第309話 その頃のコネコ
――レナと別れて更衣室に案内されたコネコは着替えを行った後、彼女はいつも通りの服装に戻って屋敷内を彷徨っていた。
最初はレナの所に戻るつもりだったが、彼女は屋敷の中で迷ってしまい、自分が何処に存在するのかも分かっていなかった。
「あれ、ここ何処だ……やばい、完全に道に迷った。はあっ、無駄に広すぎるんだよこの屋敷!!」
カーネの屋敷はダリルの所有する屋敷よりも何倍も大きく、彼女は悪態を吐きながらも廊下を歩いていく。ちなみに現在の彼女は屋敷の3階に移動しており、本来は立ち入りが禁止されている場所なのだが、暗殺者の習性というべきか彼女は見張りの兵士に気付かれる事もなく忍び込んでしまう。
冷静に考えれば1階の玄関ホールで別れたレナを3階で捜索する時点で見つかるはずがないのだが、コネコはその事実に気付かないまま歩いていると、不意に妙に豪勢な扉を発見する。
(ん?何だこの扉……ちょっと気になるな、金目の物とかもあるかも)
扉が気になったコネコは足音を立てないように気を付けながら扉の前に移動すると、耳を押し当てて中の様子を伺う。どうやら誰かが存在するらしく、話し声が聞こえてきた。
『計画は順調か?』
『ええ、問題ありません。誰もあの方だと気づいていません』
『そうか……今回は失敗できない。いいか、何としても成功させるんだぞ。そうすればお前は……』
聞こえてくる声はコネコに聞き覚えはなく、少なくともカーネの声音ではない。いったい何を話しているのかとコネコは不思議に思うと、中の人間が唐突に黙り込む。
コネコは声が突然聞こえなくなった事に不思議に思い、危険ではあるが中の様子を確かめようかとドアノブに手を伸ばそうとした時、廊下に怒鳴り声が鳴り響く。
「こらぁっ!!貴様、そんな所で何をしている!?」
「やべっ!?」
廊下を巡回していたカーネの屋敷の兵士に見つかったらしく、数人の兵士が駆けつけてくる。コネコは反射的に扉を離れると、一気に加速して逃げ出す。
「待て、小娘……いや、早っ!?」
「な、何だあの早さは!?」
「早い……というより、速い!?」
「へへへっ!!捕まえれるもんなら捕まえてみろ!!」
足の早さならば自信があるコネコは兵士達を振り切り、曲がり角を移動しようとした。だが、曲がり角から人影が現れると、彼女は予想外の人物と遭遇して目を見開く。
「えっ……!?」
「おっと、悪いな」
「うぐっ!?」
その人物の顔を見た瞬間にコネコは身体が一瞬停止してしまい、それを逃さずにその人物はコネコの首筋に目にも止まらぬ速度で手刀を繰り出す。コネコは意識が途切れ、そのまま倒れ込む。
意識を完全に失う直前にコネコは顔を見上げ、その人物の顔を忘れないようにしっかりと記憶に刻むと、彼女は気絶してしまう。その様子を見てコネコに手刀を繰り出した男は彼女を持ち上げ、様子を伺う。
「ふむ……こいつは将来は期待できそうだな、よし。殺すのは止めておこう、おい!!この娘を牢獄へ閉じ込めておけ!!」
「は、はい!!」
「申し訳ございません!!」
男は追いついた兵士に怒鳴りつけると、彼等は息を荒げながらもコネコを受け取り、彼女を屋敷の地下に奴隷を閉じ込めるために作り出された地下牢へ運び込む。兵士達が立ち去るのを見送った後、その男はカーネの部屋へ向かう――
――それからしばらく時間が経過すると、遂に競売の開催時刻が訪れ、レナはダリルとシノと共に競売会場となる屋敷内の大広間に向かう。
既に招待客の席は用意されており、アルト王子やマドウは最前列の席へと座り、一方でダリル達は一番後ろの席に座っていた。
「くそ、カーネの奴め……一番見えにくい席を用意しやがって」
「…………」
「レナ、コネコの事が心配?」
「大丈夫だろ、どうせ迷子になっているか、つまらなくなって外で遊んでるんだろ。それより、競売に集中だ!!」
レナはコネコが戻らなかった事を心配するが、ダリルはコネコがドレスを纏って競売に参加するのが嫌になったか、あるいは屋敷の中で迷子になったのだと思いこんで心配はしていない。
だが、この場所はレナ達に敵意を抱いているカーネの屋敷である事、それに七影が現れるかもしれないという状況の中で心配するなというのが無理な話である。しかし、レナは護衛としてダリルの傍から離れられなかった。
(何だろう……嫌な予感がする。コネコ、無事なのか?)
コネコの身に何か起きたのかとレナは心配せずにはいられず、やはり探しに行くべきかと考えた時、レナの不安を感じ取ったようにシノが声を掛ける。
「大丈夫、コネコの事は他の皆にも伝えている。今、ミナとナオが屋敷の中で探している。私も今から探しに向かう」
「シノ……分かった。コネコを頼んだよ」
「たくっ……お前等は本当に心配性だな。あいつなら大丈夫だと思うんだがな……まあ、気を付けて行けよ」
「素直じゃない……心配しているなら心配してると言えばいい」
「う、うるせっ!!」
「おい、静かにしたまえ……あまり騒ぐと追い出されるぞ」
「あ、すいません……くそ、怒られたじゃないか。あれ……もういない!?」
ダリルの大声に前の席の客が文句を告げると、彼は慌てて謝罪して恨めしそうにシノに振り返ろうとしたが、既に彼女の姿は消えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます