第246話 兼業
「そういうデブリ君は金色の隼に入らないの?昨日はあんなに張り切っていたから即答すると思っていたけど……」
「うぐっ……いや、だってお前等が黙り込むから、なんか僕も話しかけにくくて……なんかあそこで僕だけ「入ります!!」なんて言ったら一人だけはしゃいでいる奴のように見られるだろ!?」
「何だよ、そんな事気にしてたのか……別に普通に入れば良かったのに」
「レナ、一つ聞きたいことがある」
デブリの言葉にコネコが呆れる中、シノは真剣な表情を浮かべてレナに振り返る。いつもとは違う彼女の雰囲気にレナは驚くが、ここである事に気付く。
(あ、そうか……そういえばシノはお金を稼ぎたいからここで働いていたんだっけ)
シノがカーネ商会を去ったのはレナが彼女を引き抜いたからであり、毎月に彼女に対してレナは自分の給金から金貨5枚の支払いを行っている。シノはある事情でお金を集めなければならず、そのためにカーネ商会を辞めてレナの元へ訪れた。
しかし、金色の隼が提示した給与はレナが支払う給金よりも多く、場合によっては今よりも何倍も稼げる可能性もあった。彼女は戦闘だけではなく、薬学の知識や様々な技能を身に着けているため、支援役としてはこれ以上に心強い人間はいない。
(シノがいなくなるのは寂しいけど、仕方ないか……お金を稼ぐのは大切な事だしね)
商人のダリルに育てられていたレナはお金の大切さを知っており、ここでもしもシノがダリル商会を辞めて金色の隼に入りたいと言い出しても怒るつもりはない。そもそもシノはダリル商会の人間ではなく、あくまでもレナの護衛役として雇われているに過ぎないのだ。
彼女がここを去るかもしれないのならば仕方ない事だと受け容れようとした時、シノは真面目な表情でゆっくりと口を開く。
「――兼業してもいい?」
「えっ……兼業?」
今までに見た事もない真面目な表情で告げられたシノの言葉にレナは呆気に取られ、他の者達も唖然とする。だが、シノの言葉を聞いてドリスが立ち上がった。
「それですわ!!そう、兼業!!その手がありましたわ!!」
「ど、ドリス!?」
「ああ、私としたことがなんでこんな事に気付かなかったのでしょう……兼業!!そう、難しく考える必要なんてありませんでしたわ!!要は家業と冒険者活動を両立すればいいだけですわね!!」
「ええっ!?ドリス、本気で言ってるの?」
「本気ですわ!!それによくよく考えれば私が家業を継ぐとしてもまだまだ先の話、ならば金色の隼に加入して冒険者として活動を行い、その合間に家業の手伝いをすればいいだけの話ですわ。ああ、これで卒業後の私の人生はバラ色ですわね!!お~ほっほっほっ!!」
「うわ、初めてドリスの姉ちゃんがお嬢様っぽい笑いをするの見たぞ!!」
どちらかを選択すれば片方は諦めなければならないと思い込んでいたドリスだが、兼業ならばどちらも諦める必要はないと悟る。そしてシノの方も自分の雇い主であるレナに聞く。
「私はレナに雇われている立場、だけどお金は欲しい。そこで提案、護衛の合間に金色の隼の仕事を手伝ってもいい?」
「いや、俺は別にそれでもいいけど……金色の隼の人達が何というかな」
「それなら事前に話をしておく。もしも断られたら諦めればいい」
「けど、兄ちゃんに貰うお金より、金色の隼に入った方が給金貰えるんだろ?いや、シノの姉ちゃんがいなくなるのは嫌なんだけどさ……」
「そもそも私は魔物との戦闘には向いていない、偵察や対人戦には自信があるけど、魔物との戦闘では本領を発揮できない。そして金色の隼が冒険者である以上は大半の仕事は魔物の討伐に関する依頼で間違いない……仮に私が金色の隼に入っても活躍できるとは限らない」
忍者であるシノは隠密、偵察は得意とするが戦闘に関しては暗殺や奇襲ならば自信はある。但し、戦闘能力自体はそれほど高いというわけでもなく、魔物等を相手にするときは基本的に他の人間の支援役に徹していた。
例えば彼女は剣は扱っても剣士には及ばず、毒物の類を利用しても魔物の中にはゴーレムのように毒物を一切受け付けない生物は珍しくはない。但し、対人戦の場合はこれ以上に味方として心強い人間はいない。シノの忍者の暗殺技術は対人戦にこそ本領を発揮する。だが、魔物が相手となると彼女の戦法は非常に相性が悪い。
シノの理想としては基本はレナの護衛役を行い、金色の隼からは彼女でも問題なく達成できる仕事を斡旋してもらう。あまりにもシノにとっては都合が良い話だが、別にこの話を金色の隼に断られても問題はなく、その時は普通に諦めればいいだけの話だった。
「レナの許可さえ貰えば私の方で金色の隼と交渉をしておく」
「そっか……まあ、別に好きにしたらいいんじゃないかな。俺も金色の隼が了承するなら問題ないよ」
「という事はシノの姉ちゃんとドリスの姉ちゃんは金色の隼に入るのか……といっても、卒業後の話だろ?別に今すぐ入るわけじゃないんだよな?」
「うん、未成年の冒険者を入れる事は出来ないらしいからね」
「あ、そっか……僕はてっきり学園を辞めて金色の隼に入ると思い込んでた」
ヒトノ国が定めた法律によって未成年の冒険者は認められず、いくら金色の隼であろうとこの法律は無視する事は出来ない。なので魔法学園の生徒が金色の隼に入る事が出来るのは卒業後の話となる。
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