第262話 大迷宮の主

「お~い!!兄ちゃん達、無事かっ!?」

「体力が戻った!!もう戦えるぞ……って、終わってる!?」

「こ、これは何事ですのっ!?」



まるで見計らったように冒険者達を倒した直後にコネコ達も駆けつけ、目の前に倒れるゴウとヨクを見て驚愕する。だが、すぐに状況を理解したのかデブリは真っ先にゴウの元へ駆けつけると背中に乗り込む。



「こいつ、さっきはよくも僕の事をオーク呼ばわりしたな!!」

「ぐええっ!?」

「ちょ、デブリさん!!その方、本当に死んでしまいますわよ!?」



デブリの体重によって痛めつけられていたゴウに更に身体の負担が掛かり、苦悶の表情を浮かべて今度こそ意識を失う。慌ててドリスが離れるように告げると、デブリは鼻息を鳴らして気絶したゴウを持ち上げる。


ヨクの方もシノが既に捕縛を行い、彼女の所有する杖も回収して抱え込む。後はこの二人を連れて脱出して突き出せば終わり、早速レナは転移石を取り出して帰還の準備を行う。



「よし、そろそろ戻ろうか。皆、忘れ物はない?デブリ君は水晶札は見つかった?」

「ああ、大丈夫だ。ちゃんと見つけたぞ!!」

「それじゃあ、戻ろうか……あれ?」

「どうかしたのか兄ちゃん?」



転移石を使用する寸前、レナは通路の奥の方から誰かが歩いて近づいてくる事に気付き、最初は逃げた冒険者達が戻って来たのかと思ったがすぐに相手が人間ではない事に気付く。




――通路から出現したのは身の丈が2メートルを超え、牛の頭に人間の胴体のような姿をした異形の生物だと知る。その生物は全身が血塗れであり、肩には先ほどレナ達から逃げ出した冒険者の死体が抱えられていた。




突如として出現した「魔物」に対してレナ達は警戒態勢に入る事も出来ず、その異様な姿と圧倒的な「威圧感」に身体が硬直してまともに動けない。



(何だ、こいつは……!?)



今までにもボア、赤毛熊、ゴーレムといった大柄の魔物と戦ってきたレナにとっては身長が2メートル弱の魔物などの見慣れており、先ほど目の前の生物の倍近くの体型のブロックゴーレムを倒したばかりである。


しかし、生物の異様な外見と人間の死体を運ぶ行動、全身に返り血を浴びた姿がレナ達に恐怖を植え付ける。そして生物はレナ達に視線を向けると、肩に乗せていた死体をごみのように地面に放り捨てた。




――ブモォオオオオッ……!!




通路内に牛のような方向が鳴り響き、レナ達の前に現れた謎の生物は背中に抱えていた「金色に光り輝く戦斧」を抜くと、レナ達に向けて駆け出す。その速度は尋常ではなく、一瞬にして距離を詰めると真っ先にレナに向けて斧を繰り出す。



「フンッ!!」

「っ……!?」

「危ない兄ちゃんっ!!」



身体が上手く動けないレナは迫りくる戦斧に対して反応が遅れたが、後ろからコネコが飛び込んでレナの身体を押し倒したお陰で刃を回避する事に成功する。戦斧はそのまま迷宮の壁に衝突すると、激しい金属音が鳴り響く。


コネコのお陰でどうにか危機は回避できたレナは、戦わねば殺されると判断して身体を奮い立たせる。そして戦斧を構えた生物の正体を見抜く。



(こいつ、絵本で見たことがある……牛と人の化物、ミノタウロスか!!)



レナが子供の頃に愛読していた「重力の勇者」という絵本にも出てきた「ミノタウロス」と呼ばれる魔物を思い出す。レナの目の前に立つ異形の怪物は正に絵本に出てきた生物の外見をしていた。


ミノタウロスは攻撃を避けられた事に驚くが、すぐに目つきを鋭くさせて今度は冗談から戦斧を振り翳す。それに対してレナは咄嗟に両手の闘拳と籠手に付与魔法を発動させて刃を受け止める。



「ブモォオオッ!!」

地属性エンチャント……ぐあっ!?」

「レナ君!?」



攻撃を受け止める事には成功したが、予想以上の重い一撃によってレナは体勢を崩し、地面に膝を付く。その光景を見て他の者達もやっと身体が動き出し、真っ先にミナがレナを救うために槍を突き出す。



「この、離れろぉっ!!」

「フンッ!!」

「えっ!?」



しかし、突き出された槍の刃に対してミノタウロスはあろうことか右手を伸ばして刃を受け止める。普通ならば皮膚が刃に切り裂かれるだろうが、異様なまでに皮膚が厚く硬いのか刃を直で握っているにも関わらずに血が流れる様子も見せない。


咄嗟の事だったので戦技を発動させる暇もなかったミナは慌てて槍を引き抜こうとするが、恐ろしい握力で握り締められているのかびくともせず、逆に槍を掴んでいるミナをミノタウロスは引き寄せる。



「ブモォッ!!」

「かはぁっ!?」

「ミナさん!?」



槍ごと壁に叩きつけられたミナは悲鳴をあげて倒れ込み、それを見たドリスが驚愕の声を上げるが、怒りを抱いたデブリがミノタウロスの元へ突進する。



「このぉっ!!」

「ブフゥッ……!?」



自分に対して飛び込んできたデブリにミノタウロスは戦斧を手放して正面から受け止めると、数歩ほど後退するがデブリの突進を停止させる。互いに組み合う形になったが、純粋な腕力はミノタウロスが勝るらしく、デブリの巨体が持ち上げられた。

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