第242話 イルミナの推薦状

見事に2体の人形を破壊する事に成功したレナにイルミナは呆然とした表情を浮かべ、彼女は2体の人形をレナが本当に破壊する事など考えても居なかった。一流と呼ばれる魔術師でも破壊は困難とされる世界樹製の人形を破壊できる生徒が二人も存在した事にイルミナは素直に驚き、同時に強い興味を抱く。


イルミナの推察ではレナもドリスも年齢を考慮してもまだまだ伸びしろが存在し、今後の指導によっては二人とも更に魔法の腕を磨き上げ、いずれは「黄金級冒険者」にも遜色ない魔術師に育つ事は間違いない。それほどの逸材をこのままみすみすと見逃すつもりはなく、イルミナは若干興奮した様にレナに握手を求める。



「……素晴らしい魔法でした。今のが、付与魔法ですか?」

「えっと……まあ、一応は?」



握手を求められたレナは慌ててイルミナの手を握り返すと、彼女はレナの手に触れた瞬間に目を見開く。サブ魔導士と同様に一流の魔術師である彼女は触れただけで相手の体内に所有する魔力量を計る事が出来る。


そして驚く事に既にレナの魔力量は自分と同等か、あるいはそれ以上の魔力を体内に所有している事に気付いた。



(信じられない……この齢でこれほどの魔力量を!?この年齢、いったいどれだけの鍛錬を積めばこれ程の魔力を……!!)



掌に触れただけでレナが尋常ではない魔力を体内に秘めている事に気付いたイルミナは何としてもレナとドリスを引き抜く事を心に決める。



(アルト王子の誕生会の後、既に彼の魔法は大多数の人間に知られている……その中には当然将軍も含まれているはず。それに団長によると、あのジオ将軍の姪と仲が良さげに話していたと言っていた……ならば他の者に抜け駆けさせる前に先手を打たなければ!!)



手を離すと急いでイルミナは自分が持ち運んでいたカバンから2枚分の羊皮紙を取り出すと、レナとドリスに手渡す。



「二人とも、どうかこちらを受け取ってください」

「これは?」

「ま、まさか……金色の隼の推薦状!?」

「おおっ!?」



レナとドリスは羊皮紙を受け取ると、内容を確認するとイルミナが記した「金色の隼」への推薦状が記されており、こちらを提出すれば二人は金色の隼の加入が認められる。


しかれもレナに渡された推薦状には入団すれば相応の地位を与えるという確証まで記されていた。つまり、新人の団員として迎えいれられるだけではなく、幹部とまではいかないが新入団員の中でもそれなりの立場に就く事が保証されていた。



「こちらの羊皮紙を王都の冒険者ギルドの方まで持ち込めばすぐにでも手続きを終え、二人を迎え入れる事を約束します。私の名前を出せば受付の方もすぐに対応するはずですのでもしも金色の隼に入る事を決意してくれたらいつでも着て下さい!!」

「お、お気持ちは凄く嬉しいんですけど……ですけど、私は家業の方が……」

「勿論、ドリスさんの事情も理解しています。しかし、家業を継ぐと言ってもそれはどうしても今すぐに行わなければならない事でしょうか?冒険者として数年ほど活動を続け、今よりも魔法の腕を磨く事に興味はありませんか?それに我が金色の隼は様々な商会と契約を結んでいます。よろしければドリスさんの家の商会とも契約を考慮します」

「金色の隼がうちの商会と!?」



一流の冒険者の集まりである「金色の隼」との契約を求める商会は非常に多く、金色の隼は王都ではカーネ商会としか契約を結んでいない。金色の隼の拠点は王都ではあるが、遠征する事が非常に多いので遠征先の都市や街の商会と契約を結ぶ事が多い。


冒険者というのは非常に一般庶民からも人気が高く、国家からしても彼等は重要な存在である。ましてやヒトノ国一を誇るといっても過言ではない有名な金色の隼と契約を結ぶ事に成功したとすれば商会としては大きな利益を得られる可能性が高い。



「我々は王都ではカーネ商会と契約を結んでいますが、別に独占契約を結んでいるわけではありません。もしもドリスさんの商会と契約を結ぶ事になれば今後はご贔屓させてもらいます」

「そ、それは本当ですの!?いえ、ちょっと待ってください……は、話が早急過ぎて理解が追い付きません!!」

「では、一度帰って実家の方と相談した上で決めてください。今すぐに決断する必要はありません」



これまでのドリスの反応を見てイルミナは彼女が金色の隼に好印象を抱いている事は最初から気付いており、ここまで好条件を付ければ彼女は金色の隼に加入する事は間違いないと確信を抱く。


だが、レナの方は推薦状を渡されても困った表情を浮かべて羊皮紙を見つめ、内容を何度も確認しているのでイルミナは不安を抱いた。



(この街の冒険者ならば金色の隼の名前を出せば尻尾を振ってすり寄ってくる……しかし、彼は辺境の地方から来た冒険者。金色の隼の存在を知ったのも最近のはず、つまり私達がどのような存在なのかを知らない可能性がある?)



王都に属する冒険者ならばイルミナの話を聞けば即決で金色の隼の加入を望むが、王都の外から訪れたレナは金色の隼に対して憧れは抱いておらず、当初の予定通りに断る事に決めた。

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