第243話 イルミナの説得

「あの、これお返しします」

「えっ……な、何故ですか!?」

「わっ!?」



羊皮紙を返してきたレナにイルミナは驚愕のあまりに大声を上げてしまい、まさか本当に推薦状を返されるとは思わなかったイルミナは取り乱してしまう。だが、すぐに彼女は自分を落ち着かせると渡された羊皮紙を受け取る。



「し、失礼しました。その、推薦状の内容に何か気になる事がありましたか?待遇が不満ならばもう少し私の方で配慮しますが……」

「いえ、そういう理由じゃないんです。でも、今はすいませんけど他の冒険者集団に入るつもりはありません」

「それでは、単独で冒険者活動を続けると?」



レナが冒険者であるという話はイルミナも聞いており、この街で単独で冒険者活動をし続けているのはレナだけである。


基本的には冒険者は集団で行動を行うのが基本であり、単独で行動するよりも他の人間と共に活動する方が危険が少なく、報酬は分配制になるが人数が多い程に受けられる依頼も多く、極端に利益に差が出るわけではない。




――ちなみにレナが単独で活動を続けるのは王都の冒険者達が信用できない、あるいは反りに合わないという理由ではない。最初に王都に訪れた時に冒険者ギルドとは諍いがあったが、それはあくまでも当時のサブギルドマスターであったルインが居たからである。


ならばどうして単独で活動を続けているのかというと、第一の問題はレナが冒険者になったのは自分の腕を磨くためである。他の人間と力を合わせて戦うよりも自分一人で戦う事で腕を磨き、より強くなるためにレナはイチノ街に居た頃から単独で活動を続けていた。


しかし、現在は魔法学園で指導を受けながら生活しているので冒険者活動を行う際は強くなる事に意識を集中する必要はなくなった。


実際の所、レナが他の人間と協力して冒険者活動を行う事は多い。だが、その相手というのがクラスメイトでもあり、同じ冒険者のコネコや、冒険者ではないが友達として手伝ってくれるミナたちと共に行動する事もあった。最近ではカーネ商会が派遣した冒険者と共に活動する機会も多いが、彼等はあくまでも「荷物持ち」の役割しか担っておらず、一緒に戦う事は殆どない。




王都へ訪れてからレナは表向きは単独で活動を続けている理由は別にそれほど意味はなく、気が合う友達と共に活動する方が楽という理由で他の冒険者と組んでないだけである。これまでに何度か他の冒険者から冒険者集団(パーティ)を組まないかと誘われた事はあったが、それらを断っているのは勧誘を行う冒険者達の殆どがレナの回収するミスリル鉱石の恩恵を自分達もあやかろうとする輩だかであった。



「まあ、別に単独に拘りがあるわけじゃないんですけど……とりあえず、今は何処の冒険者集団に所属するつもりはありません。それに学校の規則で本来俺は冒険者活動を禁止されています。今はマドウ学園長の取り計らいで仕事を引き受けていますが、評価点は貰っていないので昇格試験を受ける事も出来ません」

「そ、そうですか……」



新しい国の法律によって未成年の冒険者は刺客が一時剥奪され、殆どの未成年冒険者は魔法学園に集められて教育を受けている。実際にレナやコネコも冒険者を続けられなくなったので生活を維持するために魔法学園に訪れていた。


今の所はレナだけがマドウの計らいで冒険者活動を再開できるようになったが、他の未成年冒険者に不満を抱かれないために依頼を達成した後に与えられる評価点は得られない。


冒険者が昇格するには一定の評価点を集めなければならず、高額報酬が期待できる依頼を引き受けるには階級を昇格させる必要がある。だが、その昇格に必要な評価点を現在のレナは貰う事は出来ず、現状では昇格試験を受ける事も出来ない。



「金色の隼さんの申し出は有難いんですけど、そういった話は学園を卒業するまではお断りします」

「では、学園の卒業後ならばどうですか?私としてはレナさんの力が最も生かせるのは金色の隼だと断言できます!!」

「う~ん……」



レナとしては遠まわしに相手を傷つけないように断ったつもりだが、イルミナとしてはレナ程の逸材を逃すわけにはいかず、学園に滞在する間は入れないのであればせめて卒業後の進路に口出しする。だが、いくら勧誘されようとレナは今の所は他の冒険者集団に所属するつもりはない。



(……金色の隼に入ったら、多分だけどそう簡単にやめられないしな)



組織に所属するという事はこれまでのように自由に動くことは出来ず、組織の一員として相応の責任を持たなければならない。そこがレナが一番気にする事であり、今のように自由に動けなければレナの掲げる目的に支障をきたす。




――レナが冒険者になった目的は自分の暮らしていた村を魔物達から取り返すためであり、そのためにここまで頑張って来た。しかし、もしも王都を拠点にする金色の隼に所属した場合、レナの目的が果たされる可能性は一気に低くなる。その事が気になってレナは金色の隼に入るつもりはない事をはっきりと告げた。

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