第245話 ルイの勧誘

「お世辞抜きに君たちの実力は既に帝国の熟練兵を上回っていると思います。そこでどうでしょうか?ここにいる全員、金色の隼に入りませんか?」

「全員!?」

「そ、それは本当ですか!?」

「ええ、貴方達の実力はしっかりと見極めさせてもらいました」



まさかの全員を勧誘し始めたルイにレナは驚くが、真っ先に彼女の言葉に反応したのは家庭の事情で金銭をより多く集めなければならないシノだった。



「質問がある、金色の隼に入るとどれくらがい貰える?」

「シノちゃん!?」

「いきなりお金の話かよ……まあ、そこはあたしも気になるけどな」

「コネコ……お前等、正直すぎだろう」

「なるほど、給与が気になるのか……確かに当然の疑問だね」

「そうですね……まだちゃんとした制定はされていませんが、最低でも月に金貨10枚の支援金を約束します」

「金貨10枚も!?」

「支援金?」



金貨10枚となると白銀級の冒険者が毎日働き詰めでも得られるかどうかの大金であるが、イルミナの「支援金」という表現にレナ達は疑問を抱く。普通の給与とは違うのかと聞こうとすると、先にナオが訪ねてくれる。



「その支援金というのはどういう意味ですの?」

「金色の隼の団員は毎月、必ず金貨10枚を支払われます。但し、こちらは給金としてではなく、団員の援助金として支払われると考えてください。分かりやすく言えば働かなくても必ず金貨10枚は支払われるという事です」

「何もしてなくても金貨10枚が支払われるという事か!?」

「はい。勿論、本当に冒険者組織に貢献しない人間がいたらすぐに解雇処分を与えますが、病気や怪我の治療などで仕事に参加できない場合でも毎月支払われます」

「マジかよ……」



金色の隼に入れば必ず毎月金貨10枚が支払われるという話に誰もが驚き、金色の隼の団員である限りは毎月金貨10枚も支払われるという事に驚きを隠せない(最もそれぐらいの金額ならばレナもミスリル鉱石の回収の仕事を引き受けるときに受け取っているのだが)。


シノとコネコは金銭面が良ければ金色の隼に入る事も考えていた。だが、気になるのは肝心の金色の隼の仕事内容であり、レナは質問を行う。



「金色の隼に入った場合はどのような仕事を与えられるんですか?」

「基本的には最初の内は私達の指示に従って、金色の隼が受注した仕事の依頼を引き受けてもらう事になります。最も最初の内は黄金級冒険者と共に行動し、依頼を着実に達成させて評価点を稼ぎます」

「先ほど、支援金という言葉を使ったのは仕事を果たして貰い受ける報酬金と支援金は別枠で取り扱います。つまり、場合によっては仕事を成功させれば毎月に得られる金額も増額します」

「そして最終的には黄金級冒険者へ全員が昇格してもらう事になります」

「僕達が黄金級冒険者に……!?」



金色の隼に入れば自分達が黄金級冒険者になれるかもしれないという言葉に何人かは反応し、最後にルイが言葉を告げる。



「皆さんには黄金級冒険者へなれる素質があると思っています。どうか、私達と共に働き、この国一番の冒険者組織を作り上げませんか?」



ルイは全員に対して微笑みながら答えると、レナ達はその顔を見て黙り込み、最初は断るつもりだった者達も考え込む。想像以上の金色の隼の待遇の良さに心が惹かれるのも無理はない。


結局、この日はルイとイルミナは無理に返事を求めず、騎士科の生徒全員に推薦状を渡す。そして彼女達が戻るとレナ達は学園長の取り計らいで早退し、今日の所は家に戻る事にした――






――自然とダリルの屋敷にレナ、コネコ、ミナ、シノ、デブリ、それにドリスとナオが集まり、渡された推薦状を覗き込みながら話し合う。



「なあ、お前等はどうするつもりだ?」

「……正直、話しが上手すぎて戸惑う」

「けどさ、相手はヒトノ国からも信頼されている冒険者組織なんだろ?なら、嘘を吐くはずがないんだよな……」

「黄金級冒険者か……ちょっと、憧れはあるけど本当に僕達でもなれるのかな?」

「どうでしょうか……ですが、あの方の言葉は不思議と心に響きました」

「ああ、私はどうしたらいいんですの……一人娘である以上、家業を継がなければならないというのに、まさかこんな絶好の機会が与えられるなんて!!」

「皆、落ち着きなよ。ほら、ココアを持ってきたよ」



金色の隼の推薦状を眺めて思い悩むコネコ達に対してレナだけは特に気負う事もなく、皆のためにココアを用意する。他の者が推薦状を前にして思い悩む中、レナは特に意識した様子もなく、ゆっくりと身体を休ませる。


あまりにもレナがいつも通りの態度を貫く様子を見て他の者たちは戸惑い、超一流といっても過言ではない冒険者の組織に入れるかもしれないというのに妙に落ち着いているレナにコネコは不思議そうに尋ねた。



「兄ちゃんは随分と平然してるな、金色の隼に入りたくないの?」

「入りたくないというか、俺の場合は入れないからね。どんな条件を出されようと今の所は金色の隼に入るつもりはないよ」

「勿体ないな……言っておくがな、あの金色の隼だぞ!?この国で一番の冒険者達の仲間入り出来るかも知れないんだぞ!?」

「そういわれても……俺が冒険者になったのは強くなるためで、黄金級冒険者を目指していたわけじゃないからね」



デブリの言葉にレナは困り果て、黄金級冒険者の仲間入りできるかもしれないと言われても、レナの心には響かない。

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