第272話 金庫

「ああ、そういえばレナ。お前が持ち帰った大剣について調べてみたが、どうやら100年以上前の時代に消えた冒険者の所持品らしいぞ!!」

「えっ!?本当ですか?」



ダリルの言葉にレナは驚き、トロールから受け取った漆黒の大剣に刻まれていた紋章を冒険者ギルドの方にて調べた結果、100年以上前に存在した冒険者組織の物だと判明する。



「冒険者ギルドの記録によると所有者は100年前に大迷宮で消息を絶っているらしい。なんでもそいつはある冒険者組織クランの長だったようだが、大迷宮で消息を絶ってからは組織は解散されて今では生き残りはいないらしいぞ」

「そうだったんですか……」

「大迷宮で発見された道具は所有者と、所有者の関係者もいない場合は遺品の所有権は発見した人物の手に渡る。つまり、あの大剣はお前の物になるんだが……あんなでかい剣、お前に扱えるのか?」



壁に立てかけられた大剣にダリルは視線を向け、レナも困った風に大剣に視線を向ける。相当な重量を誇り、少し動かすだけでも床が軋む。刀身は布で巻いているがそもそも切れ味自体はそれほど良くはなく、力で叩き切るために作り出されたとしか思えない武器だった。


元々の所有者はどうやら「巨人族」であるらしく、普通の人間の倍近くの体格を誇る巨人の種族だった。レナが回収した武器も人間の視点では大剣にしか見えないが、巨人族にとっては普通の剣程度の大きさしかないらしい。



「この大剣、とんでもなく重くてでかい割に刃毀れ一つもなかったんだろ?凄い話だよな……100年以上も大迷宮の中で放置されていたのにそのままの形で残っているなんて」

「こんな大剣、兄ちゃんかデブリの兄ちゃんしか持てねえよ」

「僕は一生素手で戦い続けるから、いらないぞこんなのっ!!」

「う~ん……どうしようこれ」



トロールからの贈り物なので一応は持ち帰ったが、レナは大剣を扱った事はない。持ち上げる程度の事ならば付与魔法を利用すれば問題はないが、慣れない剣を扱うよりは闘拳で戦う方が性に合う。


だからといって処分するのも惜しい代物であり、100年前の名工が作り上げた代物なのは間違いなく、使えないからと言って捨てるのは惜しかった。しかし、誰も扱えないので倉庫に保管するしかないのだが、大剣に視線を向けたムクチが何かに気付いた様に近付く。



「この剣は……」

「ムクチさん、どうかしたんですか?」

「いや……この大剣、工房で調べてもいいか?」

「ん?ああ、別に構わないが……レナ、運んでやれ」

「はい。デブリ君、一緒に運んでくれる?」

「仕方ないな……」



レナとデブリの二人がかりで大剣を持ち上げると、地下の工房まで運び込む。その後は大剣を調べるためにムクチは工房に閉じこもり、レナとデブリは皆の元へ戻る。



「それにしても綺麗なイヤリングだな。ムクチのおじさん、ああいう顔してこんな凝った装飾品も作れるのか」

「ちょ、コネコ!?お前、勝手に触るな!!めっ!!」

「何だよ、別にいいだろ。触っても減るもんじゃないし……ていうか子供扱いすんなっ!!」



コネコがイヤリングを手にするとダリルは慌てふためき、彼女は面白半分に自分の耳につけようとしたが、イヤリングを通す耳の穴がない事に気付く。



「あ、しまった。あたしはイヤリングは付けられないや……じゃあ、ドリスの姉ちゃんが付けてくれよ」

「ええっ!?きゅ、急に言われても……」

「こら、コネコちゃん!!ダリルさんに迷惑を掛けたら駄目だよ?」

「へいへい……あ、やべっ。落としちゃった」

「おいぃいっ!?傷がついたらどうする気だ!?」

「いや、落ち着いてくださいダリルさん……落とした程度で傷がつくはずないでしょ」

「むしろその程度で傷ついたら大変な事だよね」



誤ってコネコが床に落としたイヤリングをダリルは取り返すと、彼はハンカチで丹念に磨き、傷がないのかを確認する。その様子を見てレナ達は呆れた表情を浮かべた。


冷静に考えれば魔法金属のミスリルよりも頑丈で伝説の武器の素材にも利用されれているオリハルコンがその程度の事で傷がつくはずないのだが、ダリルは大げさにハンカチで包んで保管することにした。




「こ、これ以上にお前達にイヤリングを好きにさせられない!!こいつは俺の金庫の中に入れておくからな」

「ちぇっ……けちんぼっ」

「コネコ、わがまま言ったら駄目だよ」

「僕、もうちょっとだけ見たかったな……」

「私もですわ。ですが、我儘は言えませんわね」

「…………(←羨ましそうに見るナオ)」



ダリルはハンカチに包んだイヤリングを急いで自分の部屋の金庫へ戻すために向かうと、残されたレナ達はしばらくの間は雑談を行う。この後に皆で外に遊びに行こうかと相談を始めようとした時、ダリルの悲鳴が屋敷中に広がった。




『う、うわぁあああっ!?』

「ダリルさん!?」

「何だっ!?」




悲鳴を聞きつけたレナは即座に起き上がると、階段を駆け上がってダリルの部屋の元へ急ぐ。他の者達も慌てて後に続き、屋敷の中の使用人や傭兵たちも何事かと集まり、ダリルの部屋に向かう。


いち早く反応したレナとコネコが扉を開くと、そこには金庫を開いた状態で腰を抜かすダリルの姿が存在した。いったい何事が起きたのかとレナ達はダリルの元へ駆け寄ると彼は金庫を指差す。

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