第310話 競売の開始

『それではこれより競売を開始致します!!ではまず最初の品はこちら!!アリス商会さんが出品した「金色の斧」です!!』

『おおおっ!!』



レナ達が話している間に挨拶が終ると、最初に紹介されたのは大迷宮にてレナ達がミノタウロスから回収した金色に光り輝く斧が出品された。


この斧の素材に使われているのは魔法金属と金が組み合わせた特殊金属であり、非常に頑丈で武器としても扱え、更に外見が美しい事から多くの人間が注目を集めた。


ちなみに品物の紹介を行うのはカーネの娘であり、以前にマドウが自分の孫の結婚相手にとカーネから勧められた女性だった。話を聞いていたレナは女性に視線を向けると、想っていたよりも随分と若々しく、活気のある女性だった。手元には拡音石という音を拡大化させる特殊な魔石を取りつけた筒を握っている。



『ではまずは金貨30枚から始めます!!』

「金貨40枚!!」

「こっちは50枚だ!!」

「55枚!!」

「60枚!!」



流石に品物が品物だけはあり、次々と手が上がった。その様子をドリスは嬉し気な表情を浮かべ、アリスの方も表面上は平静さを取り繕っているが、口元に笑みを浮かべていた。しかし、ここでとある人物が手を挙げた。



「金貨200枚」

『お、おおっと!?金貨200枚が出ました……って、えっ?』



金貨200枚を提示したのはカーネであり、彼が手を上げると他の者達は黙り込む。金額が一気に跳ね上がったので誰も手を出せなくなったというわけではなく、カーネが金色の斧を欲していると知って誰も声を出せない。


この競売には王都の商会の商会主も参加しており、その多くがカーネの傘下に入っていた。そのためにカーネが名乗り上げると何も言えず、黙り込むしかない。本来ならばもっと高値で競り上げられてもおかしくはない代物だが、落札が決まろうとした。



『で、では金貨200枚で落札という事で……』

「金貨250枚!!」

「何っ!?」



しかし、落札される寸前で他の人間が声を上げ、カーネは驚いた表情を浮かべて振り返ると、そこには「ジオ」の姿が存在した。


彼は競売を開催させるために王城から送り込まれた兵士の指揮をしていたが、現在は遅れてきたゴロウと指揮を交代し、彼に守備は任せて自分も競売に参加していた。カーネは自分よりも高額な値段を付けた事に苛立ち、それに対抗するように声を上げる。



「金貨300枚だ!!」

『金貨300枚!?』

「ならばこちらは350枚だ」

「ぬぬぬっ……金貨400枚!!」

『お、御父様……流石にそれは』

「ええい、いいから金貨400枚だといっているだろう!!」



意地になったカーネは最初に提示した金額の倍の値段を言いつけると、ジオは渋々とした表情を浮かべて黙り込む。そして他の人間が挙手するはずもなく、金色の斧は金貨400枚で落札された。



『で、ではこちらの品は金貨400枚で落札とさせていただきます……』

『おおっ……!!』

「やりましたわお母様!!」

「ドリス、落ち着きなさい。この程度の事で取り乱すのではありません」

「うおおおっ……!!やったぞ!!」



予想以上の金額で売れた事にドリス達は喜び、一方で護衛を勤めるデブリも歓喜する。何しろ事前の取り決めで金色の斧の収入は大迷宮で協力したレナ達で分け合う事は約束していた。なので金貨400枚となると7人で分けるとしたら金貨50枚以上の分配となる。


落札したカーネには拍手が行われるが、彼は勝ち誇った表情をジオに浮かべる。しかし、ジオが口元を手で押さえながら笑い声を我慢している事に気付き、自分が嵌められた事を知った。



(嵌められたか……!!)

(ふっ……金貨400枚も無駄に消費したな)



いくらカーネが莫大な財産を所有しているからといっても、最初の品物で金貨400枚も使用した事は痛手である事は間違いない。一方でジオの方はアリスに視線を向けて頷き、彼女は意図を察して頭を下げる。


ジオの目的は競売の品物ではなく、少しでもカーネの出費を多くさせる事であった。それはマドウと相談した上での行動であり、マドウもカーネに気付かれないように頷く。


この競売を利用してカーネ商会の莫大な財産を少しでも消耗させる必要があり、彼等はここに集まった。勿論、七影が動き出す事を考慮して戦力を集めたというのもあるが、盗賊ギルドがカーネ商会と繋がっている以上はカーネ商会を追い詰めれば盗賊ギルドも同時に追い詰める結果となる。



(カーネよ、お主との関係はここで断ち切らせてもらうぞ……!!)



これまでマドウがカーネと表面上は良好な関係を築いていたのは、盗賊ギルドとカーネ商会の関係を暴くためであり、そしてカーネ商会が盗賊ギルドと繋がっている証拠さえ見つければすぐにでもカーネ商会を潰す覚悟はあった。


競売はまだ始まったばかりであり、カーネはマドウに嵌められた事も知らず、当初の予定以上の大金を提示してしまう――

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