第263話 ミノタウロスとの攻防

「ブゴォオオオッ!!」

「う、うわぁっ!?」

「デブリ君!!」



ミノタウロスはデブリの脇を掴んで持ち上げると、恐るべき怪力で壁際に向けて叩きつける。強烈な衝撃を受けたデブリは苦痛の表情を浮かべるが、それでもミノタウロスの額に目掛けて頭を振り下ろす。



「このぉっ!!」

「ブモッ!?」



デブリの石頭を額に叩きつけられたミノタウロスは怯み、力が緩む。その隙を逃さずにナオが駆け出すとミノタウロスの脇腹に目掛けて両手を伸ばす。



「発勁!!」

「ブホォッ……!?」

「うわっ!?」



体内に衝撃が走ったミノタウロスは体勢を崩し、その際に両手で持ち上げていたデブリを手放す。ナオはデブリの救出に成功すると拳を握り締めて追撃を行う。


単純な腕力はデブリに劣る彼女だが、打撃力という点に関してはデブリにも負けず、彼女は無駄な力を抜くと拳を握りしめて中段突きを放つ。



「崩拳!!」

「ブゴォッ!?」



脇腹に目掛けてナオが拳を繰り出すと、ミノタウロスは慌てて距離を取り、脇腹を抑えながらナオを睨みつけた。それを見たナオは冷や汗を流し、彼女は先ほどの攻撃はどちらもミノタウロスを仕留めるために全力で打ち込んだ。しかし、ミノタウロスは致命傷どころか痣さえも負っていない。


並の魔物よりも防御力と耐久力が高く、まるで鋼鉄の肉体を想像させるミノタウロスに対してナオは打撃で挑むのを止めて「発勁」で仕留める戦法に切り替える事にした。先ほどの攻撃で発勁ならば肉体が硬くとも内部に衝撃を伝える技なので通用する事は判明しており、隙を伺う。



「くっ……こいつ、よくもミナの姉ちゃんを!!」

「あっ!?駄目!!」

「ブモォッ!?」



しかし、ナオが動く前にコネコが駆け出すと彼女は全速力で駆け抜け、まるで風のような速度でミノタウロスに向かう。本気で動く彼女を止められる物は存在せず、ほんの僅かな時間ではあるがコネコは瞬間加速やスケボに乗り込んだレナよりも早く動く事が出来る。


加速した彼女はミノタウロスに接近すると短剣を構え、その首筋に目掛けて刃を振りぬく。咄嗟にミノタウロスは迫るコネコに手を伸ばそうとするが、それを予測していたコネコは跳躍するとミノタウロスが伸ばした腕を逆に足場に利用して攻撃を行う。



「瞬牙!!」

「ッ……!?」



まるで豹の如く加速した彼女は短剣を獣の牙のように振り翳してミノタウロスの首筋に切りつけた。その光景を見てレナ達はミノタウロスを倒したのかと思ったが、攻撃を仕掛けたはずのコネコの短剣の刃が逆に砕け散ってしまう。



「えっ……!?」

「こ、壊れた?」

「嘘だろおい……これ、ミスリル製の刃なんだぞ!?」

「ブモォオッ……!!」



コネコは握り締めていた刃が砕けた事に動揺を隠せず、こちらの短剣はレナが持ち帰ったミスリル鉱石を利用して作り出された代物であり、普通の金属よりも硬いはずの魔法金属で構成された短剣が壊れた事に動揺を隠せない。


一方でミノタウロスの方は首筋に切り傷が生まれたが血を少し流す程度に留まり、致命傷は避けられた。首元を抑えながらもミノタウロスは立ち止まったコネコに視線を向け、地面に転がっていた自分の戦斧を持ち上げると彼女に向かう。



「こ、コネコさん!!早く逃げてっ!!」

「に、逃げろって……もう足が」

「コネコさん!?」



なりふり構わずに加速した後のコネコは体力を使い果たしてしまい、足が言う事を聞かずにまともに動く事も出来ない。それを見たミノタウロスは彼女に向けて戦斧を掲げながら近付くと、コネコに向けて振り下ろそうとした。


自分に向けて振り下ろされようとする戦斧を見てコネコは咄嗟に瞼を閉じてしまい、ナオは駆け出してドリスは合成魔術を発動させて止めようとしたが、その前にシノが動いてミノタウロスの背後から切りつけた。



「辻切りっ!!」

「ブモッ……!?」



背中に短刀の刃を受けたミノタウロスは背後を振り返ると、攻撃を仕掛けたシノと視線が合い、彼女は自分の攻撃を受けても全くびくともしないミノタウロスに対して冷や汗を流す。


ミノタウロスはコネコを仕留める前に、背中から切りかかったシノに怒りを抱き、先に彼女に向けて戦斧を振り払う。シノは咄嗟に身体を屈めて回避に成功するが、それを予測していたようにミノタウロスは前蹴りを放つ。



「ブモォッ!!」

「紙一重で回避っ」

「いや、凄いなっ!?」



繰り出された前蹴りに対してシノは身体を仰け反って回避を行うと、背中を抑えながら起き上がったデブリが驚愕の声を上げる。その隙にナオはコネコの元へ向かい、彼女を抱きかかえると距離を取る。



「コネコさん、大丈夫ですか?」

「わ、悪いナオの兄ちゃん……ん?兄ちゃん、胸に詰め物でもしてんのか?」

「え、いやっ……そ、そういうわけでは」



コネコはナオに抱きかかえられた時に胸元が妙に柔らかい事に気付き、慌ててナオは誤魔化すように彼女を地面に降ろす。その間にもミノタウロスに対してドリスが勇気を奮い立たせて攻撃を仕掛けようとしていた。

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