第237話 魔物の増加

「では、次はこの学園で優秀な魔術師と見定められた貴方達の実力を計らせてもらいます。訓練場に案内して貰えますか?」

「えっ……?」

「そ、それはどういう意味ですの?」

「おや、マドウ学園長から話を聞いていないのですか?私達の目的は魔法学園の視察と、現時点の魔法学園の生徒の実力を把握するために訪れました」

「生徒の実力を把握……?」

「分かりやすく言えば勧誘です。金色の隼は現在、深刻な人手不足に陥っています。なので私達は優秀な人材を探している……そして王都内で最も将来性の高い子供達が集まっているこの学園に訪れました」



イルミナは金色の隼の本来の目的を包み隠さず話し、真実を伝える事でレナ達に自分達がどれだけ優秀な人材を欲しているのかを示す。



「金色の隼は黄金級冒険者の集まりでしたが、そもそもヒトノ国内で黄金級に至った冒険者は非常に少なく、せいぜい10名程度しか存在しません。しかし、最近では魔物の被害が多発しており、この王都の周辺でも魔物の数が増えてきているという報告があります。魔物が急激に数を増やしている原因は今の所不明です」

「じゃ、じゃあ……イルミナ副団長がここへ訪れた理由はなんだべ?」

「先ほど言った通り、金色の隼は優秀な人材を欲している……それは最早冒険者に拘らず、冒険者ではない人員の募集も行う予定です。つまり、私達は魔法学園の生徒さんを勧誘するために訪れたという事ですよ」

「な、なら!!私も金色の隼に入れる可能性もあるんですの?」

「ええ、私の目に見合えば……の話ですが」



ドリスが興奮した様子でイルミナに尋ねると、彼女は微笑するがその目元は明らかに笑っていなかった。どうやら本気で彼女はレナ達の実力を計り、金色の隼に相応しい人材かどうかを見極めるために訪れたのだろう。


彼女の目に見合う実力を発揮すれば金色の隼に入れるかもしれないという話にドリスもチョウも意識せずにはいられなかったが、レナとしては金色の隼にあまり興味はない。だが、一流の魔術師に現在の自分の実力を確認してもらう機会は滅多にないため、この際に全力を尽くす事を決めた。



「ですが、その前に私自身で皆様の実力を確かめさせてもらいます。既に学園長は許可を得ていますので、魔法科の生徒の訓練場にて貴方達の魔法を見せて貰えますか?」

「魔法を?」

「はい。付与魔法も初級魔法も砲撃魔法も問いません、自分が最も得意とする魔法を見せてください。ちなみに私達は国王様の命を受けており、魔法学園の調査を依頼されています。なので勧誘に関係なく、皆さんの他の生徒の魔法の訓練を拝見します。ですが、時間的に先に貴方達の魔法を見せてもらいたいのです」

「そ、そういう事でしたら断れませんわね」

「国王様が……お、おら、頑張るだ!!」

「分かりました。準備します」



イルミナが国王の名前を出すとドリスもチョウも緊張し、急いで自分の教室に戻って準備を行う。レナも事前にマドウから報告を受けていたので今回は装備一式を教室に持ち込んでおり、準備を急ぐ――






――魔法科の生徒の訓練場は校舎の屋上に存在し、建物の破壊を防ぐために屋上には「結界石」と呼ばれる特別な魔石が設置されている。この魔石は外部の侵入者を防ぐために作り出された魔道具でもあり、結界石を発動させると緑色の障壁が発生する。


結界石の障壁は物理攻撃を完全に無効化し、魔法に対する攻撃にも強い耐性を誇る。使用者の任意で発動する事が出来るが、扱えるのは魔術師だけであり、普通の人間は使用できない。


また、結界石は使用者の魔力を吸収して障壁を生み出す性質を持ち、使用者の魔力が底を尽きれば自動的に解除されてしまう。


魔法科の生徒が訓練を行う時は教師が数名で結界石を発動させ、交代制で結界を維持するのだが、イルミナはたった一人で学園の屋上全体を覆いこむ結界を一人で構築させた。



「シールド!!」



イルミナが屋上に設置された台座に手を伸ばし、台座に埋め込まれている緑色の魔石に言葉を呟いた瞬間、学園の屋上に緑色の障壁が取り囲み、外部から完全に隔離させる。障壁は屋上を取り囲むだけではなく、床にも広がっているので間違って地面に魔法を暴発させて建物が崩壊するという危険性はない。


たった一人で屋上全体に障壁を発生させたイルミナの魔力にレナ達は驚かされるが、彼女は台座から手を離すと何事もなかったようにレナ達に振り返る。



「これで30分程は校舎が壊れる心配はありません。では、最初は誰が魔法を見せてくれますか?」

「す、凄い……魔法腕輪の補助も無しにこれ程の結界を生み出すなんて……」

「これが、黄金級冒険者の実力……凄すぎるっぺ!!」

「うん、そうだね……」



チョウの訛りが突っ込めない程にイルミナの力を見せつけられたレナ達は唖然とするが、最初は誰が彼女に魔法を扱うかに関して決めなければならず、最初に挙手したのはドリスだった。



「では、ここは魔法科の生徒代表として私が一番手を勤めますわ!!」

「分かりました。では、あの訓練用の人形を相手に魔法をお願いします」



ドリスの言葉にイルミナは頷くと、彼女は10メートル程離れた位置に存在する訓練用の人型の人形を指差す。


ドリスの視界には木造製の人形が横一列に並び、左端は何も装備しておらず、中央はミスリル製の盾を構えた状態で立っており、右端の人形はミスリル製の鎧を身に着けた状態だった。

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