第289話 仮面の集団

「やべぇっ!!」

「うおおおっ!?」

「ひぃいいっ!?」



ゴエモンが頭を伏せた瞬間、今度は窓の方から鉄の槍を想像させる物体が飛来すると、車輪と同じく壁に突き刺さる。その光景を見たカーネと伝令役の兵士は腰を抜かし、ゴエモンは慌ててカーテンを閉めると壁に視線を向けた。


投擲物の正体はどうやら槍ではなく、鉄柵の一部を力尽くでねじ切ったと思われる「鉄格子」だと判明した。その事実にゴエモンは戦慄を覚え、鉄格子をまるで粘土のように引き千切る程の怪力を誇る相手が現れたのかと動揺を隠せない。



(信じられねえ……いったい何者だ?)



ねじ切られた鉄格子を見てゴエモンは焦りを抱き、このまま残り続けると危険だと判断した彼は早々に立去る事に決めた。



「悪いなカーネ会長、俺は退散させてもらうぜっ!!」

「ま、待て!!この状況で儂を置いていくな!?」

「そんな事を言われても俺にはどうしようも出来ねえよ!!」

「こ、この人でなしがぁっ!!」

「あんたにそれを言われたらお終いだなっ!!」



腰を抜かしたカーネを置いてゴエモンは早々に部屋から立ち去ると、カーネは去っていくゴエモンに恨みがましい声を掛けるが、ゴエモンは意にも介さずに走りさる――






――その一方で騒動が起きている屋敷の正門ではが全身をフードで覆い隠し、仮面を身に着けた3人組が敷地内に乗り込んでいた。


ちなみに仮面のデザインに関しては先日にゴマン伯爵の元に現れた3人組の侵入者が所有していた物と酷似しており、その中の一人がカーネが存在する部屋に車輪と鉄格子を投擲した張本人である。



「……カーテンを閉められちゃった。これじゃあ、中の様子が分からないな」

「いや、それよりこれ大丈夫なのか……正体ばれたら僕達、犯罪者だぞ、おい」

「ばれなければ問題ありません……た、多分」

「ちょっとやりすぎちゃったかな……今ので誰か死んでないといいけど」



変装して屋敷の中に乗り込んだのはレナ、ナオ、デブリの3人であり、彼等はシノたちが下水道を通って屋敷の中に入り込む間、地上で騒動を起こして屋敷の中の人間の注意を引くために乗り込んできた。


正門を守護していた兵士はデブリの突っ張りで気絶させ、鉄格子に関してはレナが付与魔法の力を利用して力尽くで破壊した後、3人は堂々と乗り込む。その光景を見て屋敷内に存在するカーネが雇った傭兵と冒険者が集まり、3人を取り囲む。



「て、てめえら何者だ!!ここを何処だと思ってやがる!!」

「こんな事をしてただで済むと思っているのか!?」

「生きて帰れると思うなよ!!」



典型的な脅し文句を告げながら武器を構えた傭兵と冒険者達に対し、レナ達はお互いの顔を見ると頷き、それぞれが武器を取り出す。




――レナ達の目的は屋敷で騒動を起こす事で注意を引き、下水道から忍び込むシノとミナとアリアの手助けを行うために時間を稼がなければならない。そのためには派手に暴れまわる必要があり、これまでの鬱憤を晴らすためにレナ達は身構える。




但し、今回の作戦は正体が判明しないようにするために普段通りに戦うわけにはいかず、色々と工夫して正体が気付かれないように戦わなければならない。


そのためにレナは敢えて素手の状態で乗り込み、デブリの方も見張りの兵士が身に着けていた大盾を構え、ナオに至ってはレナが付与魔法の力で引きちぎった鉄格子を武器にする。



「おい、ナ……じゃなくて、3号。お前、そんなの使えるのか?」

「長物に関してはそれなりに扱えます。勿論、本職の方と比べればお粗末な物でしょうが……この程度の相手なら問題ありませんよ2号」

「心強いね、なら1号、参ります!!」

「な、何なんだこいつら……」



明らかに偽名と分かる名前で呼び合うレナ達に屋敷の人間達は戸惑うが、すぐに気を取り直して向かい合う。正門を破壊して乗り込んできた彼等を取り逃がせば後でカーネからどのような仕打ちを受けるのかも分からず、真っ先に動いたのは傭兵だった。



「おら、お前等は邪魔をするな!!こいつらは俺がやる!!」

「あ、おい!!油断するな!!」

「うるせえっ!!冒険者は黙ってろ!!対人戦なら俺達の方が上手だ!!」



魔物と戦う事を生業とする冒険者と比べ、傭兵の相手は常に人間が相手である事が多く、対人戦という点では彼等の方が経験も技術も優れている。魔物相手には通じない戦法も人間が相手ならば通用する事が多く、傭兵たちはレナ達に接近すると見せかけてボーガンを構えた。


傭兵たちはレナ達に向けて同時に矢を放ち、咄嗟にレナは魔法を、デブリは盾で防ごうとしたが、二人が動く前にナオは鉄格子を回転させるとミナの「大車輪」のように全ての矢を払い除けた。



「はあああっ!!」

「うおっ!?」

「わっ、凄い3号君!!」

『何ぃいいっ!?』



打ち込んだ矢を鉄格子で払い除けたナオに傭兵たちは驚愕の表情を浮かべ、慌てて彼等は新しい矢をボーガンに装填しようとした。だが、普通の弓矢と違ってボーガンの場合は矢の装填に時間が掛かり、その隙を逃さずにレナ達は動く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る