第288話 ゴエモンの直感
「くくくっ……素晴らしい、ダリルの奴め!!雇っている鍛冶師だけは一流のようだな、だが伝説の聖剣の素材を武器ではなく装飾品に加工するとはな」
「そんな物をどうする気だ?盗品である以上、お前は大っぴらに身に着ける事もできないだろうが?」
「何を言っている、このイヤリングはまだ正式に競売品として登録はされておらん。ほんの少し加工を加えれば、後は儂の雇った冒険者がオリハル水晶を入手して作り出した代物だと言い張れば奴等は何も出来ん」
「悪党だな……けど、そして競売でヒヒイロカネのネックレスを手に入れればあんたは全てを手にするわけか」
「その通りだ!!よくやったぞゴエモン、お前は最高の盗人だ!!」
「……義賊だと言ってんだろうが」
ゴエモンはカーネの言葉に眉を顰めながらも机の上の大量の金貨に視線を向け、今度はどのように扱うのかを考える。ゴエモンは浪費癖が激しく、金銭を貯蓄するという発想はない。
適当に今回も半分は民衆にばらまいた後、残りの半分は盗賊ギルドに渡しておけば彼等もゴエモンの動向を見逃すだろう。全ての金貨を失う事になるが、ゴエモンの次の目的は「競売」だった。
(今の内に楽しんでおけ、そのイヤリングもヒヒイロカネも趣味の悪い金の像も……全部、俺の物にしてやる)
ゴエモンは競売が行われると知った日から次の目的は競売の品と売上金を狙い、盗賊ギルドが関わっていると知りながらも彼は競売の利益を全て盗み取る算段を立てる。
当然だがそんな事をすれば競売の関係者だけではなく、盗賊ギルドを敵に回す。しかし、いい加減にゴエモンにとっては盗賊ギルドという存在に嫌気を差していた。
(この国もそろそろ潮時だな……今度は獣人国辺りにでも行くか?)
酒を味わいながら競売の日にゴエモンはどのような手を使ってカーネや盗賊ギルドの人間を出し抜こうかと考えた時、不意に彼は窓に視線を向けて違和感を感じとる。そしてイヤリングを手にして上機嫌のカーネに話しかける。
「おい、おっさん」
「おっさんだと!?お前、儂を誰だと思って……」
「そんな事よりも外が騒がしくないか?何かあったのか?」
「な、何!?まさか、ダリル商会の奴等が乗り込んできたのか!?」
カーネは慌てて窓を開くと、ゴエモンも後ろから覗き込み、様子を伺う。すると屋敷の出入口の方で人が集まっており、なにやら騒いでいる様子だった。
何事が起きたのかとカーネはベルを鳴らそうとした時、先に扉が開いて私兵が部屋の中に入り込み、慌てた様子で報告を行う。
「た、大変ですカーネ様!!」
「何だ貴様っ!?許可もなく入りおって……」
「どうした?何か起きたのか?」
無断で部屋に入って来た兵士にカーネは怒鳴りつけようとしたが、ゴエモンは咄嗟に仮面を装着して彼を制する。
兵士は仮面を装着した謎の男が存在する事に驚くが、カーネの傍に居る事から客人か何かだと判断して報告を続けた。
「そ、それが……襲撃です!!フードで全身を覆い隠し、銀色の仮面を装着した男が入ってきて暴れています!!現在、傭兵と冒険者が対応していますが苦戦を強いられています!!」
「な、何だと!?おのれ、ここを何処だと思っている!!天下のカーネ商会の屋敷だぞ!!」
侵入者が現れたという言葉にカーネは慌てふためき、一方でゴエモンの方は興味深そうに窓から外の光景を確認する。忍者である彼は視力も高く、当然だが「暗視」や「遠視」といった技能も習得していた。
この状況下で侵入者が現れたという事にゴエモンは直感でレナ達の顔が思い浮かび、理由は不明だが彼等が「自分達」を追ってここまで現れたのかと考えたゴエモンは様子を伺う。
(命知らずか、それとも余程自信があるのか……忍び込まずに正々堂々と乗り込むとは面白そうな奴だな。さて、どんな奴が来た……!?)
面白そうに笑みを浮かべながら正門の方へ視線を向けたゴエモンは視界に入った光景に目を見開き、彼の瞳には自分達の部屋へ目掛けて突っ込んでくる「馬車」の車輪が映し出される。
迫りくる車輪に大してゴエモンは咄嗟に身体を反らすと、車輪は窓を破壊して部屋の中に入り込み、そのまま壁に激突してめり込む。壊れるではなく、壁にめり込んでしまった車輪を見てカーネと兵士達は悲鳴を上げた。
「ぬおおっ!?」
「ひいいっ!?」
「……あっぶねぇっ!?な、何だ今のは!?」
ゴエモンは部屋の壁にめり込んだ車輪に視線を向け、いったい何が起きたのか理解するのに時間が掛かった。しかし、まるでアートのようにめり込んだ馬車の鉄製の車輪に視線を向け、冷や汗を流しながら目の前の光景の原因を理解した。
(まさか……投げ飛ばしたのか!?正門からこの部屋まで車輪を!?いったいどんな馬鹿力だ!!こんな事が出来るのは巨人族ぐらいだぞ!!)
信じられない事だが、正門の方角から何者かが鉄の車輪を投げつけたという事実にゴエモンは焦りを抱き、こんな芸当が出来るのは腕力に特化した巨人族でも難しいはずである。
まさか侵入者の正体が巨人族なのかと思ったゴエモンは破壊された窓を振り返ると、今度は更にとんでもない物が迫ってきていた。
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