第267話 群がる人々
――結局、逃げ出した二人の捜索は諦めたレナ達は仕方なく引き返すことを決め、転移石を使用して帰還を果たす。尚、戻る前に素材の回収はしっかりと行い、何かに仕えるかもしれないブロックゴーレムの残骸、解体したミノタウロスの素材、そしてトロールから受け取った大剣を手にして帰還を果たす。
短時間で戻って来たレナ達に兵士達は驚くが、彼等が持ち帰って来た品物を見てさらに動揺を隠せず、あろうことか「オリハル水晶」と「金色の戦斧」を持ち帰って来たレナ達は注目を浴びてしまう。
ブロックゴーレムの噂が真実であった事、そして伝説の魔法金属であるオリハルコンの素材であるオリハル水晶を手にしたのが「ミスリル狩り」で知られるレナである事は一気に市中の噂となり、ドリス達に関しても金色の戦斧の件で知名度を上げた。
レナ達は冒険者ギルドへ自分達が金級冒険者のゴウが率いる冒険者集団に襲われた事を報告した後、ダリル商会へと引き返す。それを予測していたようにダリル商会の元には大勢の人間が集まり、本当に彼等が「オリハル水晶」を手に入れたのか確かめるために問い合わせようとする。
「ここにオリハル水晶があるというのは本当か!?是非、我が商会に譲って……いや、買い取らせていただきたい!!」
「頼む、オリハル水晶を見せてくれ!!伝説の金属の素材と聞けば鍛冶師として黙っていられないんだ!!」
「ダリルさん、どうか詳細を教えてください!!次の新聞の一面として飾らせてください!!」
ダリルの屋敷の元には別の商会から派遣された人間や、工業区の鍛冶師が集まり、その他にも新聞記者まで乗り込んでいた。誰もが本当にダリル商会の元に「オリハル水晶」があるのかを確かめるためだけに訪れ、そんな彼等の様子を窓から確認するダリルは冷や汗を流す。
商会を立ててからここまで人間が集まるなどレナがミスリル鉱石を回収して以来であり、しかも今回は伝説の金属の素材を一目見ようと商人だけではなく、冒険者や貴族まで訪れている。今はダリルの傭兵が対応しているが、このままでは屋敷の中にまで乗り込んできそうな様子だった。
「そ、外が凄い事になってるな……だが、よくやってくれたお前等!!これでうちの商会は安泰だ!!」
「兄ちゃん、このオリハル水晶どうすんだ?金庫にでも入れとく?」
「そうだな……あ、そういえばこの間、訓練してた時に漬物石を間違って壊しちゃったから代わりに置いとこうか」
「その発想はなかった」
「いや、何してんだお前等!?」
伝説の金属の素材となるオリハル水晶を漬物石代わりに利用しようとするレナとコネコとシノにダリルは叱りつけ、慌てて二人を止める。その一方で紅茶を味わいながらもドリスは話を本題へ戻す。
「皆さん、私の提案を聞いてくれますか?」
「どうしたドリルの姉ちゃん」
「いえ、ドリスですわ。というか前々から思っていたのですけど、ドリルとは何ですの?」
「あれ……言われてみればあたしもよく分かんないや。何故かドリスの姉ちゃんの髪の毛を見てるとドリルと言いたくなるんだよな……なんでだろう?」
「気持ちは分かる」
ドリルを見た事もないはずのコネコだが、何故かドリスの特徴的な髪の毛を見ているとドリルと呼んでしまう。他の人間も同じ気持ちなのか頷き、一方でドリスの方は訝し気な表情を浮かべながらも話を続けた。
「まあ、それはいいですわ。そんな事よりもこの金色の戦斧に関してなんですけど、どのように取り扱うのかが問題なのです」
「どのようにって……こんなの、売りさばいて手に入れた金を山分けするだけだろ?」
「いえ、私が言いたいのはこの金色の戦斧を何処の商会に売却するのかですわ」
商会という言葉に必然的にレナ達の視線はダリルに集まるが、彼は慌てて首を振って自分の商会に金色の戦斧を高額で買い取る余裕は無い事を知らせる。
「いやいやいや、俺の方を見るなよ!!前にも言っただろ、今は新しい屋敷を建てているから余裕がないって!?」
「そういえばそうだったな。じゃあ、別の商会に買い取ってもらうとか?」
「カーネ商会に売る方が高く買い取ってくれるんじゃないのか?」
「それは辞めておいた方が良い、あそこは碌でもない」
『確かに』
金色の戦斧を一番高く買い取ってくれそうななのは王都の商会を牛耳るカーネ商会ではあるが、カーネの人柄を知っているレナ達は個人的に彼が得するような取引はしたくなかった。
しかし、カーネ商会以外に金色の戦斧を高く買い取ってくれそうな商会に心当たりはなく、それでも苦労して手に入れたのだからできる限りの高額で売却したいと考えたレナ達に対してドリスは自分の提案を伝える。
「それでしたら皆さん、この戦斧は私に任せてくれませんか?」
「ドリスさんに?」
「あ、そういえばドリスの姉ちゃんも商人の娘だったよな!?確か、ドリル商会だっけ?」
「いえ、違いますわ。私の商会は正式名は「アリス商会」です。商会主が母親に代わってから改名しましたの」
「アリス商会といえば……確か、日常で使う雑貨品と、宝石を取り扱う商会だったか?」
ダリルもアリス商会の事は知っているらしく、ダリル商会と同じく王都ではカーネ商会に属していない数少ない商会である。
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