魔拳士と呼ばれた付与魔術師

第293話 黄金の隼、襲来

「イヤリングは取り返せた、どうする？」

「シノさんたちは既に動き出しているはずですが……合流は難しいでしょうね。下水道に繋がる場所が何処なのか私達は知りません」

「ここは退くしかないんじゃないか？というか、正直に言ってこの恰好で戦うのはきついぞ……僕は上半身が裸じゃないと力を半分も引き出せないんだぞ」

「そ、そうなんですか……？」

半分程度の力で傭兵たちを蹴散らしたデブリの言葉にレナとナオは戸惑うが、デブリの方もしっかりと成長しているらしく、ここ最近はレナ達と付き合って訓練を行うようになっていたので彼は鍛え上げられていた。

一人で鍛錬を行うよりも他の人間と鍛錬を行う方が自分の弱点も気付きやすく、指導を受けられる。そういう意味ではデブリもレナと同様に成長していた。それはともかく、イヤリングを取り返した以上はこの場に長居するべきではなく、シノたちの件は気にかかるがレナ達は退散する事を決める。

「シノならイヤリングを奪い返した事にすぐ気付くと思うし、それに俺達も早く離れないと王都の警備兵が駆けつけてくるかもしれない」

「くそう、悪いことをしたのはカーネの癖に……」

「仕方ありません、イヤリングを取り返すためとはいえ、私達もやり過ぎました……私達というか、レナさんがやり過ぎたのですが」

「わお、全然言い返せない……」

屋敷の被害の殆どはレナの仕業である事は間違いなく、特に巨人族の冒険者を倒すときに屋敷は大きな被害を受けていた。その点を突かれるとレナは言い返す事も出来ず、警備兵が駆けつける前にレナ達は退散しようとした。

「よし、戻ろう！！」

「うおおおっ！！僕は動けるぽっちゃり系だ！！」

「は、早いっ！？」

「逃げたぞ！！追えっ！！」

「絶対に捕まえろっ！！」

３人が破壊された正門へ駆け出すと慌てて敷地内の人間達が追いかけようとするが、金級の冒険者でも相手にならない実力を誇る３人を前にするとただの傭兵や兵士は怖気ついてしまう。

残された金級以下の冒険者は戦意さえも失ったのか動く様子もなく、邪魔を受けずにレナ達は何事もなく正門まで辿り着けた。

「よし、なら適当な乗物に付与魔法を施して逃げれば……」

「っ……！？レナさん、危ない！！」

「えっ！？」

「うおっ！？」

先行していたレナが門を潜り抜けようとした瞬間、ナオが彼の肩を掴んで引き寄せる。唐突なナオの行動に驚くが、その直後にレナの頭上に何かが通過すると、３人の目の前に「ランス」が地面にめり込む。

ナオがレナを引き留めて居なければ確実にレナの頭部を貫いていたであろうランス、３人はランスが飛んできた方向に視線を向けると、屋敷の上に立っている人物を発見する。その人物を見てレナは見覚えがある事に気付く。

「まさか……あの人」

「お、おいレナ……あいつ、やばくないか」

「ええ、気配だけで分かります。相当な強者です……恐らくは名のある武将でしょう」

屋根の上に立つ人物は全身を「甲冑」で包み隠し、その背中にには大盾を担いでいた。その人物は３０メートルは離れているレナ達に向けてランスを投擲したらしい。恐ろしいまでの腕力を誇り、もしもナオが直前に気付かなければレナは殺されていたかもしれない。

甲冑の人物は背中の大盾を取り出すと、あろうことか屋根の上から飛び降りると、まるでスノボのように大盾に乗り込む。そして屋敷の壁に大盾を押し当てる事で降下の速度を殺し、地上へと着地した。その光景をみた敷地内の兵士や傭兵、そして冒険者達は歓声を上げる。

「お、黄金の隼のカツだ！！」

「やった！！あの「重騎士」のカツが来てくれたぞ！！」

「カツさん、お願いします！！どうか奴等を倒してください！！」

『おう！！お前等は下がっていろ！！』

カツと呼ばれた甲冑の騎士は周囲の声援に応えるように右腕を上げると、レナ達に視線を向けた。そして彼は甲冑を身に包んでいるとは思えない程の速度で駆け出し、一気にレナ達との距離を詰めた。

『おらぁっ！！』

「うおおっ！？」

「デブリ君！？」

盾を構えながら突進してきたカツは真っ先に体格が一番大きいデブリを狙い、咄嗟にデブリは自分が兵士から奪い取った大盾を構えるが、カツと衝突した瞬間に弾き飛ばされてしまう。

仮にも体重が１００キロを超えるデブリを正面から弾いたカツにレナとナオは驚かされるが、慌ててレナはデブリを救おうとしたが、その前にカツは続けてレナとナオにに大盾を薙ぎ払う。

『そらっ！！』

「くっ！？」

「うわっ！？」

振り払われた盾を二人はどうにか回避すると、ナオはカツに接近して両手を吐き出し、相手が鎧で身を包んでいようと構わずに戦技を発動させる。

「発勁！！」

『ぐおっ！？』

いくら硬い鎧に身を包まれようと、内側に衝撃を与える発勁の戦技ならば鎧によって守られている本体にも影響を与える事が出来るらしく、攻撃を受けたカツは怯んだように数歩後退した。その隙を逃さず、レナも攻撃を仕掛けた。