第308話 サブの不安

「――そこにいるのはもしかしてレナ君じゃないかい?」

「あれ……アルト君?それにマドウ学園長にサブ魔導士も……?」

「おお、ここにおったのか」

「ひょひょひょっ……先日の誕生会ぶりじゃのう」



コネコが戻ってくるまでレナは待機していると、アルトがマドウとサブを引き連れて現れる。今回の競売には彼も招待されており、競売には参加する事はないが様子を伺うために訪れる事は事前にレナも連絡を受けていた。


周囲の人間達はアルトとマドウが現れると緊張が走り、流石にヒトノ国の王子と大魔導士を前にすれば動揺を隠せないのも無理はない。一方でサブの方はレナに視線を向け、興味深そうな表情を浮かべる。



「ほほう、これはこれは……またも力を身に着けたようじゃな」

「サブ、お主も分かるか」

「えっと……どういう意味でしょうか?」

「ふむ、気づいていないようじゃがお主から発せられる魔力が一段と強まっておる。死闘を潜り抜け、一皮むけたといったところか」

「……そうなのかい?」



サブの言葉にアルトは驚くが、レナとしては見ただけで自分の変化に気付いたマドウとサブに驚かされる。確かに大迷宮でブロックゴーレムを倒していこう、レナの付与魔法の力は強化されていた。


魔法学園に訪れるようになってからレナの付与魔法は日に日に磨かれており、現在ではミスリル製の武器ですらも負担が大きすぎて損傷を引き起こす有様だった。自分自身の魔法の力が強まっている事はレナも自覚していたが、それをマドウとサブは見ただけで見抜いた事に動揺する。



「ふふふ、お主も魔術師であるのならば「魔力感知」ぐらいは出来るようにならんとな」

「魔力感知……?」

「言葉通りに魔力を感じとる能力じゃよ。どうじゃ?なんなら儂の弟子になってみるか?色々と手取り足取り教えてやろう」

「サブよ、我が学園の生徒を勧誘するでない」

「そうか……レナ君は凄いな、まだまだ成長するのか」

「いや……」



この国の1番と2番の実力を持つ魔術師に褒められて嬉しくないはずがなく、レナは二人の言葉に素直に照れる。その一方でアルトの姿を見てレナはある事に気付く。



「あれ?アルト君はどうして正装してないの?」

「ああ、ちょっと色々とあってね……僕はこの恰好で参加させてもらうよ」



アルトは何故か鎧を身に着け、腰元にはサブ魔導士の弟子が扱う「魔剣」と呼ばれる武器を身に着けていた。どうして競売が行われるのに武装しているのか不思議に思うが、マドウがこっそりとレナに耳打ちを行う。



『詳しい話は競売の後で行おう。お主はダリル殿をしっかりと見ておけ、この場所で決して油断するでない。何事もなく競売が終るとは思えんからな』

『という事は……七影が動き出すんですか?』

『うむ、間違いない』



今回の競売にはヒトノ国の精鋭と言える兵士が派遣され、更にジオやゴロウといった将軍が指揮を取っている。いくらカーネが盗賊ギルドと繋がっているとはいえ、今回の競売には大魔導士のマドウやサブも参加している以上、普通ならばこの状況下で競売の売上金や出品物を狙って七影が現れるとは考えにくい。


しかし、マドウの掴んだ情報によると七影が姿を現す可能性が高く、最初にレナが思いついたのは「ゴエモン」だった。ゴエモンがシノ達から逃げ延びて姿を消したという話は聞いており、ダリルに瓜二つに化けていた彼ならば既に招待客に紛れて忍び込んでいる可能性もある。



『俺はどうすれば……』

『一先ずはダリル殿の護衛に集中しろ。我々も警戒を怠らないが、場合によっては力を借りるかもしれん。それではな……』



マドウはアルトと共に競売の会場となる広間へ向かい、サブもその後に続こうとするが、ここで彼はレナに振り返って言いにくそうな表情を浮かべた。


レナはマドウの態度に不思議に思うと、彼はサブと何事かを話し合い、やがて二人は頷くとレナと向かい合う。自分に何か伝えたいことがあるのかとレナは身構えると、少し困った表情を浮かべたマドウが話しかけてきた。



「あ~……これは伝え忘れていたが、実は少し困った事が起きた」

「困った事?」

「……シデの奴は覚えておるか?」



先日のアルトの誕生会にて、自分との決闘に敗れたサブの弟子の名前が出てきた事にレナは訝しむ。するとサブはため息を吐きながらその後のシデの様子を告げる。



「実はな……シデの奴があの決闘以来、儂の元へ訪れなくなった。今までは金魚の糞のように儂に付いてきたというのに、あの決闘に敗れて以来ずっと屋敷に引きこもったままじゃ」

「そうなんですか……」

「ああ、別にお主に迷惑をかけるつもりはない。だが、少し前に儂がシデに会うためにゴマン伯爵の屋敷に訪れた時、おかしな事にシデと会わせる事が出来ないと追い出されてな……いくら何でも儂が会いにくればシデの奴も顔を見せるだろうと思っていたのだが、何故かゴマン伯爵は儂を合わせようとしない」

「え、どうして?」

「さあな……少し気になった儂はゴマン伯爵の様子を調べた結果、最近怪しい奴等が屋敷に出入りしているらしい。お主もゴマン伯爵に迷惑を掛けられたと聞いておる。今後はゴマン伯爵に関しては気を付けておいた方が良いぞ」

「あ、はい……ありがとうございます」



サブはレナにゴマン伯爵に注意するように忠告すると立ち去り、残されたレナは今回の競売にゴマン伯爵も参加している事を思い出す。


ヒヒイロカネのネックレスを彼が売り出す事を決意したからこそ今回の競売は開催されたため、当然ながら屋敷の何処かにいるのは間違いない。

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