競売編

第271話 オリハル水晶の加工

――競売の開催日まで2日後に迫り、ダリル商会の方ではオリハル水晶の加工を実行していた。だが、流石に伝説の金属というだけはあって加工は非常に難しく、ダリル商会の専属鍛冶師のムクチだけではなく、工業区から何人もの鍛冶師が訪れて協力して加工を行う。


オリハル水晶の加工の際、普通の魔炉では火力が足りないという理由からブロックゴーレムの残骸の煉瓦を利用して新しい魔炉を作り出す。念のために回収しておいたブロックゴーレムの素材が功を奏し、結果として最高の魔炉が出来上がった。


回収できたオリハル水晶から作り出せるのはせいぜい装飾品程度の物しか生み出せず、色々と話し合った結果として完成したのはオリハルコンの「イヤリング」だった。



「完成したぞ、これだ」

「おおっ……こ、これがオリハルコンか!?」

「なんと美しい……まるで宝石にしか見えませんわ!!」

「へえ、これが伝説の金属なのか」



屋敷の元に全員が集まり、ムクチが机の上に乗せたイヤリングを覗き込む。外見は美しく光り輝く青色の宝石にしか見えず、誰もが魅入られてしまう。


宝石などには大して興味がないレナでさえもその美しさに圧倒され、作り出したムクチも珍しく自慢気に頷いた。



「こいつを作り出すのに二日も徹夜したが、どうにか間に合わせたぞ」

「流石はムクチだな!!あんたこそが王都一の鍛冶師だ!!」

「礼を言うなら手伝いをしてくれた奴等に言ってくれ、最も今は疲れ果てて眠り込んでいるがな」



オリハルコンの加工に手伝いをしてくれたムクチの知り合いの鍛冶師達は工房で気絶したかのように眠っていた。それほどまでにオリハルコンの加工は難しく、時間が掛かるので鍛冶師に負担が大きい。


しかし、その負担に見合う代物が出来上がった事は間違いなく、オリハルコン製のイヤリングなど世界でも一つか二つしか存在しない貴重な代物である。これだけでも金貨が数百枚、下手をしたら数千枚の価値を誇るだろう。



「実験の結果だが、このオリハルコンというのはミスリル以上の硬度と魔法耐性を誇る。そのせいで加工するのに手間取ったが……流石は伝説の聖剣の素材だ」

「なるほど……だが、これでうちの商会は安泰だ!!へへへ、カーネの奴の悔しい顔が見れると思うだけで楽しみだ」

「しかし、本来は武器の素材として使われる物だ。今回は量の問題で装飾品にしたが、もっと素材があれば良かったがな……」

「しょうがないじゃん、あたし達もあれから何度か煉瓦の大迷宮に挑んだけど、結局は最初に遭遇したブロックゴーレム以外は見つからなかったんだからさ」



レナ達はブロックゴーレムの討伐後、何度か煉瓦の大迷宮に再挑戦した。しかし、ブロックゴーレムと遭遇したのは最初の一回だけでそれ以降は姿かたちも見えず、結局は捜索を断念してしまう。


他の冒険者達もブロックゴーレムを倒してオリハル水晶を入手したレナ達の話を聞き、大勢の冒険者が煉瓦の大迷宮に挑む。だが、結果としては誰一人としてブロックゴーレムの発見には至らず、未だにレナ達以外の冒険者集団がオリハル水晶を手に入れたという話は聞いた事がない。



「それはそうとレナ、お前の闘拳も修理しておいたぞ。もう無理に扱うなよ」

「あ、すいません……ありがとうございます」



レナはムクチに修理を頼んでおいた闘拳を渡してもらい、完璧に直してもらった闘拳を見て嬉しそうに抱きしめる。色々と思い出のある武器なので直ったのは嬉しいが、ムクチはレナに忠告する。



「今のお前の戦闘法だと、その闘拳は耐え切れない。本来ならば何らかの強化を施す必要があるが、現状の設備と素材ではそれ以上の物は作り出せない事を忘れるな」

「はい……毎回、迷惑を掛けてすいません」

「謝るな、簡単に壊れるような代物しか作れない俺の落ち度だ」



ムクチの言葉にレナは謝罪するが、ムクチ本人はレナが闘拳を壊した事に怒っているわけではなく、現時点のレナの戦闘法に闘拳の方が耐え切れなくなったことを告げる。レナの成長に武器の方が追い付かず、いずれは限界を迎えることをムクチは予想していた。


付与魔法は物体に魔法の力を宿す性質上、物体に負担を掛けるという欠点を持つ。だからこそ魔法耐性の高いミスリルなどの素材でレナの闘拳は強化されているが、そのミスリルでさえも限界を迎えようとしていた。このまま闘拳を使い続けるのであればミスリルを超える素材、それこそオリハルコンのような武器でなければレナの戦闘に耐え切れない可能性が高い。


魔法学園に通うようになってからレナの付与魔法は更に磨きを増し、魔法の威力も精度も上昇していた。しかし、反面に使用する武器の方に大きな負荷が掛けられるようになり、このままレナが成長すればいずれは武器その物が耐え切れなくなるだろう。

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