第261話 王都の金級冒険者の実力

「反発!!」

「ぐあっ!?」

「魔法!?そんな馬鹿なっ!?」



レナが両手から重力で生み出した衝撃波でゴウを吹き飛ばすと、それを見たヨクは動揺を隠せない。通常、魔術師は杖を使って攻撃を行うのが基本のため、闘拳を装備しているレナの事を彼女は勝手に格闘家だと思っていた。


一方で奇襲を受けたゴウの方は派手に吹き飛ばされて壁に叩きつけられ、そのまま床に倒れ込む。その姿を見た他の者達は呆気に取られ、仮にも王都の金級冒険者を吹き飛ばしたレナに焦燥感を抱く。



「そ、そんな……あのゴウさんがこんなに呆気なく!?」

「嘘だ、ゴウさんがやられるなんて……」

「に、逃げろ!!俺達の敵う相手じゃないぞ!!」

「あ、待ちなさい!!何処へ逃げる気よ!?」



恐れを抱いた冒険者達はレナから逃れるために駆け出し、ヨクは引き留めようとしたが、その前にレナ彼女の前に回り込む。



「残りは貴女一人ですけど、まだやりますか?」

「くっ……舐めるんじゃないわよ!!スプラッシュ……!!!」



ヨクはレナに杖を構えると杖先から青色の魔法陣を発現させ、レナは色合いから水属性の魔法を発動させようとしている事を見抜く。


しかし、砲撃魔法が完全に発動する前に彼女の背後からシノが気配も立てずに現れ、彼女の首筋に向けて手刀を放つ。



「当身」

「はぐっ!?」



手刀を受けたヨクは意識を失ったのか魔法を途中で解除して床に倒れ込み、身体を痙攣させる。その様子を見てシノはレナに「ぐっじょぶ」と呟きながら親指を上げ、レナも同じように返す。



「案外、呆気なかったな……さてと、この人達はどうしよう」

「ぐぐっ……ま、待ちやがれ」

「あ、まだ意識が残ってた」



最初にレナに吹き飛ばされて壁に叩きつけられたゴウが立ち上がると、彼は背中を抑えながらもレナを睨みつけ、すぐにシノの足元に倒れているヨクを見て舌打ちを行う。相方が倒されたにもかかわらずに諦めるつもりはないらしい。


盾騎士の職業の人間は身体の方も頑丈らしく、普通ならばレナの魔石で強化された反発を受ければボアであろうと吹き飛ばす事は容易い。また、金級冒険者である以上は装備品も一級品らしく、どうにか気絶を免れたゴウは戦闘体勢に入った。



「よくも相棒をやってくれたな。てめえら、全員ぶっ殺してやる!!」

「しつこいな……いい加減に諦めろ」

「舐めるなガキがっ!!喰らえ、俺様の十字盾を!!」



ゴウは両手に装着した十字架のような形状の盾を高速回転させ、レナの元へ駆け込む。その様子を見てレナは腕に装着された盾に触れるのはまずいと判断して回避に専念する。



「おらぁっ!!」

「おっと」

「このぉっ!!」

「よっと」

「うらぁっ!!」

「何のっ」

「か、華麗に避け続けるんじゃねえよっ!!」



繰り出される攻撃に対してレナは回避を繰り返し、普段からゴウと同じく盾騎士の称号を持つゴロウと訓練をしているお陰でゴウがどのような攻撃を繰り出すのかは簡単に予想出来た。


称号が同じであってもゴウよりもゴロウの方が実力が上である事は間違いなく、レナはゴウがどのように動くのか簡単に見抜き、回避に成功する。ゴウの両腕で回転を行う盾だけは触れるのは気を付けなければならないが、ゴロウとの訓練に比べたらゴウの動作など簡単に避けられた。



「この、くそガキがぁっ!!」

「せいっ!!」

「ぐぇえっ!?」



ゴウが怒りに身を任せて攻撃が単調になった瞬間、レナは鎧越しに蹴りを叩き込む。ミスリル加工が施された特殊なブーツに付与魔法の力が加わり、強烈な打撃を与えられるようになった。


胴体部分を蹴りつけられたゴウは異様な衝撃に耐えきれずに苦痛の表情を浮かべ、そのままへたり込む。子供が繰り出したとは思えない程の強烈な一撃に彼は頭を混乱させ、目の前に立つレナを見上げて呟く。



「お、お前……何なんだいったい……!?」

「……魔法学園の生徒にして辺境の街の白銀級冒険者、といえばいいのかな」

「し、白銀級だと……そんな馬鹿な、俺は金級冒険者だぞ!?たかが白銀級如きに……」

「知らないよそんなの……あんた、はっきり言ってうちのギルドの金級冒険者と比べたら弱すぎだよ」



レナの脳裏に金級冒険者であるバルの姿が思い浮かび、彼女と比べるとゴウはあまりにも弱く、恐らくは王都へ訪れたばかりの頃のレナでも勝てる相手だった。


王都の金級冒険者というからどれほどの実力者かと警戒していたが、実際に戦ってみるとバルやゴロウの足元にも及ばない相手にレナは逆に落胆する。



(こんな奴に金級の階級を与えるなんて……王都の冒険者ギルドはどうなってるんだ)



ルインや盗賊ギルドの一件もあってレナは王都の冒険者ギルドは一切信用できず、まだ意識が残っているゴウに対してレナは手を伸ばす。咄嗟にゴウは瞼を閉じて衝撃に備えるが、レナはゴウの鎧に触れると付与魔法を発動させた。



地属性エンチャント

「がああっ!?」

「おおっ……格好いい」



鎧の重量を加算させる事でゴウは床に倒れ込んで動く事もできなくなり、その様子を見ていたシノが拍手を行う。彼女もなんだかんだで白銀級の魔術師を倒している辺り、補助役以上の成果を上げている。

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