第244話 ナオVSデブリ

「すいません、卒業後は地元に戻るつもりなので残念ですがこれは受け取れません。どうしてもやり残した事があるので……」

「やり残した事?それはいったい……」

「とにかく、今は何処の冒険者組織クランにも入るつもりはありません。これはお返しします」

「……そう、ですか。ですが、考え直してくださるのでしたら冒険者ギルドの方へ何時でも寄ってください。金色の隼は貴方を歓迎します」



頑なに断られたイルミナは仕方なくレナから推薦状を受け取るが、それでも勧誘は諦める意思はないのか最後に言葉を付け加える。レナとしても自分の事をここまで買ってくれるイルミナには悪いと思うが、それでも自分は金色の隼に入れない事を示した。


最も将来的にレナが金色の隼に入る可能性も少なからず存在し、地元に戻って自分の村を魔物から取り戻す事が出来ればレナも王都へ再び訪れる機会もあるかもしれない。最初の頃はバル達も住んでいるイチノ街に戻って冒険者活動を続けるべきか考えたが、こちらにはダリルも存在し、ミナやコネコ等の友人たちも出来た。


過去との因縁に決着を着け、王都へ戻る機会が訪れればその時はレナも金色の隼に入る機会もあるかもしれない。しかし、今のレナは将来の事を考える余裕はなく、まずはマドウとの約束を果たすため、この王都の裏社会を牛耳る「七影」の打倒を心に誓う――






――試験を終えたレナ達は騎士科の訓練場に移動すると、そこではルイの方も試験を行っているのか生徒同士で模擬線を行っており、ナオとデブリが石畳の闘技台でし烈な戦闘を繰り広げていた。



「発勁!!」

「突っ張りっ!!」



ナオとデブリがお互いの掌を突き出したのと同時に軽い衝撃波が発生し、互いの腕が痺れながらも二人は後退する。ナオは驚愕の表情を浮かべ、デブリの方は鼻息を荒くしながらもその場で四股を行う。



「ふうっ……どすこいっ!!」

「くっ……強い」

「デブリの兄ちゃん、負けんなよっ!!」

「ナオ君も頑張って!!」



闘技台には他の生徒も集まっており、既に試合を終えた生徒もいるらしく、ミナは頭に包帯を巻き、シノの方も右腕に包帯が巻かれ、コネコは額に大きめの2枚の絆創膏を「×」の形で張り付けていた。生徒の傍ではルイも立っており、彼女は真剣な表情で闘技台の二人の様子を観察していた。


最初に会った時と比べても雰囲気が一変したルイを見て訓練場に訪れたレナ達は声を掛けられず、他の者と同じく闘技台の二人の戦闘を見上げる。戦闘はナオがデブリに対して攻撃を加えるが、その全ての攻撃をデブリは耐え切って隙を突いて反撃に移る。



「輪脚!!」

「うぐっ……まだだぁっ!!」

「くっ!?」



空中に跳躍したナオが回転しながら踵落としをデブリの右肩に叩き込むが、脂肪と筋肉を見事に一体化させたデブリの肉体には打撃は効果は薄く、逆に下から掌底を繰り出してナオを吹き飛ばす。


攻撃が触れる寸前で防ぐ事には成功したナオだが、予想以上のデブリの怪力に彼女の身体は数メートル先まで吹き飛ばされてしまう。



(なんという打撃……同世代でこれほどの猛者がいるとは思いもしませんでした)

(ここで良い所を見せれば僕も金色の隼に入れるかもしれない!!僕が金色の隼に入って黄金級冒険者になれば家族も皆喜ぶ!!)



デブリは普段の訓練以上に気合を込めて勝負を挑み、授業で何度かナオはデブリと手合わせはした事があるが、今日は一段と強さを増したデブリに戸惑う。



「突っ張り、突っ張り、突っ張り!!」

「同じ技ばかり……何度も通用すると思わないでください!!」

「うわっ!?」



連続で掌底を繰り出すデブリに対してナオは彼が右腕を伸ばした瞬間に腕を絡め、そのまま「脇固め」の要領で押し倒そうとしたが、それは悪手であった。


デブリが腕を極められて倒れそうになった瞬間、彼は両足に力を込めて踏ん張り、逆に腕を絡めてきたナオを押しのけようとした。不利な体勢でありながらデブリは力業で抵抗し、逆にナオが追い詰められる。



「ふんぎぎぎっ!!」

「なっ!?そんな馬鹿なっ……!?」

「力士は、力士以外の相手に地面に倒される事はないんだよ!!」

「うわぁっ!?」



異常なまでの下半身の強さと怪力を利用して逆に腕を振り払ってナオを吹き飛ばし、彼女は闘技台の外まで飛ばされてしまう。どうにか地面に衝突する前に着地に成功するが、それを見たルイが声を掛ける。



「場外!!この勝負、デブリ君の勝利です!!」

「ごっつあん!!」

『おおおおっ!!』

「くっ……お見事です」



デブリの勝利にレナ達も含めた生徒達は湧き立ち、ナオも素直に敗北を認めた。但し、あくまでも彼女は実力で負けたわけではなく、ルイが定めた試合の規則で敗れただけなのでデブリが実力的に彼女より上とは限らない。これが真剣勝負だった場合は結果は変わっていた可能性も十分にあった。


それでも騎士科の生徒の中でも五本指に入る生徒達の実力を把握出来たルイは満足したらしく、レナ達が戻っていることに気付くと彼女は全員を呼び集めた。そして見事に試合を終えた生徒達に賞賛の言葉を贈る。



「ナオさん、デブリ君、見事な試合でした。他の皆さんも試合も立派です。私の見解では皆さんの実力は白銀級の冒険者にも劣らないでしょう」

「へへっ……白銀級か」

「そう言われると悪い気持ちはしない」

「確か、レナ君も同じ階級だったよね!!」



白銀級の冒険者と同等の実力者だと認められたコネコ達は悪い気分はせず、ルイは言葉を続ける。

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