第264話 魔石弾

「今度は失敗しませんわ!!火炎槍!!」

「ブモォオオッ!?」



ドリスが両手を構えると合成魔術を発動させて炎の槍を生み出し、ミノタウロスへと直撃させる。火炎というよりは爆炎と表現した方が正しく、まともに魔法を受けたミノタウロスは吹き飛ぶ。


火球と風圧の合成魔術「火炎槍」の威力は並の砲撃魔導士の砲撃魔法にも劣らず、更に砲撃魔法が連発に不向きなのに対してドリスの場合は即座に攻撃を行える。



「まだまだですわ、食らいなさいっ!!これが私の奥の手、名付けて螺旋氷弾ドリルガン!!」

「ッ……!?」



氷塊の魔法を発動させてドリスは巨大な「ネジ」のような氷の塊を作り出すと、高速回転させながら解き放つ。それは正に氷の砲弾という表現が正しく、直撃すれば危険だと察したミノタウロスは火炎に包まれた状態で地面に伏せて躱す。


結果的にミノタウロスが回避行動に移った事は間違いではなく、まともに受けていたら致命傷は避けられなかった。但し、射程範囲は15メートル程度しか存在せず、射程圏外へ飛び出すと氷塊は徐々に縮まって完全に消えてしまう。



「くっ……避けられましたわ」

「十分だよ、後は任せて」

「レナさん!?無理はなされない方が……」



ドリス達がミノタウロスの気を引いたお陰でレナはどうにか立ち上がり、両腕を震わせながらもミノタウロスへ向き合う。先ほどのミノタウロスの一撃でどちらの腕も骨に罅が入っており、右腕に至っては今まで愛用していた闘拳が壊れてしまう。


冒険者になった頃から使用していた闘拳が壊れた事にレナは悲しく思うが、同時に激しい怒りを抱く。そして闘拳を壊した張本人であるミノタウロスを睨みつけ、痛む腕を無理やり動かしてレナは魔銃を引き抜く。そして今まで保存していた特殊な弾丸を装填して構えた。



「皆、離れてっ!!」

「ブモォッ……!?」

「や、やばい!!皆、壁際に避難しろっ!!」



レナが魔銃を構えた瞬間、コネコは何をする気か察して全員に避難するように告げる。レナが魔銃を使用する場面を見た事がないナオとドリスは戸惑うが、シノは気絶しているミナの元へ急ぎ、デブリはナオの腕を掴んでミノタウロスから離れる。



「おい、巻き添えを喰らうぞ!!こっちだ!!」

「うわっ!?」

「ミナ、生きてる?」

「ううっ……?」

「良かった、無事だった」



ナオはデブリに引きずられ、シノはミナを抱えると皆の元へ向かう。そして射線上に仲間達がいなくなったレナはミノタウロスを睨みつけ、未だにドリスの銃口を構えた。



「これで終わりだ……牛野郎!!」

「ブモォオオオッ!!」



全身が黒焦げになりながらもミノタウロスの戦意は衰えず、金の戦斧を抱えてレナに向けて駆け出す。だが、先ほどまで圧倒的な威圧感を放っていたミノタウロスに対して怖気ついていたレナだったが、大切にしていた闘拳を破壊されたという怒りで恐怖に打ち克つ。





――レナが装填したのは地属性の魔石を弾丸の形状に変化させた代物であり、魔石に付与魔法を施した場合は本来ならばすぐに砕け散ってしまう。だが、マドウが渡してくれた魔石は最高品質を誇り、非常に頑丈で付与魔法を送り込んでも「破砕」するまでに多少の時間の猶予は存在した。


「魔石弾」と名付けられたこの特殊弾は使い道が非常に難しく、発砲する際は必ず付与魔法を施した直後に撃ち込まなければならない。また、一度付与魔法を施せば途中で攻撃を止める事は出来ず、必ず砕け散ってしまう。


しかし、魔銃から発射された弾丸が障害物に触れた瞬間に途轍もない衝撃波を発生させ、弾丸の破片が周囲へと散らばる。その威力はロックゴーレム程度の魔物ならば一撃で倒すばかりか、体内に潜むミスリル鉱石をさえも「破砕」する威力を誇る。




「くたばれ、化物」

「ブモォッ――!?」



大迷宮内に発砲音が鳴り響き、ミノタウロスの胸元に向けて放たれた弾丸は皮膚に衝突した瞬間、全体に亀裂が走ると内側から「衝撃波」を放つ。その威力は鋼鉄を上回る硬度と耐久力を誇るミノタウロスの上半身を吹き飛ばし、通路内にミノタウロスの肉片と血液が散らばる。


たった1発の弾丸によって大迷宮の「主」といっても過言ではないミノタウロスが吹き飛び、残された下半身は力なく膝を崩すと床に倒れ込む。その光景を見て全員が呆気に取られ、一方でレナの方は黙って魔銃を握り締める腕を見つめていた。



「す、すげぇっ……一発で粉々になった」

「な、何ですか今のは!?信じられない威力でしたわよ!?しかも、それは確か我が家の家宝の魔銃ではありませんか!?」

「す、凄いよレナ君……レナ君?」

「お、おいレナ?どうした、何で黙ってるんだ?」



ドリスはミノタウロスを一撃で粉砕した武器の正体が元々は自分の家に伝わる「魔銃」だと知って驚愕するが、当のレナ本人は黙ったまま動かず、仲間達が心配したように声を掛ける。すると、固まっていたレナは握り締めていた魔銃を手放すと、その場で膝を付いて絶叫した。



「いっ、たぁあああああっ!?」

『レナ(君・さん・兄ちゃん)!?』



両腕の骨に罅が入った状態で反動が強い魔銃を発砲すれば当然無事では済まず、罅どころか衝撃で骨折してしまったレナはその場で悲鳴をあげる。


慌てて仲間達が駆けつけて治療を施すために回復薬を取り出すが、表面の傷ならばともかく骨折となると回復薬でも治療には時間が掛かり、レナはしばらくの間は骨が治るまで腕を動かす事も出来なくなった――

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