第287話 カーネとゴエモン

「し、シノさん!!本当にカーネ会長の屋敷にゴエモンが入ったというんですの?」

「間違いない、臭いを辿ってきたらここへたどり着いた」

「ウォンッ!!」



自分の鼻を信じろとばかりにクロは地図に記載されているカーネの屋敷を示し、それが事実ならば現在屋敷の中にはゴエモンが存在する事になる。しかし、シノが見た限りでは屋敷に特に異変は見当たらず、ゴエモンがカーネの屋敷に盗みに入ったとは思えなかった。


この事から考えられる事はカーネが現在ゴエモンを匿っているとしか考えられず、もしかしたらカーネが商売敵であるダリルからオリハルコンのイヤリングを盗み出すためにゴエモンを利用したという可能性もある。



「まさか、カーネ商会とゴエモンは繋がっているのか!?」

「そこまでは分からない、だけどゴエモンは必ず盗みを行う時は予告状を出すと聞いている。けど、カーネ商会にゴエモンの予告状が届いたという話は聞いた事もない」

「それにカーネ会長はダリルさんの事を嫌っている……多分、カーネとゴエモンは繋がっている」



レナはマドウからカーネが盗賊ギルドと繋がっているという話は聞いており、犯罪者組織と繋がりを持つカーネならばゴエモンを動かす事が出来てもおかしくはない。



「お、おい……じゃあ、カーネ会長が裏でゴエモンを操っていたのか?」

「競売が行われる前日にカーネ商会と敵対しているダリルさんの出品物が狙われる時点で話が出来過ぎてる……きっと、カーネがゴエモンを利用してイヤリングを盗み出したんだ」

「何て卑劣な……商人にも風上にもおけませんわ!!」

「ですけど、これからどうするんですか?相手がゴエモンだけならともかく、カーネ商会が裏で手を回しているとなると迂闊には踏み込めません……」



ゴエモンがカーネの屋敷に存在するのは間違いないが、このままレナ達が乗り込んでもカーネがゴエモンの存在を惚ければどうしようもできない。逆に乗り込んできたレナ達を犯罪者扱いする可能性もある。


だからといって忍び込むにしても流石に王都一の商会主の屋敷だけはあって警備は厳重のため、侵入するのも難しい。しかし、ここでデブリはシノがカーネの屋敷で働いていた事を思い出す。



「そ、そうだ!!確かシノは元々はここで働いていたんだろ?なら、秘密の抜け道とか知ってるんじゃないのか?」

「いや、そんな都合よく知っているはずが……」

「抜け道ならある」

「あるの!?」

「それは本当ですか?」



デブリの駄目元で告げた言葉にシノはあっさりと頷き、どうしてただの商人の屋敷にそのような物があるのかとレナ達は驚くが、シノによるとカーネは裏の人間と取引を行う時のために用意した抜け道がいくつか存在するという。



「カーネ会長は表沙汰には出来ない品物を取引するときのため、屋敷にはいくつか抜け道を用意している。私が知っている中で他の人間に気付かれず、安全に侵入できるのは地下の抜け道を通るしかない」

「地下の抜け道……それってまさか」

「そう、下水道と繋がっている」



王都の地下に存在する下水道にカーネは密かに屋敷と繋がる抜け道を作り出したらしく、この抜け道を通して彼は裏取引を行い、盗賊ギルドの人間とも接触していた。


どうしてそのような重要な情報をシノが知っていたのかというと、彼女はカーネ商会の元で働いていた際、秘密裏に調査を行っていたという。


自分が仕事を辞める際にもめた時の場合を想定し、カーネの弱味を握ろうと考えて調べていたようだが、結局はレナが貸してくれた違約金を支払えたので無事に辞める事は出来たが、カーネ商会の人間はシノが抜け道を知っている事を知らないという。



「なら、抜け道を通れば屋敷の中に忍び込む事は出来るのですか?」

「やろうと思えば出来る。だけど、忍び込んだ後にゴエモンを見つけてもきっとカーネ商会の人間も邪魔をする……そうなると取り返すのは難しい」

「くそ、カーネの奴め……どうすればいいんだ」



屋敷に侵入したとしてもゴエモンを見つけ出してイヤリングを取り返すのは難しく、そもそもゴエモンはもうイヤリングを所持していない可能性もある。カーネが裏でゴエモンを操っていたとしたらイヤリングはカーネの手に渡っている可能性もあるだろう。


敵がゴエモンだけならばともかく、カーネ商会も関わっているとなると話は別となる。まがりなりにも王都一を誇る商会なので屋敷の中には手練れの傭兵や冒険者の護衛も存在する事は間違いなく、しかもレナ達の正体を知られれば立場的にも色々と不味い。


ダリル商会とジオ将軍の関係者がカーネの屋敷を襲撃すれば大きな問題になるのは間違いなく、下手をしたらダリルもジオも犯罪者として認定されてしまう。しかし、オリハルコンのイヤリングを取り戻さなければダリル商会は存続の危機に陥り、ここまで来て諦めるわけにはいかなかった――






――その頃、カーネの元には見事にオリハルコンのイヤリングを盗み出してきたゴエモンが尋ね、彼は机の上に置かれた大量の金貨と引き換えにカーネにイヤリングを渡す。



「ふっ……ふはははっ!!流石は王都一の盗賊、まさか本当に盗み出してくるとは……いやはや、たいした男だ」

「おい、俺は義賊だ。盗賊じゃねえ、二度と間違えるんじゃねえよ」

「おっと、そうだったな……悪い悪い、これからは気を付けるよ」

「ちっ……狸親父め」



カーネは自分の手元に存在するオリハルコンのイヤリングに夢中になり、普段ならばゴエモンの悪態を聞けば怒る所だが、上機嫌の彼はあっさりと聞き流す。

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