第268話 アリス商会
「なら、アリス商会がこの戦斧を買い取ってくれるの?」
「いえ、残念ながらうちの商会もあまり財源に余裕はありません。商会主だった父の浪費癖が激しかったので……」
「苦労してるんだお前の所も……」
ドリスの父親はレナに「魔銃」を売却した男性であり、現在は商会主の座をドリスの母親に譲って今は店の下働きとして働いているらしい。一応は離婚は免れたらしく、現在は母親の監視の元で真面目に働いているという。
アリス商会も貯蓄はあまりなく、そもそも商会が取り扱っているのは日常雑貨品と宝石の類なので「武器」である金色の戦斧を持ち込まれても対応に困る。しかし、ドリスはアリス商会の力でこの金色の戦斧を利用して大金を稼ぐ方法を見出す。
「アリス商会も例の競売に参加して、この戦斧を出品しますわ!!そうすればうちの商会の格も上がり、普通に売却するよりも利益が得られますわ!!」
「競売に参加!?」
「……なるほど、確かにそっちの方が儲かりそう」
数日後に行われる競売にはゴマン侯爵の「ヒヒイロカネ」を筆頭に様々な商会が出品を行い、その中にアリス商会も加わるという。競売に参加するのは殆どが大手の商会であり、出品される品物も市場では滅多に入らない高級品ばかりである。
アリス商会は規模が小さく、父親が浪費家である事からカーネ商会にも目を付けられず、ひっそりと経営していた。しかし、商会主が母親に代わってからは経営が一気に好転し、ダリル商会のようにカーネ商会の傘下に入る事もなく経営を維持していた。
「実を言うと私の商会も最近ではカーネ商会に目を付けられているようですの。そのせいか、客足が徐々に減っていますわ」
「そうなの?」
しかし、最近になってカーネ商会の方も今まで放置してきたアリス商会が目立ってきた事を煩わしく思い、何度も傘下に入るように手紙を送りつけたり、あるいは陰湿な嫌がらせを行うようになってきた。
しかし、ドリスの母親は屈せず、逆に対抗心を抱いていた。そしてドリスはこの戦斧を利用すればカーネの鼻を明かす事が出来るのではないかと考える。
「この「金色の戦斧」をアリス商会が出品すれば必ず普通に売却するよりも高額で競り落とされるのは間違いありません!!そしてカーネ会長が出品する代物よりもこちらの戦斧の方が高く取り扱われるのは間違いありませんわ!!そうなればカーネ会長の面目も丸つぶれ間違いなし!!」
「なるほど、それは良い考えだな!!」
「けど、そんな事をすればますますカーネ商会に目を付けられるんじゃ……」
「いえ、これは戦ですわ!!競売でアリス商会の知名度を上げ、ダリル商会さんのようにカーネ商会に屈しない事を示せば嫌々従っているカーネ商会の傘下の商会も反旗を翻す可能性もあります!!実際に既にカーネ商会から離れた商会も存在します!!」
ミスリル鉱石の一件でダリル商会が一時期王都のミスリル鉱石を独占していた頃、カーネ商会の傘下を離れた商会も存在した。現在はカーネ商会もミスリル鉱石を再び取り扱うようになったが、未だに傘下に戻らない商会も少なからず存在した。
ダリル商会が現れるまでは王都の商会は全てカーネ商会の管理下にあったが、ダリル商会という対抗組織が出来上がった事で状況は一変する。今まで不満を抱きながらも渋々と従っていた商会も立ち上がり、徐々にではあるが盤石だったはずのカーネ商会の権威が崩れ始めていく。
「皆さん、どうか私を信じてください!!必ずアリス商会はこの戦利品を高額の値段で売りさばき、必ず皆さんに分配しますわ!!」
「お、おう……まあ、そこまで言うなら僕はいいけど」
「ドリスの商人魂に火が付いちゃった……こういう時は止められないんだよね」
「僕は別にお金はいいけど……」
「それは駄目ですわミナさん!!この戦利品はここにいる皆の力で手に入れたのです、ならば全員に均等に分配する義務があります!!必ず受け取ってもらいますわよ!!」
「う、うんっ!?そ、そうだね?」
「そこら辺は律儀だなドリスの姉ちゃん……」
「私はお金がいっぱい手に入るなら別に構わない」
「俺もいいよ」
「凄い娘さんだな……これは将来が楽しみだ」
ドリスは商会主の娘として絶好の好機は見逃さず、全員の承諾を得るとひとまずは戦斧の件に関しては彼女に任せる事にした。
その後は一旦解散となり、ドリスはナオと共に目立たないように裏口から抜け出し、自分の家へと戻る。ダリルの方も外に集まった人間の対応を行い、とりあえずは「オリハル水晶」が手に入ったことが本当である事を伝え、新聞記者にはダリル商会が「オリハル水晶」あるいは加工した「オリハルコン」を出品するという事を新聞に記載するように伝える。
この事実を知って最も慌てたのがカーネであり、彼は即座に盗賊ギルドに連絡を取って相談を行うために七影のジャックを呼び出した。
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