第306話 カツとの再会

『もっとだ!!もっと持ってこい!!』

『は、はい!!おい、すぐに用意するんだ!!』

『な、なんという喰いっぷりだ……まるでトロールのようだな』

『あれほど豪快に食べられると最早呆れる事も出来ん』



何故かデブリの喰いっぷりをみて貴族達は関心を抱き、大勢の人間に見つめられるままにデブリは食事を行う。明かに自分の身体の大きさよりも多くの料理を口にしているはずだが、デブリの勢いは止まらない。


普段のデブリもよく食べる方ではあるが、今回の彼は鬼気迫る表情を浮かべて料理を食べており、恐らくこれ程豪勢な料理を口にする機会は滅多にない。だからこそ今の内に食べられるだけ食べておこうという考えなのだろう。



「デブリさん、先ほどからずっとあの調子ですわ。最初は私も怒ろうとしたのですけど、あれほど注目されている叱りにくいですわ」

「下手に止めると私達が非難されそうですね」

「あれほどの量を食べられる程の胃の消化力……侮れません」

「なんでちょっと対抗心を抱いているのナオ君?」



窓越しにデブリの食事する姿を見てレナ達は呆れるのを通り越して感心してしまう。だが、いつまでも食事を続けられていては困るので機を見て彼を呼び戻す必要がある。


競売の開催時刻までもう少しだけ時間があるが、レナはコネコが戻るまで動く事は出来ず、彼女が戻るのを待つ。しかし、待っている間にもレナは不特定多数の人間に見られている事を感じ取り、ナオが注意を行う。



「レナさん……既にお気づきかもしれませんが、何人かに見られています」

「分かってる。屋敷に入ってからずっと見張られている」

「やはり、先日の件で疑われているのでしょうか」

「疑われているというより、俺達の仕業だともう気づいているだろうね」




――先日、レナ達はゴエモンが盗んだ「オリハルコンのイヤリング」を取り返すためにカーネの屋敷に乗り込み、派手に暴れた。


レナに至ってはカーネに対して積もり積もった恨みを晴らすために懇親のコークスクリューブローも叩きつけている(ちなみに殴り方を教えたのはバルである)。




無事にカーネからイヤリングは無事に取り返す事は出来たが、ゴエモンを動かしていたのはカーネであり、もしもダリル商会が予定通りにイヤリングを競売に出す事を宣言したらイヤリングをカーネから奪い取ったのはダリル商会の人間だと気付かれてしまう。


ダリルが新聞記者に予定通りにイヤリングを競売に出品する事を報告した時点で、カーネは先日の一件がダリル商会の人間の仕業だと気づく。カーネの本音を言えば今すぐにでもダリル商会を潰したい気持ちもあるだろうが、イヤリングの件は内密にしなければならないので表立ったカーネ商会がダリル商会に手を出す事は出来ない。


しかし、カーネは自分の屋敷を強襲したのがダリル商会である事は確信した以上、これまで以上に2つの商会は対立する事になるだろう。そして今回の競売では多くの貴族や商人が注目を浴びており、どちらの商会がより価値の高い代物を出すかによって商会の命運が決まると言っても過言ではない。



「レナさん、噂によると今回の競売にはマドウ様だけではなく、アルト王子も参加します。つまり、王族も注目しているという事です。これは何としても商会を目立たせる好機ですわ!!」

「気負い過ぎですよドリス、気持ちは分かりますがこういう時こそ冷静でなければなりません。ではレナさん、私達はそろそろデブリ君を連れ戻さないといけないのでこれで失礼します」

「レナ君……気を付けて」



開催時刻が近づき、流石にこれ以上は待てないのでドリス達はデブリの元へ向かう。その様子を見送り、一人になったレナはコネコが戻ってくるのを待つ。すると、そんな彼の元に見知った人物が訪れた。



『よう、坊主!!先日ぶりだな!!』

「あっ……確か、カツさん?」

『おうおう、お前さんも来てたのか』



黄金級冒険者にして金色の隼に所属する「重騎士」のカツが現れると、レナは反射的に身構えてしまう。先日の件で彼と戦ったばかりであり、カツはカーネの屋敷に雇われていた護衛の冒険者であるために油断は出来ない。


しかし、当のカツはレナの態度を見て不思議そうに首を傾げ、どうやらカツはレナの正体に気付いていないのか警戒心も抱かずに肩を掴む。



『どうした?緊張しているのか?安心しろ、取って食ったりなんかしねえよ』

「はあ……あの、カツさんはどうしてここに?」

『それはもちろん、金色の隼も競売に参加するからだよ。今回の競売に出品される代物の中にどうしても団長が欲しいのがあるからな』

「欲しい物?ヒヒイロカネのネックレスですか?」



今回の競売の一番注目を浴びているのはゴマン伯爵が所有している「ヒヒイロカネのネックレス」であり、希少金属で構成された宝石の如く美しいネックレスを狙う人間は多い。実際に競売がここまで注目を浴びたのはヒヒイロカネが出品されるという噂が広まったからである。

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