第265話 消えた二人
――どうにか痛みが治まるまで落ち着くと、レナ達は早速だがミノタウロスの戦利品である「金の戦斧」を調べる。外面は金で作り出された武器のように見えるが、あれほどミノタウロスに力任せに振り回され、雑に扱われていたにも関わらずに刃毀れも起こしていない。
破損していたとはいえ、レナのミスリル製の闘拳を破壊した時点でただの金属ではない事は明白であり、魔法金属のミスリルを壊せる事が出来るのは同じく魔法金属しか有り得ない。そのために商人であり、様々な知識を持つドリスが調べた結果、予想通りというべきか「金の戦斧」の正体が判明した。
「この斧は恐らくは金だけではなく、複数の魔法金属と構成された合金製の戦斧だと思いますわ!!」
「合金?金だけで出来ているわけじゃないの?」
「はい、恐らくはミスリルか、あるいは別の魔法金属を混ぜて作り出されています。しかもここを見てください、紋章のような物が刻まれていますわ。恐らく、元々はかつて大迷宮に挑んだ冒険者の代物なんでしょう」
「この紋章……あんまり見覚えがないけど、ヒトノ国の物じゃないよね?」
「ええ、きっと
大迷宮の魔物が所持する武器は基本的に大迷宮に挑んだ挑戦者の遺品か強奪品に限られているため、ミノタウロスが所持していた金の戦斧も元々は冒険者の所有物だと考えられた。
ちなみに魔物が所持していた代物は正当な持ち主が存命の場合だとしても魔物を倒した人間の所有物と認められる。これは国で定められた法律のため、元々所持していた人間が返却を要求する場合は回収者と話し合い、それ相応の価値のある金銭か代物を支払う義務が存在する。
但し、ドリスの見立てでは金の戦斧は数年、あるいは数十年前に存在した冒険者組織の物だと思われ、現在も冒険者組織が残っている可能性は低い。仮に所有者が名乗り出たとしても所有権はミノタウロスを倒したレナ達にあるため、遠慮なく受取れる。
「なあなあ、これを売って皆で山分けしようぜ!?こんだけ金ぴかに光ってるなら凄い金になるだろ!?」
「賛成、きっと高く売れる」
「そ、そうだな!!それがいいな!!」
「え~……売っちゃうの?凄い業物みたいなのに……」
「そうですね、僕も勿体ない気がします」
「でも、回収しても扱える人間がいなければ意味はないですわよ?」
「あと、これだけ目立つと逆に目を付けられそうだね、盗賊ギルド辺りから狙われそう……」
金色の戦斧を前にしてレナ達はどのように扱うのか話し合う中、不意にシノが何かに気付いた様に通路を見渡して全員に話しかける。
「……さっき捕まえたあの二人、何処に行ったの?」
『えっ』
シノの言葉に全員が顔を見合わせ、慌ててレナ達は周囲を振り返るが捕まえたはずのゴウとヨクの姿が存在しない事に気付き、どうやらミノタウロスとの戦闘でどさくさに紛れて二人とも逃げられた事を知る――
――レナ達がゴウとヨクが存在しない事にやっと気付いた頃、当の二人は通路を走っていた。どちらも疲れ切った表情を浮かべており、レナ達から大分距離を離れたと判断すると二人はへたり込む。
「く、くそっ……あのガキ共め、外に出たら覚えていろよ!!」
「も、もう無理……走れない、休みましょう」
「甘ったれるな!!早く台座を探して外へ逃げるぞ、こんな所で野垂れ死にたいのか!?」
「わ、分かったわよ!!あんたも声を抑えなさいよ、魔物に見つかったらどうするの!?私、杖も魔石もないから魔法が使えないのよ!?」
「ちっ、これだから魔術師は……!!」
ゴウとヨクは迷宮内に存在する「転移の台座」を捜索しており、彼等は生憎と転移石は持ち合わせていなかった。正確に言えば彼等が連れて来た下っ端の冒険者達が所持していたのだが、その冒険者達もミノタウロスに殺されてしまう。
二人が意識を取り戻したのはレナ達がミノタウロスと交戦を始めた時であり、完全に拘束される前に意識を覚ましたのが幸いして二人は逃げ出す事に成功する。腐っても白銀級と金級の冒険者であるため、レナ達に気付かれずに逃げ出す事は出来た。
しかし、転移石がなければ迷宮からの脱出する方法は迷路の何処かに存在する転移の台座を探し出すしかない。場合によっては遭遇した冒険者から転移石を使用して一緒に連れて帰ってもらうか、あるいは転移石を強奪するしかない。しかし、もしも逃走の際中に魔物と遭遇しようものなら二人は生き残れる可能性は低い。
(なんとしても俺だけでも逃げるんだ……くそ、あの小僧め!!覚えてろよ、次に会った時は必ずぶっ殺してやる!!)
性懲りもなくレナの命を狙う事を決意したゴウはヨクを連れて通路を駆け抜け、曲がり角を通過しようとした時、緑色の壁のような物にぶつかってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます