第260話 ミスリル狩りの少年
――仮にこの状況下でレナ達が殺された場合、ゴウが率いる冒険者達の仕業である事を他の人間に見抜かれる可能性は非常に低い。何故ならばレナ達が存在する場所が魔物が生息する「大迷宮」という危険地帯である事が厄介だった。
大迷宮内には危険種指定されている複数の魔物が生息しており、冒険者の死亡率も決して低くはない。仮に死体が他の冒険者に見つかったとしても魔物に殺されたように偽装すれば怪しまれる事は無い。大迷宮での死亡率は決して低くはなく、あくまでも自己として処理される可能性が高い。
「へへっ……という事で命が惜しければオリハル水晶を渡しな。な~に、大人しく渡して俺達の事を黙っていれば命だけは見逃してやる。もしもお前等のどっちかがオリハル水晶を持っていたとしたら今すぐに渡しな」
「断ると言ったら?」
「まずはお前等をひん剥いて仲間の居場所を吐かせる、その後はどうなるか……分かってるな?」
「下手な抵抗は止めておいた方が良いわよ。いくら魔法学園の生徒と言っても、実際の所は全員が魔術師というわけでもないんでしょ?」
ゴウとヨクはレナ達の恰好を見て二人が魔術師ではないと判断したらしく、余裕の笑みを浮かべる。この二人は「盾騎士」と「砲撃魔術師」の称号を持ち、実を言えば相性は非常に良い組み合わせだった。
防衛力に優れる盾騎士は前衛としては非常に優秀な役割を担い、一方で高火力の砲撃魔法で後方支援を行う砲撃魔術師の組み合わせは正に攻防の均等が取れていた。防御力と高火力を兼ね備えたゴウとヨクは非常に厄介な敵である。
――しかし、彼等が相手をする人間の片方はれっきとした魔術師である。しかも魔術師といっても普通の魔術師ではなく、様々な装備を兼ね備えた将来有望の付与魔術師だった。
「あれ、ちょっと待てよ。こいつ何処かで見たような……」
「おい、どうした?」
「いや、このガキの方は顔を見た事があるような……」
「何だと?知り合いか?」
「あっ……ああっ!?こ、こいつ!!もしかして「ミスリル狩り」じゃないですかっ!?」
「ミスリル狩り……だと?」
「何よそれ……?」
「ああ、そういえばそういう風に呼ばれてたっけ」
冒険者の中にはレナの顔を知る人間もいたらしく、荒野の大迷宮に挑む度に必ず大量のミスリル鉱石を持ち帰る魔法学園の生徒の存在はそれなりに有名だった。だが、ここにいるゴウとヨクは最近まで別の都市に遠征しており、王都に戻って来たのは最近なのでレナの噂は知らない。
ちなみに「ミスリル狩り」という仇名は冒険者達が勝手に名付けた名前であり、入手に困難なミスリル鉱石を毎回大量に持ち込むレナの事を何時の間にかそのように呼ぶようになっていた。
レナ本人はこの渾名に対して特に何の感情も抱いておらず、別に他人からどのように呼ばれようと気にしていないが、ゴウとヨク以外の冒険者は慌てふためく。
「こ、こんなガキがあのミスリル狩りだと!?」
「そ、そういえば見たことがあるぞ!!前にこいつがとんでもない大きさのミスリル鉱石を抱えて出てきたのを俺は見た!!」
「ま、まずいですよゴウさん!!こいつ、カーネ商会の稼ぎ頭ですよ!!もしも殺せばとんでもない目になりますって!!」
「馬鹿野郎、今更何を言い出すんだ!?」
レナの正体を知った冒険者達は手を出すのはまずいと判断してゴウを説得しようとする。だが、ここまでゴウがぺらぺらと自分達の目的を話していたのはレナ達を殺して口封じするためであり、今更見逃してしまったら面倒な事になってしまう。
一方でレナの方は隙だらけの敵を見てシノに目配せを行い、今の内に仕掛けるべきか相談を行う。シノの方もレナの考えを読み取ったように頷き、まずはゴウとヨク以外の冒険者を仕留める事にした。
「
「忍法……」
「ちょ、ちょっと!!ゴウ、あいつら何かする気よ!?」
「何!?」
言い争っている間にレナは両手と両足に付与魔法を発動させ、紅色の魔力を宿らせる。その隣でシノは自分の水筒を取り出すと掌に水を流し込む。その行為を見ていたヨクは焦ってゴウに警戒するように告げるが、既に攻撃の準備を整えた二人は動く。
対抗戦の前にレナもシノも共に戦う訓練を行っており、練習通りにまずはシノが相手の隙を作り、レナが攻撃を仕掛ける。最初にシノが行ったのは掌の水を勢いよく加速させてゴウの顔面に叩き込む。
「水弾!!」
「うがぁっ!?めっ……眼球がぁあああっ!?」
「ゴウさん!?」
「いや、何で言い直したのよ!?」
顔面に強烈な勢いで水を叩きつけられたゴウは悲鳴をあげ、顔を抑えて動けなくなってしまう。他の人間と言い争っていたので注意が散漫になっていた事が災いし、平常時なら対応出来た攻撃も防ぐ事も躱す事も出来なかった。その隙を逃さずにレナは接近すると、まずは邪魔なゴウに向けて掌底を放つ。
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