第250話 大迷宮〈煉瓦〉
――レナ達の視界が戻ると、最初に瞳に移ったのは煉瓦の壁だった。正確には壁だけではなく、天井も床も煉瓦によって構成され、大迷宮の名前通りに「煉瓦」の迷宮が広がっている。
天井の高さは10メートル以上は存在し、通路の幅も5メートル以上は広がっていた。レナ達は周囲の光景に驚きながらも全員が存在する事を確認し、ドリスが両手を叩いて全員を呼び集めた。
「皆さん、全員居ますわね!?誰もはぐれていませんね?」
「うん、大丈夫だよ。それにしても……ここだ煉瓦の大迷宮なのか」
「ほ、本当に一瞬で別の場所に移動できるのか……」
「凄い……」
大迷宮に訪れる事自体が初めてのデブリとナオは王都から一瞬にして迷宮に移動した事に動揺を隠せず、レナ達も最初に荒野の大迷宮に入った時も同じ気持ちを抱いたので二人が驚くのも無理はない。
だが、大迷宮は常に警戒態勢を維持しなければならない場所であり、一瞬の油断も出来ない。しかも見晴らしの良い荒野の大迷宮と違い、迷宮という構造上、いつ敵が曲がり角から現れるかもしれないのでより一層に注意して行動しなければならなかった。
「この煉瓦、凄く硬いよ……まるで金属みたい、多分壊すのは無理かもしれない」
「煉瓦の大迷宮を構成する煉瓦は非常に頑丈でしかも下級の砲撃魔法では傷一つ付かない程の魔法耐性を誇ると聞いていますわ。つまり、この壁を破壊する事はほぼ不可能だと考えてください。それに迷宮の構造は一定の周期で変化するようなので地図も作れないそうですわ」
「じゃあ、宛もなく彷徨うしかないのか?」
「そういう事になりますわね……」
「一応は迷宮内の何処に外へ通じる転移魔法陣の台座が存在するけど、見つけ出すには相当な運がないと駄目だから基本的には転移石を使用して帰るしか方法はないと思った方が良いよ」
「もしも危険だと判断したらすぐに転移石を使用して退散した方が良い。命を大事にする」
レナ達は全員が転移石を所有しており、万が一にもはぐれた場合や魔物との戦闘で追い詰められた際は逃げる準備だけは怠らないようにしなければならない。
大迷宮に訪れた時の注意事項の再確認を行うと、レナは背中に背負っていたスケボを取り出して乗り込み、自分が周囲の偵察を行う事を告げる。
「皆はここで少し待っててよ。周辺を偵察してくる、俺のスケボならすぐに戻れる」
「あ、それならあたしも行くぞ兄ちゃん!!あたしの方が目が良いからな!!」
「コネコ、本当はスケボに乗りたいだけでしょ……しょうがないな」
スケボに乗り込んだレナの背中にコネコが張り付き、彼女を背負った状態でレナは皆を待機させると、通路へ向けてスケボを発進させる。道に迷わないように定期的に目印代わりにレナは魔銃を握り締めると壁へ向けて発砲をする。
「コネコ、耳を塞いでいた方が良いよ」
「わわっ……いいぞ、兄ちゃん」
肩車の状態でコネコは耳を塞ぐとレナは弾丸を撃ち込み、壁にめり込ませる。ミナの言う通り、普通の煉瓦ならば貫通する程の威力を誇るミスリルの弾丸だが、煉瓦の大迷宮を構成している煉瓦に対しては先端部分がめり込むだけで貫通には至らない。
マドウから貰った地属性の魔石によって強化された魔銃と弾丸でさえも通じない頑強さを誇る煉瓦に対し、物理的な力で壁を破壊させる事は不可能だと改めて思い知らされる。そしてある程度までスケボを利用して移動を行い、様子の確認を終えるとレナはスケボを旋回してきた道を戻る。
「兄ちゃん、ちゃんと道は覚えてるのか?」
「大丈夫、弾丸の魔力を辿れば道に迷う事は無いから」
迷宮という言葉通り、通路はかなり複雑なので道標を残しておかなければ自分達が何処を通ったのかも分からない程の迷路だった。
何も考え無しで進んでいたらすぐに道に迷うのは間違いなく、移動の際に打ち込んだ弾丸を辿ってレナは元の場所へ戻ろうとする。当然、弾丸の方も回収は怠らず、スケボを利用して通路を進む。
「よし、後はここを通れば元の場所に……あれ?」
「あれ!?兄ちゃん、こっちは行き止まりだぞ?」
しかし、最後の弾丸の魔力を感じ取りながらレナは通路を移動しようとするが、何故か先ほどは通ったはずの通路が壁によって塞がれており、スケボを急停止させてレナとコネコは降り立つ。
「おかしいな……この先に弾丸の魔力が感じるのに」
「兄ちゃん、道間違えたのか?」
「いや、そんなはずはないんだけど……」
行き止まりを前にしてレナは不思議に思い、ここまでの道順は確かに弾丸を道標にして戻る事が出来た。しかし、最初に取ったはずの通路へ戻って来たはずなのに行き止まりとなっており、壁の向こう側に弾丸の魔力を感じとれた。
コネコの言う通りに道を間違えたのかとレナは思ったが、確かに壁の向こう側に一番最初に打ち込んだ弾丸の魔力が感じ取れる。ならば目の前の壁は何処から現れたのかと思った瞬間、レナは左右の壁と正面を塞ぐ壁を構成する煉瓦の大きさが異なる事に気付く。
しかも他の壁はしっかりと天井まで繋がっているのに対し、正面の壁の方は天井まで届いておらず、3メートル程度の高さしか存在しない。
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