第292話 憤るカーネ

「き、貴様等!!いったい何をしている!!」

「か、カーネ会長!?」

「たった数人程度の侵入者を相手に何をしているのだ!!さっさと捕まえんか!!でなければ首にするぞ!!いや、その恰好はお前達は冒険者だな?ならば冒険者ギルドに苦情を入れて解雇させるぞ!!」

「も、申し訳ありません!!」



雇い主のカーネの言葉に冒険者達は慌てて争うのを止め、レナに向き直る。その一方で傭兵と兵士達を相手にしていたデブリとナオにカーネは視線を向けると、彼は大声を張り上げる。



「貴様等!!即刻そいつらを捕まえろ!!捕まえた人間には褒美を与える、1人に付き金貨10枚だ!!」

『っ……!?』



金貨という言葉に屋敷内の人間達の目の色が代わり、先ほどまで怯えていた冒険者達の目つきが変わる。金貨10枚も得られる機会など滅多になく、逃げ出そうとした者さえも踏み止まってレナ達に武器を構えた。


そんな彼等の態度の変化に気付いたレナはため息を吐きながらもカーネに視線を向けると、彼の耳元に光り輝いている物体に気付く。



(あれは……間違いない、ゴエモンから盗まれたイヤリングだ!!)



予想通り、ゴエモンを利用してオリハルコンのイヤリングを盗み出したのがカーネだと知ったレナは目つきを鋭くさせ、何としても取り戻すために動く。


イヤリングの居所を掴んだレナはカーネからイヤリングを奪い返すために駆け出し、その様子を見た金に目が眩んだ冒険者や兵士たちが彼を捕まえようと駆けつける。



「退け!!」

「こ、このっ……調子に乗るな!!」

「やっちまえ!!」

「報酬は山分けよ!!」



立ちはだからる3人の冒険者に対してレナはブーツに付与魔法を発動させると、直前まで駆け抜けて接近を行う。最初に飛び出したのは槍を構えた冒険者であり、ミナも扱う戦技を発動させる。



「喰らいやがれ!!乱れ突き!!」

「遅いっ!!」



無数の突きを繰り出してくる冒険者に対してレナは身を反らすだけで回避を行い、攻撃を全て躱された冒険者の男を目を見開く。


普段から魔法学園での訓練で槍騎士のミナと戦い慣れているレナにとっては槍使いの相手は慣れていた。しかもミナの槍と比べれば目の前の男の攻撃は隙が大きく軌道も読みやすかった。更に突き出された槍を逆にレナは掴み、力ずくで引き寄せる。



「ふんっ!!」

「その程度の力で……うおっ!?」

「嘘っ!?」

「そんな馬鹿なっ!?」



レナが手元の重力を操作して男から槍を掴むと、そのまま男の身体ごと持ち上げ、屋敷に生えている樹木へと叩きつける。細腕から繰り出されるとは思えない程の桁違いのレナの腕力(正確には重力)に残りの2人の冒険者は驚愕するが、続けてレナは奪い取った槍を勢いよく屋敷の壁に向けて投擲する。


投げつけられた槍は壁に刃が突き刺さり、それを見たカーネは自分を狙って攻撃してきたのかと焦るが、槍は二階の窓の近くに突き刺さった。3階の部屋に存在するカーネは安堵しかけたが、槍の突き刺さった位置を確認したレナはそのまま駆け抜けた。



「ふ、ふん!!いったい何処を狙って……」

「ふんっ!!」



ブーツに魔力を施したレナは重力を操作して壁に足を立てかけると、そのまま壁を平地のように駆け抜けて槍が突き刺さった箇所まで「壁走り」を行う。こちらの壁走りはシノの走り方を参考にしており、彼女の場合は三角飛びの要領で壁を蹴るように移動するのをレナは何度か見た事がある。


戦闘職の人間でも極めて困難な方法でレナは槍が刺さった位置に移動すると、そのまま突き刺さった槍に乗り込み、槍を足場にしてカーネの部屋まで乗り込む。



「お邪魔しますっ!!」

「ぎゃああっ!?」

「ひいいっ!?」



部屋の中にはカーネと伝令役の兵士だけが残っており、レナは部屋の中に入り込むとカーネの元に駆けつけ、その声切った腹部に容赦なく拳を放つ。



「だあっ!!」

「ぐぇええええっ!?」

「ひぃやぁっ!?」



散々にこき使われた恨みも込めてレナは魔法の力を頼らずにカーネの腹部に拳を充てると、カーネは苦悶の表情を浮かべて膝を付き、その場で見悶える。その様子を見て怯え切った兵士は悲鳴を上げて部屋の中から逃げ去り、仮にも主人であるカーネを置いて逃げ出した兵士に呆れながらもレナはカーネを見下ろす。


カーネは腹部を抑えた状態でうずくまり、涙目でレナを見上げるが、そんな彼を見てもレナは何とも思わない。これまでの彼の所業でどれほど苦労を掛けさせられたかと思うだけで同情する余地はなく、ダリルから盗み取ったイヤリングをレナは奪い取る。



「ふんっ……」

「ま、待てっ……げほ、ぐほっ!?そ、それは儂の……うげぇええっ!!」



遂には耐え切れずに嘔吐を始めたカーネにレナは眉を顰め、とにかく目的の物を取り返す事に成功したレナはイヤリングを片手に窓から飛び降りる。その様子を見ていたナオとデブリも傭兵と兵士達を放り出し、レナの元へ向かう。



「く、くそっ!!お前等、何者だ……」

「退けっ!!」

「ぐえっ!?」

「あ、あんた何を……」

「当身」

「きゃんっ!?」



残った二人の冒険者に関してはデブリが突っ張りで男の方を吹き飛ばし、女の方はナオは首筋に手刀を叩き込んで気絶に追い込む。3人は無事に合流を果たすと、イヤリングを取り返した事を確認して頷く。


囮役としてレナ達が地上の人間の注意を引き、その間に下水道に屋敷内に侵入したシノたちがイヤリングを取り返す作戦だった。しかし、予想外にもカーネが現れた事でイヤリングの回収に成功したレナ達はこれからどうするべきか手短に話し合う。

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