第303話 競売会場

『ダリルの旦那、到着しましたぜ』

「そ、そうか……よし、お前ら今日は俺の傍から離れるなよ。何しろ今回の競売には大勢の貴族も集まるからな、絶対に失礼な態度を取るなよ!!」

「分かってるって……」

「でも、凄い人数……たしかにこれだけの数だゴマン伯爵の屋敷が収まらない」

「うわ、凄い……アルト王子の誕生パーティの時より人が集まってる」



カーネの屋敷では既に多くの人間が集まっており、屋敷の周囲には王城から派遣されたヒトノ国の兵士が配置されていた。彼等は城下町の警備兵よりも上の立場にあり、ただの兵士とは思えない程に立派な鎧を身に着けていた。中には称号を持つ人間も多数存在するらしく、大盾や長槍を装備する兵士も見かけられた。


今回の競売には貴族も多数参加する事もあり、表向きは彼等の護衛のために王国側も兵士を派遣した事になっている。しかし、実際の所はマドウが盗賊ギルドを警戒してカーネに命じて彼等を送り込んだ。


最初はカーネもヒトノ国の兵士が送られる事に難色を示したが、先日のレナ達の騒動の一件でカーネの所に雇われている私兵や傭兵の大部分がいなくなったという噂も既に知れ渡っており、結局はマドウに押し込まれてカーネも承諾する。


ヒトノ国側の兵士が派遣された以上、盗賊ギルド側も自由には動けないはずであり、更に今回の競売の参加者の中にはマドウも含まれている。彼は将軍であるゴロウを護衛に参加し、彼の右腕であるサブも同行する予定だった。



『そこの馬車、止まれ!!競売の参加客か?ならば招待状を出せ!!』

『はいはい、これでいいのか?』

『ふむ、確かに本物だな……だが、ここから先は馬車は入る事は許されん。歩いてもらうぞ』



馬車はカーネの屋敷の前で停止すると、ここからは徒歩となり、レナ達は降りて屋敷の中に移動する。既に屋敷の敷地内にも多くの人間が集まっており、パーティー会場のように机が並べられ、豪華な料理が用意されていた。それを見たコネコは涎を垂らし、シノもお腹を抑える。



「うわ、美味そうだな!!なあなあ、あれ食べてもいいのかな?」

「どうやら招待客用の料理みたいだけど、食べてもいいんじゃないかな」

「待て待て!!まずは先に競売会場の確認からだ!!飯なんて後にしろ!!」

「……残念」



豪勢な食事を前にしてコネコとシノは今すぐにでも駆けつけたい思いに駆られるが、二人を引っ張ってダリルは競売が行われるカーネの屋敷へ向かう。競売会場は屋敷の中の広間にて行われる予定であり、部屋の中に入る事が許されるのは参加者と護衛の人間だけであった。


ダリルの先導の元でレナ達は屋敷の敷地内を移動すると、参加客の数名がレナ達の存在に気付いて驚きの声を上げる。



「おや、あそこにいるのは……先日、アルト王子の誕生会で決闘をしていた魔術師では?」

「おお、魔法学園の生徒さんではないか」

「彼がここにいるという事はカーネ殿に招待されたのか?」

「あれがミスリル狩りか……なるほど、噂通り美顔の少年だな」



どうやら貴族の間でもレナの存在は有名らしく、顔を見ただけで騒がれてしまう。その様子を見てコネコは笑みを浮かべてレナに振り返る。



「へへへっ……すっかり兄ちゃんも有名人だな」

「なんでコネコが嬉しそうなの?」

「だってさ、学園に入った時は最初の頃は兄ちゃんよく馬鹿にされてたじゃん。出来損ないの魔術師だって……だけど、今はあんな偉そうな奴等からも一目置かれる存在になってさ、何となく嬉しいじゃん」

「……そうだな、コネコの言う通りだ。お前だって嬉しいだろう?」

「う~ん……そう、なのかな?」



コネコやダリルはレナが付与魔術師という理由で少し前までは馬鹿にされていた事を知っており、それが今では王都内でも有名な魔術師として注目を浴びているという事実に嬉しく思う。当のレナ本人は他人の評価など気にした事はないが、確かに馬鹿にされていた時よりは気分がいいかもしれない。


しかし、全員が好意的な感情を抱いているわけではなく、中にはレナに対して明確な敵意を抱いて視線を向ける者も存在した。それは参加客の護衛として従う臨時の冒険者や傭兵たちであり、彼等は気に入らなそうにレナを睨みつけていた。



「ちっ……何がミスリル狩りだ。あいつのせいでミスリルの価値が暴落したんだぞ」

「俺達が苦労して集めたミスリルも奴のせいで安く買い立たれたのによ」

「ああいう奴はすぐに転落するんだよ……調子に乗りやがって」

「こ、こら……お前達、止めないか」



レナに聞こえている事を承知で冒険者や傭兵は悪口を告げると、慌てて雇い主が注意を行う。そんな彼等の言葉を聞いてコネコは眉を顰め、シノが慰めるようにレナの肩に手を置く。



「気にしない方が良い。有名になればああいう輩は何処でも現れる……無視した方が良い」

「別に気にしてないよ。ああいうのは慣れてるから……」

「あいつら、むかつくな……後で覚えてろよ」

「あんな奴等は放っておけ、それよりも会場の確認が先だ」



屋敷の扉の前に辿り着くと、ダリルは中を開こうとした時に門番の兵士が彼を止める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る