第247話 ダリルの苦悩

「ナオはどうしますの?前々から冒険者稼業に興味はある言っていましたよね?」

「そうだね、僕も受けようと思っているよ」

「ミナさんはどうしますの?」

「僕は……いいかな、僕の夢は騎士だからね」

「そういえば前にもそんな事を言ってたな、ミナの姉ちゃんはどうして騎士になりたいんだよ?将軍の娘なんだろ?」



ミナの父親であるカインと、その弟のジオは将軍を勤めており、子供の頃から彼女は二人から指導を受けて槍術を磨いてきた。しかし、当の本人は将軍ではなく騎士を目指しており、コネコが率直に尋ねる。


ちなみにヒトノ国は将軍は兵士を束ねる立場であるが、それとは別に「騎士団」が存在する。騎士団の長は将軍ではなく「騎士団長」と呼ばれ、将軍と同等の権限を与えられた存在だった。兵士ならば称号を持たない人間であろうと入る事は出来るが、騎士団の団員は必ず称号を習得していなければならない。


万の軍勢を指揮するのが将軍だとしたら、騎士団長は少数精鋭の精鋭揃いであり、ミナが憧れを抱いているのはヒトノ国の騎士団の中でも女性だけで統一された「ワルキューレ騎士団」に入りたいという。



「僕の夢はワルキューレ騎士団に入って、国に仕える女騎士として働くのが夢なんだ……実は死んだ母様がワルキューレ騎士団の騎士団長も務めていた事もあるんだ」

「え?ミナの姉ちゃんの母ちゃん死んじゃったのか?」

「うん、僕が小さい頃に病で亡くなったんだ……凄く優しくて、だけど鍛錬の指導をするときは厳しくて、それでも一番大好きだったお母さんだったんだ」



亡くなった母親の事を思い出したのかミナは顔を伏せるが、そんな彼女の方にレナは手を置く。幼少期に養母を失ったレナも彼女の気持ちは良く分かった。



「分かるよ、家族がいなくなるのは辛いよね」

「あ、そっか……レナ君も小さい頃にお母さんを亡くしたんだよね」

「ううっ……」

「いや、なんでデブリの兄ちゃんがもらい泣きしてんだよ」

「それはともかく、コネコはどうするの?」



レナとミナは金色の隼に入らず、デブリとドリスとナオは卒業後に金色の隼の誘いを受ける事に決め、シノは兼業という形で雇えないのか相談するつもりだった。


最後に残されたコネコの方はあまり気乗りしないのか、つまらなそうな表情を浮かべて天井を仰ぐ。そんな彼女の様子を見てレナ達は不思議に思うと、コネコは推薦状をひらひらと揺らしながら告げる。



「卒業後といったらあたしは何年後の話だよ……2年ぐらい?そんな先の事まで考える余裕なんてないっての」

「あ、そうか、コネコの場合はそれぐらい待ってもらわないと駄目なんだよね」

「ははっ、卒業するまでに問題を起こして退学になるなよ」

「あたしがそんなへまをするわけないだろ!!問題を起こしても上手く隠すに決まってんだろ!!」

「コネコさん……それは褒められる行為ではありませんわ。せめて問題を起こさないように気を付けてください」

「おい、お前等……なんか当たり前のように過ごしているけど、ここは俺の屋敷だぞ?」



レナ達が屋敷の居間にて雑談を行っていると、目元に隈を作ったダリルがため息を吐きながら姿を現す。その手元には新聞紙が握り締められており、疲れた表情を浮かべながら座り込む。


ここにいる全員がダリルと面識があり、彼が普段よりも疲れた表情を浮かべている事に心配に思ったレナ達は彼を気遣う。



「あの、大丈夫ですか?顔色が悪いようですが……」

「どこか具合が悪いのでは……」

「ああ、大丈夫だ……と言いたいところだが、正直かなり切羽詰まっている」

「やっぱり、例の競売に出す品物の事ですか?」

「そうだ……これを見てくれ、まだ一週間も経っていないのに新しい新聞が届いた」



ダリルは今日届いた新聞紙を差しだすと、そこには5日後に行われる競売の品物と出品者の名前が記され、ダリルの名前もはっきりと示されていた。但し、ダリルが出品する品物の部分は「未定」と記されていた。



「くそ、新聞記者の奴等にも直訴したんだが、あいつら新聞の内容が過ちだと認めるつもりはないらしい。こうなったらもう、俺の所でも何かを出さないと取り返しがつかなくなる……」

「けど、うちの商会で出せる物といったらミスリルぐらいしか……」

「ああ、ムクチの奴に頼んでミスリル製のアクセサリーでも作ってもらっているが、少し前と比べてミスリルも市場に出回るようになったからな、今更その程度の代物だと見劣りする。かといって他に出せる代物なんてないし……ああ、どうすればいいんだ!!」

「相当に追い詰められてるなおっちゃん……」

「あれ?コネコ、ダリルさんのことをおっちゃんと呼ぶようになったの?」

「もう面倒だからこれからはおっちゃんと呼ぶ事にした」

「そこはせめておじさんと言えよ……いや、やっぱり止めてくれ。俺はおじさんじゃないからな」



他愛のない話をした事で少しは気が紛れたのかダリルは肩の力を抜き、新聞紙に記された内容を見る。案の定というべきか、競売にはゴマン伯爵だけではなくカーネも参加するらしく、出品の方ではカーネは「純金製の女神を象った彫像」を出品するらしい。正に成金という言葉が相応しい品物にダリルは笑ってしまう。

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