第241話 レナの実力

(この距離なら魔銃を撃ち込めば壊れそうだけ……ど)



10メートルほど離れたいちに存在する人形に視線を向け、レナほホルスターに収納した魔銃とミスリルの弾丸に視線を向ける。マドウが与えてくれた地属性の魔石のお陰で魔銃の方も強化されており、現在の魔銃が放つ弾丸は荒野の大迷宮の「ロックゴーレム」の岩石の肉体さえも貫通する程の威力を誇る。


武器を使用してもいいとイルミナからの許可は得ており、弾丸を人形に命中させる事は難しくはなかった。日々の訓練のお陰でレナの射撃技術も磨かれ、動かない的ならばいくら盾や鎧を身に着けていようと、盾に当たらずに命中させたり、兜の隙間を狙い撃つ事は容易い。



(けど、一発で壊れるとは限らないな)



レナの魔銃は貫通力に特化している分、散弾銃のように広範囲に攻撃を行えるわけではない。連続で魔銃を発砲すれば人形を壊す事が出来るが、その場合は試験の攻撃の機会が「3回」という制約が厄介だった。


イルミナが連続で魔銃の発砲する行為を攻撃の回数が1回として認識してくれればいいが、1度の発砲につき1回の攻撃と認定されればレナは3発しか弾丸を撃ち込めない。その場合、どちらの人形も破壊は困難に思われる。



(付与魔法を付与して殴りつければ真ん中の人形を壊す事は出来るだろうけど、右側のは難しいな。人形に直接触れて重量を増加させて壊すという手もあるけど、人間相手には使えない手段だからな……どうしよう)



付与魔法は生物には何故か適用されず、仮にレナが人間を相手に付与魔法を施しても効果は発揮しない。原理は不明だが、付与魔法は基本的に無機物にしか施す事が出来ない。


なので人形に対して付与魔法を施す事が出来ても人間相手には通じず、人間と戦う事を想定した訓練なのに人間には通じない方法で人形を壊す行為は無意味だとレナは考えた。



(あんまり考えても仕方ないし、ここは思いっきり殴りつけてみようかな)



深く考えずに全力で殴りつけて破壊する事に決めたレナは準備を整えるために闘拳、籠手、ブーツに付与魔法を施す。



地属性エンチャント

「っ……!?」



全ての装備にマドウから与えられた土属性の魔石が装着されている事により、以前よりも纏う魔力の量が増した事で傍目から見ればレナの装備に紅色の「炎」のような魔力が纏ったように見えるだろう。


イルミナは団長であるルイから聞かされていたレナの戦闘法は「土砂を操作して壁を作ったり、掌から衝撃波のような物を生み出した」という事しか聞いておらず、彼女の想像ではレナが土属性の魔法の使い手だと思っていた。


だが、目の前のレナはまるで炎のような紅色の魔力を身に纏った事で驚き、最初は火属性の魔法を扱ったのかと勘違いしかける。



(事前の情報では地属性の適性しか持っていないと聞いていたのに……いや、あれは火属性の魔法ではない?)



一流の魔術師であるイルミナはレナの発する「魔力」を感じ取り、紅色の魔力の正体が火属性ではない事を悟る。高位の魔術師である程他人の魔力を読み取る感覚も身に着き、イルミナはレナが扱う魔法が本当に地属性の魔力しか感じない事に気付く。



「行きます!!」

「きゃっ!?」

「は、早いっ!?」



ブーツに付与した魔力を利用してレナは瞬間加速を発動させ、魔力を一気に解放する事で重力の衝撃波を生み出して接近する。


一瞬にして距離を詰めると、最初にレナが狙ったのは盾を構えた人形であり、闘拳を装着した右腕を振り払って盾を横へ弾き飛ばす。そして盾を失った人形に対して左手で掌底を放つ。



「反発っ!!」

「これは……!?」



至近距離から左手から放たれた衝撃波を受けた人形に亀裂が走り、止めの一撃を繰り出すためにレナは右手の闘拳に更なる付与魔法を施しながら振り抜く。


右手の闘拳から魔力を迸らせながらレナは人形を殴りつけた瞬間、亀裂が広がっていた人形は粉々に砕け散り、残骸が地面に散らばる。チョウの砲撃魔法が直撃しても壊れる事がなかった人形がたった二回の攻撃で破壊された事に3人は驚き、特にイルミナは唖然とする。



(世界樹製の人形は高い魔法耐性と鋼鉄を上回る硬度を誇る……それにも関わらずにたった二回の打撃で壊すなんて信じられない)



一流の格闘家でもレナのように打撃のみで破壊する事が出来る人間は滅多におらず、恐らくだが国内に存在する格闘家の称号を持つ人間の中でレナと同じ真似が出来る者は1人か2人しか存在しない。さらにレナは残された人形の方に視線を向け、ゆっくりと手を伸ばす。


まだ何かする気なのかとイルミナはレナの動向を見守ると、彼は左手の指先を人形の鎧に触れ、付与魔法を発動させた。



地属性エンチャント



魔法を唱えた瞬間、レナはミスリルの鎧に付与魔法を施して重量を増加させた瞬間、鎧を身に着けていた人形が重量に耐え切れずに震え始め、やがて立つ事も出来ず地面に転倒した。


以前に召喚魔術師のウカンにも利用した方法であり、人形その物に魔法を施す事が出来ないのならば、装備品に魔法を施して動けなくさせれば良い話だった。

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