第304話 アリス
「お待ちください、中に入らる前に招待状を見せて貰えますか?」
「ああ、これの事か」
「ふむ……ダリル様ですか」
ダリルが見張りの兵士に招待状を渡すと彼等の表情が険しくなり、何か問題があるのかとレナ達は不思議に思うと、兵士は招待状をダリルに返す。
「カーネ様がダリル殿が来た場合、まずは自分の部屋へ案内するようにと我々は命令されています。競売会場へ赴く前にカーネ様の部屋まで同行してください」
「カーネが俺に用だと?いったい何の話しだ?」
「どうぞ、こちらへ」
兵士はダリルの言葉を無視して扉を開き、屋敷の中へ誘導する。その様子を見てダリルは不審に思いながらも中に入り、レナ達も続こうとすると兵士がそれを遮った。
「お待ちください、貴方達はここで待機してください」
「はあっ?何でだよ、意味が分からねえっ」
「何と言われようと屋敷の中に入れるのは競売の参加者のみです」
「そんな話は聞いてない。それに私達は護衛として同行している」
「いいから言う事を聞け!!」
「おい、何の真似だ!!そいつらを入れないなら俺はカーネには会わないぞ!!」
自分をレナ達から引き剥がそうとする兵士に対してダリルは怒鳴りつけると、兵士は無理やりに扉を閉めようとするが、その前にレナが両手で扉を掴む。すると兵士は二人がかりで扉を閉めようとするがびくともせず、困惑の表情を浮かべる。
手元に付与魔法を発動させてレナは扉を抑えると、その隙にコネコとシノが入り込み、ダリルの傍に控える。兵士達は必死の表情を浮かべて扉を閉めようとするが、重力を操作するレナに単純な腕力で勝てるはずがなく、レナは堂々と扉を押し開いて中に入り込む。
「お邪魔します」
「うわぁっ!?」
「な、何だこの力は……!?」
レナ達も無理やりに屋敷の中に入り込むと、既に他の競売の参加者と思われる人間達が存在し、出入口の騒動を見て驚いた表情を浮かべる。その中にはレナ達にも見知った顔が存在した。
「レナさん?それに他の皆さんも……いったいどうされたんですの?」
「レナ?ドリス、あの子がレナさんかしら?」
玄関ホールにはドレスに着替えたドリスと彼女の母親と思われる女性、その他にチャイナドレスを身に纏った少女が居た。ドリスは慌ててレナ達の元へ向かうと、兵士は面倒な相手に見つかったとばかりに表情を曇らせる。
「おお、そこにいるのはドリスの嬢ちゃんか!!」
「これはダリルさん、コネコさんとシノさんもいらっしゃったのですね。ですが、いったい何の騒ぎ何ですの?」
「丁度良かった、聞いてくれよ。こいつらが屋敷の中に通れるのは招待客だけだと言い張ってな……なのにレナ達は通せないと言い張るんだよ」
「それは本当ですか?おかしいですね、私達は普通に通る事ができましたが……」
「いや、その……」
ダリルの言葉にドリスの母親と思われる女性が兵士に視線を向けると、彼等は視線を逸らして慌てふためき、予想通りというべきか他の客は普通に護衛と共に通していたらしい。
レナ達を通さずにカーネの部屋までダリルを案内させようとした当たり、カーネが何かを仕掛ける予定だったのだろう。しかし、既に招待客を屋敷の中に通していた事が仇となり、ドリスの母親の「アリス」は冷たい視線を向ける。
ちなみにアリスの容姿は外見は20代後半程度にしか見えない美女であり、とてもドリスぐらいの年齢の子供を産んでいるとは思えない若々しさを保っていた。姉妹と言われても信じられるぐらいに外見は若く、髪形に関してもドリスと同様に特徴的な髪の毛をしていた。
ドリスの場合はツインテールが螺旋状になっているのに対してアリスの方はサイドテールに髪の毛をまとめ、やはりこちらも螺旋状になっている。二人とも別に髪の毛をセットしているわけでもなく、生まれつきの髪質らしく、勝手に髪の毛が螺旋状にくるまうらしい。
「いったい何時まで倒れているのです?早く起き上がったらどうですか?」
「は、はい!!」
「失礼しました!!」
「何のつもりか分かりませんが、貴方達が不始末を行えば主人であるカーネ様にも迷惑が掛かります。その事を自覚した上で業務を全うしなさい」
「「す、すいません!!」」
「おおっ……なんか凄い人だな」
「女王様みたいな人」
「うえっ……あたしの一番苦手な感じの女の人だ」
アリスに叱りつけられた兵士達は何も言い返す事が出来ず、彼女の放たれる威圧に逆らう事が出来なかった。ドリスの母親だけはあって美人であり、それでいながら強い気迫を感じさせた。
ダリルと同様に商会主を勤め、ろくでもない夫を支えてドリスを育て上げたアリスは母親としても商人としても立派な人物であり、改めてレナ達に振り返って自己紹介を行う。
「初めまして、ドリスの母親のアリスと申します。ダリル会長、先日は娘が世話になったそうですね」
「い、いやいや!!こちらこそ、ドリスのお嬢さんにはうちの子供達も世話になりっぱなしで……!!」
「おっちゃん、何で頬を赤らめてんだよ……相手は人妻だぞ」
「男は美人に弱い、仕方がない」
「へえ、ドリスさんの髪の毛はお母さん似だったのか……」
「興味を抱くのはそこですの!?」
美女と言っても過言ではない容姿のアリスに話しかけられてダリルは縮こまり、その一方でレナ達もドリスと合流出来た事を喜ぶ。
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