる!!」

「このような競売、認められるはずがない!!」

「何とか言ったらどうだ!!」

「……全く、うるさい奴等だ」



カーネは怒鳴りつけられても平然とした表情を保ち、その妙な余裕が逆に周囲の人間に不気味さを感じさせる。一方でダリルとレナの方はカーネの言動に違和感を抱き、2人の知っているカーネはこの状況下で冷静でいられるような人物だとは思えない。


流石にこの状況はマドウも予測しておらず、アルトもどのような対処をすればいいのか分からなかった。表向きはカーネの行動は競売に競り勝っただけに過ぎず、不正を行ったという明確な証拠はない。だが、彼の行動が不自然である事に変わりはなく、裏で不正を行っている可能性否定できなかった。



「カーネよ、お主は本当に金貨をゴマン伯爵に支払うつもりか?」

「勿論ですとも大魔導士殿、儂は本気です」

「……大魔導士?」



マドウはカーネが自分に対する呼び方に疑問を抱き、普段の彼はマドウの事をそのような呼び方をしない。親近感を抱かせるために彼はマドウと関係を持つようになってからは「マドウ殿」と呼んでいた。


名前の呼び方に違和感を覚えたマドウはカーネの様子を観察し、外見は自分の知っているカーネで間違いはない。しかし、普段の彼は常にマドウと接するときは媚びへつらっていたが、現在の彼は何やら自信に満ちたような態度に益々疑念が強まる。



(この男……本当にカーネなのか?)



レナやダリルやマドウだけではなく、他人間達もカーネの言動に対しては違和感を抱き、少なくとも彼等の知っているカーネは自分が負ける事になろうとも大金を無暗に消費する人間ではない。



「さあ、話はこれまでだ!!娘よ、すぐに儂の元にヒヒイロカネを持ってこい!!」

『え、いや……でも』

「いいから早くしろ!!来なければ儂の方が取りに行くぞ!!」

「待て、カーネ!!」



周囲の言葉を無視してカーネは台座に置かれたヒヒイロカネのネックレスの元へ歩む。カーネの行動に招待客は呆気に取られるが、止める暇もなくカーネはネックレスの元へ急ぐ。


カーネの行動を見たマドウは嫌な予感を覚え、彼を止めようと動くが位置的にはカーネが台座に近く、止める暇もなかった。そして台座に置かれたヒヒイロカネのネックレスにカーネの手が届きそうになった瞬間、広間の出入口の扉が開かれて少女の声が響く。





「その競売、ちょっと待ったぁっ!!」





扉が勢いよく開かれると、コネコ、ミナ、ナオ、シノの4人組が現れる。唐突に入って来た3人に競売会場の全員が驚愕の表情を浮かべ、コネコは台座に手を伸ばそうとしているカーネを発見すると驚いた表情を浮かべ、すぐに勢いよく駆け出す。



「この野郎、見つけたぞぉっ!!」

「な、何だ!?」

「コネコ!?」

「いったい何事だ!?」



勢い良く加速したコネコはカーネの元まで駆け抜け、途中で客席を飛び越したり、客の頭や肩を踏み台にして跳躍を行うと、空中に飛んで身体を回転させる。


その様子を見てカーネはまずいと判断したのか急いで台座のネックレスに手を伸ばす。しかし、カーネの手にネックレスが届く前にコネコの振り下ろした踵落としがカーネの顔に衝突し、そのまま右の頬を大きく抉り取る。その光景を見た招待客は悲鳴を上げるが、すぐに異変に気付く。



「な、何だ!?カーネの会長の顔が……」

「ど、どうなってるんだ!?」

「ちっ……!!」



頬が抉り取られたと思われたカーネだが、引き剥がされた皮膚の下から新しい皮膚が出現し、その様子を見た招待客は戸惑う。やがてカーネは観念した様に自分の頭を掴むと、覆面を引き剥がして正体を現した。




「――大怪盗ゴエモン参上!!」




名乗り上げると同時に何処から取り出したのか、紙吹雪をばら撒かせながら「ゴエモン」は招待客の前で正体を暴露した。その彼の行動に全員が呆気に取られ、コネコに至っては驚愕と動揺を露わにした表情を浮かべる。



「ご、ゴエモン!?あの、有名なゴエモンなのか!?」

「その通りだ!!俺様こそ、世界一の大泥棒!!ゴエモンだ!!」

「ゴエモォオオオン!!」

「ジオ将軍!?」



ゴエモンが現れるとジオが立ち上がり、怒りを露わにして彼に近付こうとした。一歩王でゴエモンの方もジオを見て慌てふためき、即座に台座のネックレスを掴む。



「頂くぜっ!!」

『あ、ちょっと!?』

「ま、待ちやがれっ!!」



ネックレスを掴んだゴエモンは広間に存在する窓に視線を向け、そのまま逃げ出そうと駆け出す。だが、それを予測していたかのようにマドウは掌を構えると、指輪に装着した小型の魔石を利用して魔法を発動させた。

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