第234話 丸薬

「その薬というのが、これです!!」

「……何だそれ?」

「青い、豆?」

「違いますよ!!これこそが私の開発した新薬「魔丸薬」です!!」



アイラが取り出したのは1センチ程度の大きさの青色の「丸薬」だった。彼女は小瓶の中に入れて収納しているらしく、この丸薬を飲むだけで魔法の効果を飛躍的に上昇する事が出来るという。



「驚かないでくださいね、この丸薬を飲めば数分間の間は魔法の力が高まるんです。その効果はなんと驚きの1.2倍!!」

「微妙だなおい!?」

「何を言いますか!?1.2倍ですよ!!普段の自分の5分の1も強化されるんです!!素晴らしい効能でしょう?」

「そ、そうですね……」



効果時間は数分、しかも魔法の力も5分の1程度しか上昇しないという丸薬にレナはどのように反応すればいいのか分からず、デブリは呆れた表情を浮かべる。


だが、そんな彼等にアイラはわざとらしくため息を吐きながら説明を行う。様々な実験を繰り返し、ようやく完成させた自分の薬の素晴らしさを他の人間に語らずにはいられないという様子でアイラは効能の素晴らしさを説明する。



「全く、御二人は全然わかってませんね。この薬の恐ろしさが……1.2倍とはいえ、これを飲むだけで強くなれるんですよ?もしもこの丸薬をマドウ大魔導士が飲めばどうなりますか?それにもしも100人の人間がこれを飲んだ場合、彼等が魔法を扱う時は120人の分の戦力となるわけです。この意味が分かりますか?」

「「あっ……」」



アイラの言葉にレナとデブリは声を上げ、確かに薬を飲む者によってはその効果は大きく変化する。例えばマドウのような凄まじい魔法の使い手が飲めば元から凄まじい威力を誇る魔法が更に強化されることを意味した。また、使用者の数が多ければ多いほどに効果の方も馬鹿には出来ない。


薬の使用者によっては能力の強化の幅が大きく異なり、このアイラの丸薬は王都中の魔術師の話題となった。評価は賛否両論だったが、結局は大魔導士のマドウが魔丸薬の研究を続ければ今以上に魔法の力を強める薬品の開発に繋がるかもしれないと判断し、アイラの解雇は免れたという。



「今現在は確かに効果もしょぼいですし、副作用の問題もありますけど、この研究は決して無駄ではありません!!ですが、王城の素材を使いこまれるのは困るという事で私は魔法学園の転属を言いつけられ、ここで生徒達の治療を行いがてら研究を続けているんです」

「え?ちょっと待ってください、副作用って何ですか?」

「ああ、別に対した事じゃありませんよ。この丸薬は一気に大量に飲み込むと体内の魔力の流れが乱されて魔法が使えないという程度の副作用です。要するに1粒のんだ後、効果が切れる前に薬を服用するとしばらくの間は魔法が使えないというだけです。勿論、最初の投与で2つ以上飲み込んだ場合も同じ結果になりますけど」

「そんな副作用があるんですか!?」

「まあ、要するに薬を飲み過ぎなければ大丈夫という話ですよ。まだ試作品ですけど、良かったらレナさんにも上げますよ。あ、使った時は感想を教えてくださいね。研究のデータとして参考にさせてもらいますから」

「とんでもない女だなこいつ……」



あっさりと試作品の薬品をレナに手渡すアイラにデブリは呆れてしまうが、アイラの治癒魔導士としての腕は確かであり、その後に彼女の回復魔法を受けたデブリは完治する――






――デブリの治療を終えた後、レナは先に校門に向かったコネコ達と合流し、事情を話す。コネコ達はレナが遅れてきた理由を知って驚き、同時にフンガに対して激しく憤怒する。



「何だよそれ!!不意打ちで襲ってくるなんて魔術師の風上にも置けない奴等だな!!」

「コネコさんの言う通りですわ!!すぐにこの事を先生方に報告しましょう!!」

「あ、その点は大丈夫です。一応、医療室に勤務している治癒魔導士の先生が知り合いだったんで伝えてます」

「え、そうなの?」

「それに俺の方もちょっと問題起こしちゃったし……今日の所は悪いけど、大迷宮の探索は手伝えないかな」



スケボを教室から呼び寄せる際に校舎内の窓ガラスを割った事を謝罪するため、レナはこれから学園長室に向かう事を伝える。もしかしたらスケボが窓ガラスを破壊する際に他の生徒に見られている可能性もあるため、隠し立ては出来なかった。


レナは申し訳ないが今回は煉瓦の大迷宮の探索は付き合えない事を伝えると、コネコ達の方もそんな事情ならば仕方ないと納得する。



「兄ちゃんが行かないならあたしも行かないぞ。一緒に学園長に謝ってくる」

「レナがいないとなると、戦力が落ちて大迷宮に挑むのは危険過ぎる。今日は止めた方が良い」

「そうですわね……私のクラスメイトが迷惑を掛けた以上、私も一緒に謝罪しますわ」

「え?いや、ドリスさんは悪くないんだし……」

「いえ、そういうわけには参りませんわ!!クラスメイトの暴走を止められなかった以上、私にも責任があります!!共に行きましょう!!」

「ドリスはこういう所は真面目だよね……なら、僕も同行します」

「それなら僕も一緒に行くよ!!」

「当然、僕もだな……被害者としてレナが悪くない事を証言しないとな」

「……なんか、今更だけどあたし達の中で「僕」っていう奴多くね?」

「そ、そうかな?」



コネコの言葉に言われてみればミナもデブリもナオも一人称が「僕」である事が判明し、性格は全然違う3人なので間違えることはないが、多少ややこしいのは事実だった。

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