第307話 ダリルとカーネ

『ヒヒイロカネか、確かにあれは悪くないな。だが、団長が欲しいのはそれだけじゃねえ』

「じゃあ、もしかしてうちが出品するオリハルコンのイヤリングですか?」

『そういう事だ。団長は何としてもこの二つを競り落とすつもりだ』



ヒヒイロカネ以外に特に価値の高い出品物はオリハルコンのイヤリングしか有り得ず、金色の隼の目的はヒヒイロカネとオリハルコンを狙うらしい。しかし、どちらの出品物も今回の競売の1、2を争う人気を誇り、そのどちらも手に入れるとなると相当な額を用意しなければならない。


王都の商会で最も大手のカーネ商会、更には金を有り余らせている有力貴族、他にも王族であるアルトや大魔導士のマドウも参加している。いくら金色の隼が黄金級冒険者で大金を稼いでいると言っても、相手が貴族や商会主となると分が悪いように思える。しかし、カツは本気で両方の品物を狙うつもりなのかレナに一言だけ告げる。



『競売を楽しみにしてな』



余裕のある声でカツはそれだけを言い残すと、レナの元へ立ち去った。その様子を見て彼の言葉がはったりだとは思えず、本当に競り落とすつもりなのかとレナは冷や汗を流す――






――その頃、ダリルの方は手続きを終えるとオリハルコンのイヤリングを担当の者に渡す。そして競売会場である広間へ向かう途中、廊下にて嫌な相手と遭遇した。



「……これはこれはカーネ会長、お久しぶりですね」

「ふん……どうして貴様のような下等商会が参加している?それにそこの女……見覚えがあるな」

「ども」



カーネは数人の私兵を連れてダリルと向かい合い、敵意を剥き出しにしながら睨みつける。しかし、ダリルの方は余裕の態度を貫き、カーネへ挑発を行う。



「そういえば先日、こちらの屋敷で何か騒動が起きたようですね。いやいや、天下のカーネ商会の会長の屋敷に襲撃する人間がいるとは……驚きですね」

「貴様……!!」

「おっと、俺を恨むのは筋違いですよ。姑息な手で盗みを働こうとしたのはそっちだろうが。お前だけ痛い思いをしていると思ってんじゃねえよ」

「ぐぬぬっ……!!」



ダリルは敬語を止めてカーネを睨みつけると、彼も何も言えない。実際にゴエモンを動かしてイヤリングを盗み出したのは事実である事に変わりなく、その後に取り返された事も彼にとっては屈辱でしかない。


だが、今回の件を全て公にされると困るのはカーネの方であり、まさか自分が盗んだイヤリングを盗み返された等と訴えるわけにはいかない。しかし、カーネには自分の後ろ楯にはあの「大魔導士」と盗賊ギルドが存在する事を思い出す。



「ふん、そうやって余裕を保てるのは今の内だけだ。この競売が終了次第、お前の商会を潰してやる」

「やれるものならやってみやがれ……うちを潰せばもう二度とお前の所にはミスリル鉱石を回さないぞ」

「それがどうした?そんな事で儂が怖気づくと思うのか?」

「何だと……?」

「どういう意味?」



これまでカーネ商会が扱う「ミスリル鉱石」の半分近くがレナが大迷宮から採取した代物であり、そのレナがミスリル鉱石を提供しなければカーネ商会は大打撃を受けるはずだった。


魔法金属の中でも加工がしやすく、冒険者にも人気が高いミスリルの原材料となるミスリル鉱石を手に入らないとなると困るのはカーネのはずだが、彼は余裕の態度で答えた。



「もうお前達の所の小僧に頼らずとも、我々は確実に大量のミスリル鉱石を入手する手段を手に入れた。あの小僧に伝えておけ!!もうお前など必要ないとな!!」

「何だと……!!」

「ふふふっ……思い出したぞ、お前は確か前にうちで雇っていた女だな?馬鹿な奴だ、儂の元を離れた事を後悔するといい。お前の雇い主は近いうちに露頭に迷う事になるからな」

「その時はアリス商会に雇ってもらうから平気」

「おいっ!?」



カーネは高笑いを浮かべるとそのまま立ち去り、そのあまりにも余裕の態度にダリルは疑問を抱く。カーネ商会がレナの力を借りずにミスリル鉱石を大量に確保する手段など有るはずがないと思っていたが、カーネは商売に関しては嘘を吐く男ではない。


どうしてカーネが余裕を保てるのか、考えられるとしたらレナ以上にミスリル鉱石を大量に確保する冒険者を雇ったのかと考える。しかし、この王都の冒険者の中でレナ以上にロックゴーレムからミスリル鉱石を回収する実力を持つ冒険者などいるとは思えなかった。



(はったりか?いや、そういえばレナの奴が屋敷に黄金級冒険者のカツがいたと言っていたな……ま、まさか!?)



ダリルは黄金級冒険者が集まって生まれた「冒険者組織」の存在を思い出し、信じたくはないがカーネ商会は「金色の隼」を味方に付けたのかと考える。それならばカーネのあの余裕の態度も納得が出来た。何しろ黄金級冒険者は普通の冒険者とは一線を画す存在だった。


黄金級冒険者の別名は「英雄の卵」と呼ばれ、彼等の殆どは普通の冒険者では成し遂げない仕事だろうと果たす。もしもカーネ商会が金色の隼を味方にしていた場合、本当にレナの力を借りずとも大量のミスリル鉱石を彼等の力で入手する事が出来るかもしれない――

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