第259話 腐りきった冒険者
「いったいどういうつもりですか!!大迷宮内での争い事も他の人間から素材を強奪する事は規則で禁じられているはずですよ!!」
「おいおい、そう騒ぐなよ。これでも譲歩してるんだぜ、魔法学園の生徒さんよ?」
金級冒険者の男の言葉にレナは怒鳴りつけると、男はわざとらしいため息を吐きながら首を振る。他の冒険者達も男に同調するように口元に笑みを浮かべ、白銀級の女性冒険者が男に話しかけた。
「ゴウ、もういいでしょう?面倒だし、さっさと殺しなさいよ」
「ヨク、お前はいつも面倒になると殺して解決しようとする癖を直せ。悪いな坊主、俺の相棒は血の気が多くてな……」
「殺し……!?」
「レナ、こいつらは私達を殺してオリハル水晶を奪うつもり」
堂々と殺害を要求するヨクという名前の女性冒険者に対してゴウは叱りつけるが、そんな二人の言葉にレナは動揺する。今までに命を狙われた事は何度かあったが、それは相手が盗賊ギルドの刺客や関係者であり、何の関わりもないはずの一介の冒険者から命を狙われた事は無い。
どうやら話を聞く限りでは冒険者達の目的はレナ達を殺してオリハル水晶を奪うつもりらしいが、大迷宮の規則では他の冒険者との争い事は禁じられている。そもそも強奪した所で水晶札を提出する際に国の兵士に彼等がブロックゴーレムを倒していない事に気付かれるはずである。
「俺達を殺してオリハル水晶を奪ってもあんた達の物にはならないだろう!?」
「はっ!!何を言い出すかと思えば……兵士共の検査なんていくらでもすり抜ける方法はあるんだよ!!こっそりと懐に隠しちまえば気付かれる事もなく持ち帰れるんだよ!!」
「……確かに」
大迷宮で得た素材は水晶札と共に兵士に手渡して確認を行われるが、その際に身体の検査までは行われず、密かに服の中に隠せば気付かれる事もなく持ち帰る事が出来る。また、兵士に賄賂を渡して見逃してもらうという方法もあるため、水晶札に所持していない魔物の素材を持ち帰る事は不可能ではない。
以前は念入りに検査が行われていたが、冒険者の数が増えて大迷宮内に挑戦する人間が増えた事で検査に時間が掛かってしまうため、何時の間にか兵士達も簡単な検査を済ませて通す事が通例になっていた。そのせいでレナ達の目の前に存在する冒険者のような方法で素材を運び込む冒険者もいた。
「だけど、オリハル水晶なんてこっそりと持ち出しても簡単に売りさばけるはずがない。商会に持ち込んだとしても必ず出所を調べられる。そうなれば言い逃れは出来ないはず」
「へえ、そこのお嬢ちゃんはなかなか頭が良いな」
オリハル水晶のように非常に希少な鉱石を所持していれば必ず注目を浴びてしまい、何処で入手したのかを問われるだろう。しかし、ゴウは既に買い取り手がいる事を告げる。
「だが、生憎とオリハル水晶を買い取りたいという奴はいくらでもいるんだ。知っているか?この国を裏で支配する組織の事を……」
「まさか、盗賊ギルドに!?」
「そういう事だ。奴等なら貴重な素材ならいくらでも買い取ってくれるからな」
犯罪者集団である盗賊ギルドにオリハル水晶を売り渡すというゴウの言葉にレナは怒りを抱く。どうやら彼等もルインと同じく、冒険者でありながら盗賊ギルドと繋がっているらしい。
冒険者ギルドのサブマスターのルインが失脚しても未だに盗賊ギルドに与する冒険者は多く、しかも金級の階級を与えられた冒険者が盗賊ギルドに協力しているという事実にレナは許せなかった。
「どうしてよりにもよって金級冒険者が盗賊ギルドなんかに……!!」
「……正に冒険者の恥知らず」
「何だとてめえっ!!ぶっ殺されたいのかガキ共!?」
「ちょっと、落ち着きなさいよゴウ!!あんたの方こそ挑発されるとすぐに切れる癖を直しなさいよ!!」
レナとシノの言葉にゴウは激高するが、今度はヨクが呆れたように引き留める。だが、他の冒険者達もそろそろ会話を続けるのが面倒になってきたのか二人に話しかける。
「ゴウさん、もうやっちまおう!!」
「こいつらのせいで二人もやられたんだ、もう殺しましょうよ!!」
「ちっ……馬鹿かお前等は!!このガキ共を殺したら逃げた他の2人が何処に居るのか分からなくなるだろうが!!それにこいつらがオリハル水晶を持っているとは限らねえ……逃げた奴等が持っている可能性がある以上は迂闊に殺せないんだよ馬鹿が!!」
「あっ……そ、そうか」
「すいません!!」
「それにあのブロックゴーレムを4人だけで本当に倒したのか気になるのようね……他にも仲間がいるんじゃないかしら?」
意外と知恵が回るのかゴウの言葉に冒険者達は言い返すことが出来ず、ヨクも補足を行う。二人の言葉を聞いて冒険者達は納得した様に殺気を抑えるが、その様子を見ていたレナは相手がオリハル水晶を見つけ出すまでは自分達を殺すつもりはない事を知る一方、まだドリス達の存在を知られていない事を確信した。
敵の狙いがオリハル水晶なのは明白であり、仮に素直に差しだしたところで自分達の本性を知られたレナ達をゴウとヨクは見逃すつもりはない事は明らかだった。
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