第315話 マドウの違和感

「カーネ会長、貴方は本当に金を払うつもりがあるのですか!?」

「そうだぞ!!この競売にはアルト王子様いらっしゃる!!虚偽は許されません!!」

「皆さん、落ち着いてください!!」



アルトは自分の名前を出された事で黙ってはいられず、ヒトノ国の王子である彼も競売に関わっている以上、カーネとて下手な真似は許されない。もしも競売の元締めであるゴマンとカーネの間に何らかの密約がされていた場合、いくら王都の商業を牛耳るカーネ商会であろうと無事では済まない。


だが、これだけ周囲が騒ぎ立ててもカーネは憮然とした態度を保ち、特に取り乱す様子はない。その妙に彼の余裕の態度に他の者達は黙り込み、いったい何を企んでいるのか理解できなかった。



(なんだ……この男は?いったいどうして笑っていられる?)



アルトはカーネと対面した事は数回ほどしかなく、彼の素性に関してはマドウやサブを通してしか知らされていない。しかし、話しに聞いていたカーネの人物像は成金の小悪党という表現が相応しい男だと思っていた。


しかし、実際に相対したカーネはこれまでに自分に対して媚びへつらっていた態度から一変し、大勢の人間に責め寄せられても平然とした態度を取る。その違和感は他の者も感じ取り、マドウが口を開く。



「カーネよ、何とか言ったらどうじゃ?このままではお主はあらぬ疑いをかけられるぞ?」

「あらぬ疑いですか……ふふふっ」

「何がおかしい?」



カーネはマドウに対して口元を覆い隠し、この状況下で笑いをこらえているのかと思われたが、様子がおかしい事に気付く――






――同時刻、地下牢から脱出したコネコは屋敷の廊下へ辿り着くと、窓の外の光景を見て自分が一階にいる事に気付く。ダリルから競売の会場が一階の広間であると聞いていた彼女は急いで廊下を駆け出す。



「おい、お前何をしている!?」

「何でこんな所にガキがっ!?」

「うるさい、邪魔だっ!!」



屋敷内に待機していた兵士や使用人を掻い潜り、彼女はレナ達の姿を探す。その途中、廊下を移動するミナ達の姿を発見し、彼女達の名前を呼びかける。



「ミナの姉ちゃん!!シノの姉ちゃん!!それから……えっと、誰?」

「コネコちゃん!?無事だったんだね!!」

「心配した……何処に言ってたの?」

「無事で良かった……」

「いや、だから誰だよ姉ちゃん?ナオの兄ちゃんと似てるけど……」

「え、あっ……その、ナオの姉のナノです」

「姉!?ナオの兄ちゃん、姉ちゃんもいたのか!?」

「この期に及んで素直に言わないナオ……でも、面白そうだから黙っておく」

「ええっ……」



現在は女性としての姿でいるナオを見てコネコは不思議に思い、咄嗟にナオも自分の恰好を誤魔化すために嘘を吐いてしまう。


ちなみにナオが女性である事はコネコとデブリ以外の面子は知っており、後々で残りの二人もレナから事情を聴く事になるだろうが、今はそんな事を気にしている場合ではない。



「それより姉ちゃん達、大変なんだよ!!あたし、この屋敷の地下にある牢屋で死体を見つけたんだ!!」

「死体!?」

「それは本当なの?」

「そんな……」

「嘘じゃねえよ!!シノの姉ちゃんはこの屋敷に詳しいんだろ?」



コネコの話を聞いて3人は驚愕を隠せず、元々カーネ商会に働いていたシノはコネコの語る「地下牢」の存在は知っていた。元々は奴隷を閉じ込めるための牢獄だが、現在はヒトノ国の法律によって人間の奴隷制度が撤廃された事により、現在は使われていない部屋が存在する。


3人と合流できたコネコは安心する一方、すぐにレナ達にも自分の見つけた死体の事を知らせなければならない。なにしろ死体の正体はレナ達の知る人物でもあり、一刻も早く競売会場に向かう必要があった。



「姉ちゃん達、競売会場は何処だ!?すぐに向かわないと……」

「落ち着いてコネコ、その死体はどんな状態だった?」

「どうって言われても……もう身体は腐ってたよ。多分、死んでからかなり時間が経過していると思う」

「その死体は誰か分かりますか?」

「えっと……あたし達の知ってる奴!!それは間違いない……確か名前は……」



コネコは記憶を掘り起こし、死体と化した人物の名前を告げた。




「――カーネだ!!カーネとかいうデブのおっさんだよ!!」




その名前を聞いた瞬間、ミナ達の思考が停止した。しかし、コネコが不思議そうに首をかしげると、彼女達はコネコが嘘を吐いているわけではない事を知る。だが、冷静に考えてカーネが殺されているなどあり得ない話だった。彼女達は先ほど、競売会場にてカーネを目撃している。


カーネの死体を地下牢で発見したというコネコの言葉が事実だとすれば、彼女達が遭遇したカーネはいったい何者なのか、そしてすぐに彼女達は先日の一件を思い出す。外見を他人に完璧に化ける能力を持つ怪盗の存在を――

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