第294話 重騎士カツ
「はああっ!!」
『ぐあっ!?』
「そ、そんなっ!?」
「カツさんっ!?」
レナは掌底を繰り出すのと同時に掌に込めた付与魔法を解除させ、カツを吹き飛ばす。その光景に敷地内の人間達は彼でも駄目かと思われたが、吹き飛ばされたカツは空中にて体勢を整えると無事に着地を行う。
『とっとっ……今のは発勁か、中々やるな』
「か、カツさん!!無事ですか?」
『ああ、平気だ。ていうか、お前等邪魔だから下がってろ』
確実にナオが打ち込んだ衝撃は鎧の内部にも通じているはずだが、カツは自分に群がろうとする兵士達を払いのけ、何事もなかったようにレナ達の元へ歩む。その光景にレナとナオは冷や汗を流し、流石に「黄金級冒険者」は先ほどまで自分達が倒した冒険者達とは格が違う事を思い知らされる。
ナオの発勁、そしてレナの付与魔法を利用した衝撃波をまともに受けてもカツは動じる様子もない。これが「黄金級冒険者」の実力なのかと戦慄を覚え、レナは最初に彼の攻撃を受けたデブリに視線を向けると、彼は身体を震わせながら起き上がった。
「ぐうっ……いてて、なんだ今の攻撃は……!?」
「デブリ君、大丈夫?」
「ああ……気を付けろ二人とも、あいつの攻撃は身体の芯まで響く。間違いなく、ゴロウ先生と同じぐらい強いと思うぞ」
「つまり、実力は帝国の将軍級というわけですか……」
直に攻撃を受けたデブリだからこそカツの攻撃の「重さ」が良く分かり、彼の見立てでは魔法学園の騎士科の教官を務めるゴロウと同程度の実力者だと判断した。ゴロウにはレナも何度か組手を行い、場合によっては勝利した事もある。だが、彼は生徒であるレナ達には決して本気で戦った事はない。
ゴロウが訓練を行う際は手加減をしていたというわけではないが、彼が本気を出すのは敵と判断した相手のみであり、教え子である生徒に対してゴロウが全力を出す事はない。実際にレナがゴロウに勝利したのは彼が積極的に攻撃を行わず、防御だけに専念しただけである。もしもゴロウが本気で戦えば万全の装備を整えたレナでも勝てる保障はない。
しかし、3人の目の前に存在するカツはゴロウのように手加減を行って戦う理由はなく、しかもゴロウと違って大盾だけではなく槍も扱う。先ほど、屋敷の人間達が彼の事を「重騎士」と呼んでいた事にレナは思い出し、魔法学園の授業で習った「重騎士」の称号の詳細を思い出す。
――戦闘職の中でも「騎士」の名前が付く職業は複数存在し、例えばミナのような「槍騎士」は攻撃力特化、ゴロウのような「盾騎士」は防御力特化の職業だと言われている。しかし、その中間に位置する存在として「重騎士」と呼ばれる希少職が存在した。
レナの付与魔術師と同様に「重騎士」の職業は極めて珍しく、この職業を持つ人間は滅多にいない。恐らくはヒトノ国の中でも1人か2人しか存在せず、その能力に関しては攻防どちらにも優れた事から不遇職と相反した「優遇職」とさえ言われている。
重騎士の称号を持つ人間は体格に恵まれ、身体能力も非常に高い。そのために彼等の大半は盾と槍を同時に装備するだけではなく、甲冑などの重装備を身に着けて行動する事も出来た。全身を鎧で身を守り、尚且つ槍と盾を利用して相手を圧倒する戦力を発揮するという点では正に優遇職という言葉は相応しかった。
攻撃にも防御にも優れた重騎士の称号を持つ人間の多くは英雄として名前を刻む事が多く、現に目の前に立つカツも黄金級冒険者として人々に名を知らしめている。最後の最後でとんでもない相手が来た事にレナ達の運は尽きたかに思えた。
『お前等が何者かは知らないが、随分と派手にやってくれたな……個人的にここの雇い主は気に入らないが、かといって賊を見逃すわけにはいかねえ。まあ、大人しく捕まってくれ』
「……戦うしかなさそうですね」
「くそっ……まさか黄金級冒険者を相手にする日がくるなんて」
「厄日だね……」
レナ達はカツを前にして冷や汗が止まらず、どのような手段で彼を倒すか、あるいはこの状況を切り抜けるのかを考える。まともに戦えば勝てる相手とは言えず、しかも今のレナは闘拳と籠手と魔銃さえも装備していない。
万全な状態で挑めば勝機はあったかもしれないが泣き言は言えず、レナはどうやってカツから逃げ延びるのかを考える。相手は甲冑を装備していても移動速度は素早く、下手に逃げようとしても追いつかれる可能性はあった。
しかし、戦闘を長引かせれば警備兵が駆けつけて取り囲まれる恐れがあるため、この場に長居は出来ない。ならばレナ達が逃げ延びるにはカツを倒す、あるいは追跡できない状態に追い込めなければならない。
『さあ、来い!!』
「うおおおっ!!」
「行きますっ!!」
「やるしかないかっ……!!」
カツに向けてデブリとナオが真っ先に駆けつけ、レナも両手と両足に付与魔法を発動させて挑む。しかし、すぐに彼等は黄金級冒険者の実力を思い知らされる事になった――
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