第238話 3体の人形

「あれは……いつもの訓練用の人形とは違いますわね」

「鋭いですね。お察しの通り、あちらはマドウ学園長に用意して貰った特別製の人形です」

「特別製?」



魔法科の生徒であるドリスは木造製の人形を見て普段の訓練で使用されている物と比べて違う物だと気づき、レナとチョウは気づかなかったが、イルミナによると今回は普段使用されている練習用に人形とは材質が違う物を用意したという。



「この学園では訓練の際は「硬樹」と呼ばれる樹木を加工した人形を利用していると聞いています。確かに硬樹は名前の通りに非常に頑丈な木材で鉄の如く硬く、魔法金属製の道具でなければ加工も難しい素材です。しかし、物理攻撃には強くとも魔法に対する耐性は低いのは知ってますね」

「ええ、授業で習いましたわ」

「んだっ、習ったべ」

「はい」



イルミナの説明に3人は頷き、学園で利用されている訓練器材の説明は最初の授業の時に聞いていた。しかし、今回用意された人形に関してはイルミナがマドウに頼んで用意して貰った特別製の人形だと説明した。



「こちらの人形は硬樹ではなく、世界樹と呼ばれる樹木を利用しています。名前は聞いた事がありますね?」

「世界樹!?この世界で最も大きい大樹ですの!?」

「伝説の聖剣の素材にも扱われて、樹液は精霊薬にもなるというあの有名な大樹だべか!?」

「ええ、数が稀少なので滅多に市場にも出てきませんが、魔法耐性が高く、硬樹以上の硬度を誇る樹木です」

「そんな稀少な物を訓練のために……?」

「必要な事ですから……それに世界樹といっても加工法によって性能は大きく変わりますけどね」



マドウに頼んで貴重な世界樹の木材を利用して訓練用の人形を作り上げ、魔法学園の生徒の力を計るために用意させたというイルミナにレナ達は驚かされる。それと同時に金色の隼がどれほど魔法学園の生徒に期待を抱いているのかが伺えた。


一番手を名乗り出たドリスは世界樹で構成された木造人形に視線を向け、彼女も緊張を隠せないのか汗を流す。何しろ普段の訓練で利用する人形とは異なり、伝説として語られている聖剣の素材としても利用されているという木材で構成されていると知れば緊張は隠せない。



「……試験は、あの人形を破壊すればよろしいのですか?」

「ええ、破壊できればですが。それと、攻撃の機会は3回までとします。つまり、各人形ごとに魔法を放つか、あるいは1つの人形を集中的に狙って破壊するか、よく考えて挑んでください」

「ふふっ……面白いですわ。では、行きます!!」

「ちょっと待ってほしいだ!!あ、すいません……少し時間を貰ってもいいだか?」

「え?まあ、別に構いませんが……」

「ふ、二人とも少しいいだか?」

「え?急にどうしたのチョウ君?」

「チョウさん?」



ドリスが魔法を発動する直前、チョウが手を上げて割って入り、唐突な彼の行動にレナ達は驚くがチョウはドリスとレナに手招きを行う。


今までは比較的に大人しくしていたチョウがいきなり呼び出した事にレナとドリスは驚くが、彼は二人を呼び寄せると不安そうな表情を浮かべ、本気でこの試験を受けるつもりなのかを問う



「なあ……二人とも、あの人形を破壊できる自信はあるか?」

「何を言ってるんですのチョウさん、こうなったら全力で魔法を浴びせるしかありませんわ」

「けどよう、左側の人形はともかく、真ん中と右側の人形は盾と鎧まで身に着けているべ?あんなのどうやって壊すんだべ」

「それぐらいなら私の初級魔法でどうにでも対処できますわ!!」



ドリスは武装した状態の人形であろうと自分の初級魔法ならば対応できるという自信があるが、チョウは彼女のような自信はないのか、大きなため息を吐き出す。



「ドリスさんは本当に凄いな……おらは合格する自信がない、だけどせめて二人のために手伝わせてほしい」

「手伝う?それはどういう意味ですの?」

「おらが砲撃魔法で人形を攻撃して、出来る限り痛めつけておくべ。その後に二人の番が来たときに人形が壊れやすい状態にしておけば、もしかしたら二人とも合格できるかもしれないべ」

「チョウさん、貴方……!?」

「元々、おらは金色の隼には入れない。魔法学園を卒業した後は実家の豆腐屋を継ぐつもりだからな、だからせめて二人が金色の隼に入れるように協力するだ!!」

「えっ……実家、豆腐屋なの?」



自分は合格する自信がなく、仮に合格しても金色の隼に加入する事が出来ないと悟ったチョウはそれならば二人のために少しでも役立つために試験を受ける事を告げる。


チョウは気合を込めるように頬を叩くと、あまりに力が強すぎて頬が真っ赤に染まってしまったが、彼は緊張気味にイルミナに声を掛け、自分が最初に試験を受ける事を告げた。



「い、イルミナ先生!!おあが一番に試験を受けるだ!!」

「せ、先生?まあ、構いませんよ」



先生と呼ばれた事にイルミナは反応に困るが、チョウの提案を受け入れる。ドリスとレナはチョウを心配するように視線を向けると、彼は二人に頷く。そして杖を取り出すと、人形に向けて標準を定める。


魔法学園の大半の生徒は火属性の魔法を得意とするが、これは種族的に人間が火属性や風属性の適性が高く、逆にその他の属性は適性が低いためであった。しかし、チョウの場合は雷属性の魔石を杖に装着しており、魔法陣を展開すると人形に向けて雷の如き電流を解き放つ。



「ボルト!!」

「うわっ!?」



以前にレナはムノーや盗賊から受けた雷属性の砲撃魔法をチョウは発動させ、彼の狙いは最も防備が薄い左側の木造人形だった。

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